【センサのお話】バルブリフト検出の例で「コンセプト設計」を考える
当連載コラム「センサのお話」では、様々な物理量を検出するセンサを紹介していますが、ある目的や機能を達成するセンサを設計する場合には、用いるセンサの原理として様々な選択肢があります。
この選択によって、その後に、機能・性能、耐久信頼性、あるいはコストの目標を達成するために、どのような分野で努力をするのかが決まります。
技術屋は、コンセプト設計時に「正のポテンシャル」と「負のポテンシャル」を正しくとらえ、覚悟を決めなければなりません。
今回取り上げるのは「バルブリフト検出」の例ですが、バルブといっても様々ですので、バルブの用途によっても検討内容は異なります。
まずは選択肢を広げる
基本的な考え方として、目的が「リフトしたことを検出する」という場合では、リフトを測るセンサに限定せずに、リフトしていない時とリフトした時とで何が変わるのかを考え、その現象を捉えられるセンサ方式を検討します。
別のコラムで紹介したセンサの原理も含め、主な選択肢の例を挙げると以下のようになります。
他にもあると思いますので考えてみて下さい。
- A)位置センサを用いる ・・・ 変化: リフトとともに動く部品の位置
- B)ギャップセンサを用いる ・・・ 変化: 可動部品(リフトする部品)と固定部品の間隙
- C)圧力センサを用いる ・・・ 変化: リフトにより押される部品の受ける圧力
- D)接点スイッチを用いる ・・・ 変化: リフトによる部品間の接着
- E)音センサを用いる ・・・ 変化: リフトにともない生じる音
- F)光センサを用いる ・・・ 変化: リフト部品の影響による固定箇所の光透過量
- G)センサを用いない ・・・ 変化: リフト時のバルブの制御状態
さらにそれぞれに対して、いろいろなバリエーションがあります。例えばA)とC)に関してのバリエーションでは、次のようなものがあります。
- A1)ポテンショメータ方式位置センサ ⇒ バルブリフトに連動して変化する抵抗をとらえる
- A2)差動トランス方式位置センサ ⇒ バルブリフトに連動して変化するリラクタンスをとらえる
- B1)ピエゾ抵抗効果を用いた圧力センサ ⇒ バルブリフトに連動して変化する流体圧力をとらえる
- B2)ピエゾ素子を用いた圧力センサ ⇒ バルブのリフトにより押される部品の受ける力をとらえる
一方、目的がリフトしたことを検出するだけでなく、リフトパターンをとらえ、バルブ開口面積変化・流体圧力変化・時間変化を加えて流量をとらえるといった場合には、センサの目標とする検出精度も含め、検討内容は変わってきます。
上述のようにリフト以外の物理量をみるセンサを用いる場合でも、出力信号の二次処理によりリフトパターンと同様のものが得られれば利用が可能です。
この場合にも、ノイズ影響(S/N比、信号出力とノイズ分出力の比)も含めた、精度検討が必要です。
センサを用いない方法も考えてみる
電流駆動の電磁弁(ソレノイドバルブ)では、追加のリフト検出構造を持たずに最大リフトタイミングの検出が可能です。
バルブの動きをストッパー部品で制限して最大リフトを決めているような構成の場合には、電磁力によって動くバルブがストッパーで止まる時に逆起電力が発生し、駆動電流に影響を与えます。
駆動電流をモニタリングし、逆起電力が発生するタイミングをとらえることにより、バルブの最大リフトタイミングの検出ができます。
選択肢を比較検討する
設計コンセプトを選ぶにあたり、様々な検討が必要になります。
主なものを挙げると以下のような事項になります。
- バルブリフトセンサを含む部品の構造のシンプルさと製造のしやすさ(耐久信頼性ポテンシャルとコストポテンシャルが高いこと)
- リフトセンサを含むバルブ部品の構造設計における技術課題の解決見通し
- システムへの適用タイミングに対して開発期間が間に合うか(開発の節目管理も含めて)
- 関連製造設備および製造・品質管理技術が間に合うか
バルブリフトセンサを開発する際には、その搭載される部品を考えるのみならず、さらにその部品が適用されるシステムにやさしいセンサとなるよう考えることも必要です。
例えば信号処理も簡単で、故障診断も複雑にならないようなセンサが望まれます。
コンセプト設計には、技術者としての高い能力・見識が必要!
開発初期に行うコンセプトの選択においては、技術屋としての直感や信念も大事なファクタであり、より良い判断をするためにも、平素から専門能力を高めておくことは当然必要です。
これに加えて、幅広い技術に触れることで技術的見識を高めていくことも重要といえるでしょう。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・N)
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