【早わかり電子回路】パルス発生回路とマルチバイブレータ
1.パルス発生回路とは?
パルス発生回路は、その名の通りパルスを発生する回路です。
デジタル回路は、“1”か“0”(ハイかロウ)のパルスで構成されているので、パルス発生回路が必要です。
基本的には、発振回路でパルスを作成することも多いですが、今回はマルチバイブレータ回路と呼ばれる回路について説明します。
2.マルチバイブレータ回路
デジタル回路では、方形波がよく利用されます。
マルチバイブレータ回路は、方形波などのパルスを出力する回路で、非安定型、単安定型、双安定型の3種類に分類できます。
いずれの回路も、コンデンサの充放電現象と、トランジスタのスイッチング作用を利用しています。
では、これらの3種類について詳しくみていきましょう。
(1)非安定マルチバイブレータ
「非安定マルチバイブレータ」は、単独で方形波を連続的に発生する回路です。
図1は、非安定マルチバイブレータの回路と動作を説明する図です。
トランジスタと抵抗、コンデンサによって、構成されています。
【図1 非安定マルチバイブレータの回路と動作1】
図1において、電源を入れた直後、Tr1がONでTr2がOFFの状態と仮定します。
トランジスタは、同じ型番でも、厳密には実際の特性が少しずつ異なります。
それで、感度の良いトランジスタのほうが先にONとなります。
① 電流は、電源からR1を通ってTr1のベースに流れ、Tr1は、ONになります。
② Tr1がONなので、OUT1は、グランド電位と同じになり、C2は放電状態になります。Tr2のベースは、C2が放電中のため、Tr2は、OFFとなります。
③ Tr2がOFFのため、OUT2は、正電位なのでC1は、充電状態になります。
④ C2の放電が終わると、電源からの電流は、R2を通ってTr2のベースに流れ、Tr2は、ONとなります。(図2を参照)
【図2 非安定マルチバイブレータの回路と動作2】
⑤ Tr2がONになれば、OUT2は、グランド電位と同じになり、C1は放電状態になります。Tr1のベースは、C1が放電中のため、Tr1は、OFFとなります。
⑥ Tr1がOFFのため、OUT1は、正電位なので、C2は充電状態になります。
⑦ C1の放電が終わると、電源からの電流は、R1を通ってTr1のベースに流れ、Tr1は、ONとなります。
このようにして、①~⑦を繰り返すことにより、OUT1、OUT2にON/OFFの波形が繰り返し発生します。
OUT1またはOUT2を出力端子とすれば、連続する方形波を取り出すことができます。
(2)単安定マルチバイブレータ
「単安定マルチバイブレータ」は、入力されたトリガパルスの数だけ方形波を出力する回路です。
非安定マルチバイブレータとは異なり、単独ではパルスを連続発生できません。
入力されるトリガパルスをきっかけにして単独のパルスを1個発生します。
図3、図4、図5、図6は、単安定マルチバイブレータの回路と動作を示した図です。
① Tr1は、ベースがRbを通じてグランドに接続されているのでOFF、またTr2は、ベースにR2を通じて電源からの電流が流れているのでONとなり、この状態で安定しています。(図3を参照)
【図3 単安定マルチバイブレータの回路と動作1】
② ダイオードD1から負(0V)のトリガパルスが加わると、Tr2のベースがグランド電位になり、Tr2はOFFになります。(図4を参照)
③ Tr2がOFFなので、OUT端子は、正電位となり、その電位はR1を通してTr1のベースに加わり、Tr1はONになります。(図4を参照)
【図4 単安定マルチバイブレータの回路と動作2】
④ Tr1がONなので、C2の左側はグランド電位に近くなり、C2は、R2を通じて充電されます。(図5を参照)
【図5 単安定マルチバイブレータの回路と動作3】
⑤ C2の充電が進めば、やがてTr2のベースに正電位が加わり、Tr2はONになります。(図6を参照)
⑥ Tr2がONなので、OUT端子はグランド電位となりTr1のベースに加わり、Tr1はOFFになり、最初の状態に戻ります。(図6を参照)
【図6 単安定マルチバイブレータの回路と動作4】
図6のようにD1から入力した1つのパルスでOUT端子にパルスが出力します。
出力されたパルスのパルス幅T1は、T1=0.7×C2×R2で計算できます。
また、C1は、スピードアップコンデンサと呼ばれ、トランジスタのON/OFFを加速し、出力パルスを方形波に近づけるような作用があります。
(3)双安定マルチバイブレータ
「双安定マルチバイブレータ」は、2通りの安定した状態をとり、入力されたトリガパルスにより、どちらかの安定状態に変化します。
それぞれの安定状態では、“0”か“1”を出力します。これは、フリップフロップと同様の働きです。
図7、図8、図9は、双安定マルチバイブレータの回路と動作を示した図です。
電源を入れた直後、Tr1がONすると仮定します。
① 電源からの電圧は、R1を通りTr1のベースに加わり、Tr1はONになります。
② Tr1がONなので、OUT1は、グランド電位となり、R2を通じてTr2のベースにグランド電位が加わり、Tr2はOFFとなります。これが第1の安定状態です。(図7を参照)
【図7 双安定マルチバイブレータの回路と動作1】
③ ダイオードD1を通して負(0V)のトリガパルスを加えると、R1を通ってTr1のベースに加わり、Tr1はOFFとなります。
④ Tr1がOFFになると、OUT1は正電位となり、R2を通じてTr2のベースに加わりTr2がONします。これが第2の安定状態です。(図8を参照)
【図5 双安定マルチバイブレータの回路と動作2】
⑤ 再び負(0V)のトリガパルスを入力すると、グランド電位は、D2、R2を通ってTr2のベースに加わり、Tr2をOFFにします。(図9を参照)
【図9 双安定マルチバイブレータの回路と動作3】
⑥Tr2がOFFなので、OUT2が正電位となり、R1を通じてTr1のベースに正電位が加わり、Tr1はONになります。これで、初期の安定状態に戻ったことになります。
図10は、双安定マルチバイブレータの波形です。
トリガパルスが入力されるたびに安定状態を変えます(“1”と“0”が入れ替わります)。
【図10 双安定マルチバイブレータの波形】
以上、パルス発生回路としてのマルチバイブレータ回路を見てきましたが、実際はIC化されていますし、最近はマイクロコンピュータでパルスを作ることも多くなっています。
マルチバイブレータ回路については、別コラム「マルチバイブレータICの使い方《モノステーブルマルチバイブレータの例》」でも解説していますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 E・N)