炭素繊維分野にカーボンナノチューブが進出か?

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CNT

炭素繊維カーボンナノチューブCNT = Carbon NanoTube)は共に炭素系の類似構造を有していますが、現時点では、用途面で棲み分けが出来ているように見えます。
しかし、この状況が変化するかもしれません。

1.炭素繊維とカーボンナノチューブ

表1は炭素繊維とカーボンナノチューブを比較したものです。

炭素繊維がミクロ的にはグラファイト構造を持つことはご存じかと思います。
CNTはこのグラファイトを折り曲げて閉じたような直径がnmオーダーの円筒状材料です。CNTは密度がアルミニウムの半分で、強度が鋼の約20倍です。また銅の1000倍以上の電流密度耐性を備えています。CNTには単層のものと多層(二重以上)のものが存在し、現在生産されているのはほとんどが多層のものです。

炭素繊維は、商業生産開始時期の点でも生産量の点でもCNTの先輩格であり、プラスチック等の補強材として幅広い分野で使用されています。
これに対して新参のCNTは、その導電性の高さを活かして、リチウムイオン電池等の導電助剤として使用されています。現時点で、CNTは補強材としては使用されていません。

炭素繊維とカーボンナノチューブの比較
【表1 炭素繊維とカーボンナノチューブの比較1)2)
※CNTの単層・多層の各画像は 3)より引用

 

2.CNTが補強に使用されていないのは?

CNTが、炭素繊維とは異なり、補強材として使用されていないのは何故でしょうか?
それは両者の長さに原因があります。

炭素繊維は生産可能な長さに上限はありません。長さ数百メートルの炭素繊維の製造も容易です。

これに対してCNTの長さは通常は数十μm程度、比較的長いものでも最大で数百μm程度です。長さが1㎜にも満たないため、通常の強化繊維としての利用が出来なかったのです。

 

3.CNTの繊維化 住友電工の挑戦に注目

しかし住友電工らが開発した技術により、この状況が一変するかもしれません。

住友電工は筑波大学との共同研究の中で、長さが数cmという、従来品を大きくしのぐ長さのCNTが形成できるとの基礎的知見を見出し、これをNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)プロジェクトの中で発展させました4)。同社はこの長いCNTの実用化に向けて検討を進めているようです。

 

住友電工によるCNTの製法は?

同社の製法はCVD(化学気相成長)であり、既存製法の範疇に入ります。
では、どこが従来法と異なるのでしょうか?
同社は自社の製法が図1に示すものだと報告しています5)

図1の左から右に原料のメタンガスをキャリアガスである水素ガス共に流し、触媒の鉄ナノ粒子の存在下で約1000℃の高温におき、右側の出口からCNTを回収する点までは従来法と共通です。
しかし同社法では、加熱炉内にセラミックハニカムを設置し、原料流にこのハニカムを通過させます。則ち、原料流が狭い空間を通過するように制御します。
この点が従来法と異なっており、cmオーダーの長さのCNTが製造可能となります。

 

住友電工によるCNTの製法
【図1 住友電工によるCNTの製法 ※同社技術論文誌5)より引用】

 

その理由について、同社は「触媒ナノ粒子と共に成長中のCNTは高速のガス流に乗って狭小流路を流れつつ成長するため、流れ方向と垂直方向に存在する、大きなガスの速度差により引張応力が与えられ」るからだと説明しています。なお、同社はこのCNTの製法に関する特許を筑波大学と共同出願しています6)

 

CNT繊維の性能

住友電工は同社法のCNTに関し、その集合線(図1で、ハニカムを通過して形成された繊維の集合体)の引張強度として6GPa以上の値が再現性良く得られたとしています5)
市販の炭素繊維の引張強度は3-7GPaの範囲にありますので、非常に有望な値と言えます。

また、曲げると破断しやすい炭素繊維とは異なり、曲げ破断がおきず、釣り糸結びのようなことも可能だとしています。炭素繊維がカバーできなかった分野でも補強材として機能する可能性があります。

 

4.今後のCNT繊維の展開

CNTを強化繊維として利用する検討はまだ初期段階です。
今後は、国内外の他社・他研究機関も参入して、研究開発が活発化するものと予想されます。
 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)

 


《引用文献・参考文献》


 

 

 

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