【早わかりポンプ】ポンプのラジアルスラスト/軸スラスト
運転中のポンプには、軸直角方向(ラジアル)と軸方向(アキシャル)、2種類の推力(スラスト)が作用します。
今回のコラムでは、渦巻きポンプのラジアルスラスト(radial thrust)と、片吸込クローズ羽根車の軸スラスト(axial thrust)について解説します。
1.渦巻きポンプのラジアルスラスト
渦巻き室の役割は、羽根車から出た水の速度エネルギの一部を圧力エネルギに変換することです。
設計流量Qnでは、渦巻き室各断面の流速は一定となり、減速により変換された圧力もバランスするため、付加質量(羽根車の自重)以外のラジアルスラストは、理論上は発生しません。
しかし、流量が設計点から離れるにつれ、渦巻き室内の流速分布には差異が生じるため、圧力にも不均衡が生じて、ラジアルスラストが作用するようになるのです。
設計流量より小流量の場合と大流量の場合で流速分布(圧力分布)の様相は異なり、下図のような関係になります。
渦巻き室を180度対称に2つ設けた「ダブルボリュート」構造とすることで、ラジアルスラストを各方向で互いに打ち消し合って、ラジアルスラストバランスを達成することができます。
ただし構造が複雑となり、製造コストも上がるので、ある程度以上圧力の高い場合に採用します。
2.片吸込みクローズ羽根車の軸スラスト
羽根車には、自らが作り出した圧力の反力が軸方向にもスラストとして作用します。
片吸込み羽根車では、入り口側は水を吸い込むために大きく開口していて裏側に比較して吸込み圧(低圧)が作用する領域の面積が広く、図のように赤色のドーナツ状の領域には高圧側と低圧側の差圧に基づく力が作用するため、図の緑色矢印の方向(羽根車の背面側から吸い込み口側へ向かう方向)に軸スラストが作用します。
羽根車の作り出す圧力が高くなると、軸スラストも大きくなり、スラスト軸受にかかる負荷が大きくなるので、何らかの方法により軸スラストをバランスする必要が出てきます。
単段羽根車のポンプで多く採用されるのが「バランス穴方式」です。
これは羽根車の主板に複数の穴を設けて、穴より外周側に高圧部・低圧部の境界となる摺動面を設けて、羽根車前後の圧力分布を均一化することで軸スラストバランスを図るものです。
多段ポンプの軸スラストバランス
段数が複数になるとポンプが作り出す圧力も大きくなり、構造的に軸スラストのバランスを図ることが重要になってきます。
多段ポンプの軸スラストバランスを図る方法には、二つの方法があります。
① 背面合せ
羽根車を半数ずつ背面合せに配置して、各羽根車に発生する軸スラストの方向を逆向きとして互いに打ち消す構造です。
バランススリーブという部品の右側の部屋を吸込み側へ連通して吸込み圧とすることで、(中央段+最終段)羽根車に作用する差圧とバランススリーブに作用する差圧が等しくなり、合計スラストをバランスすることができます。
羽根車を半分ずつ、背面に配列するため、中央段羽根車出口から次段羽根車入口へ連絡する通路(長段間通路)が必要となり、ケーシング形状が複雑となります。
② バランスディスク
全羽根車を一方向に配列する場合、羽根車に作用するスラストは段数に比例して大きくなるため、バランス装置が必要になります。
次記の図はバランスディスク方式と呼ばれる構造です。羽根車とともに回転するバランスディスクと、ケーシング側に固定されるバランスシートが狭い隙間Cbで対峙します。(隙間Cb:具体的には0.1mm程度)
バランスディスクは、下流側を吸込み室へ連通することで下流側圧力が吸込み圧力に等しくなります。(水温上昇と飽和蒸気圧力の関係を考慮して若干の背圧を持たせる場合あり)
バランスディスク上流の中間室圧力Pbと下流の吸込み圧(低圧側圧力)との差圧に、バランスディスク摺動面の面積を乗じた力Fbが右側へ作用し、これが羽根車スラストF-impと釣り合うことで軸スラストがバランスします。
ある平衡状態から運転流量が変わり、羽根車スラストF-impが変化して[F-imp>Fb]となった場合、ポンプ回転体は図の左方向へ動きます。すると隙間Cbが狭まるため中間室圧力Pbが大きくなり、Fbが大きくなって、再び[F-imp=Fb]となって平衡します。
F-impが小さくなった場合は、回転体は右へ動き、隙間Cbが広がって中間室圧力Pbが低下してFbが小さくなり、同様に[F-imp=Fb]となった時点で平衡します。
この原理によりバランスディスク構造においては、運転中常に軸スラストはゼロとなります。
組立時にバランスディスクとシートの隙間を適正に設定する力量が必要です。
ポンプには、ラジアルスラストを支えるラジアル軸受と、軸スラストを支えるスラスト軸受が装着されます。
しかし、軸受荷重を軽減して、適正な軸受寿命とするために、両方向のスラストを低減する工夫が必要となります。特に高圧ポンプの場合に重要となります。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・Y)