環境技術化学

CCU(CO2回収と有効利用)の基礎知識と具体的な事例・用途を解説

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二酸化炭素 CO2

本記事では「CCU」(CO2の回収と有効利用)の基本的事項、現状と今後のポテンシャルを解説するとともに、CCUの具体的な取り組み(事例・用途)についてご紹介します。

1.CCUとは?

CCU」とは、”Carbon dioxide Capture and Utilization“の頭文字をとったものであり、工場や発電所などから排出される温室効果ガスの一つであるCO2を大気中に放出せずに回収し、それを新たな資源として活用する技術です。CO2を「捨てる」のではなく「使う」という発想は、従来の排出削減とは異なるアプローチであり、「カーボンリサイクル」とも呼ばれています。

CO2を回収して地中深くに貯留して封じ込める技術である「CCS」(Carbon dioxide Capture and Storage)も、CCUと同じく温室効果ガスの削減を目的としていますが、CCUは再利用を通じて新たな経済価値を生み出す可能性を持っています。

CCUには幅広い分野の技術が含まれます。CO2発生源等から回収したCO2を高価値製品に転換する技術はすべてCCUに該当するからです。その際にご留意いただきたいのは、図1に示すように、エネルギーという指標で見るとCCUでは低エネルギーのCO2から高エネルギー製品(燃料や化学品等)が製造されるという点です。CCUでは水素や電気等の形でエネルギーをCO2に投入する必要があります。

投入されるエネルギーが化石燃料由来だとすると、CO2排出削減の点では意味のない操作となります。従って、今後新たに導入・計画されるCCUにおいては、投入エネルギーは再生可能エネルギー由来のものであることが基本です。この点をしっかりご認識下さい。

 

CCUとエネルギーの投入
【図1 CCUとエネルギーの投入】

 

2.CCUの現状と今後のポテンシャル

CCUに使用されるCO2の量を考察してみましょう。
現在実用化されているCCUとして尿素の製造等を挙げることができ、そのCO2量は世界で2.5億トン/年と見積られています。
今後については2040年までにCCU用CO2が世界で4.3-8.4億トン/年にまで増加するとの予測があります1)
また日本ではCCU用CO2が2050年に最大で1-2億トン/年に達するとの試算が報告されています2)

CCUに対する期待は高まる中で、このCCU用CO2量をどう評価したらよいでしょうか。世界のCO2年間排出量が増加中であって2023年には390.2億トン/年に達したことを踏まえると3)、量的には大幅に不足していると言わざるを得ません。CCUに抜本的な強化が求められているのが現状です。

 

3.CCUで生産される主な物質と具体的な事例

CCUでの生産検討が現在進行中の主要物質を、基幹物質・化学品・燃料に分類して、表1に示します。
水素を用いた還元反応が重要な役割を担っていることが分かります。
水素は再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」の利用が原則です。

[※関連記事:3分でわかる グリーン水素の基礎知識|水電解技術など低コスト製造への課題を解説!

 

【表1 CCUで生産される主要物質】

生産される物質 CO2製法
基幹物質 合成ガス CO+H2 CO2 + H2 → CO + H2O
メタノール CH3OH CO2 + 3H2 → CH3OH + H2O
化学品 エチレン C2H4 2CO2 + 6H2 → C2H4 + 4H2O またはCO2の電気分解
エチレンカーボネート CO2+CH2CH2O (エオレンオキシド)
→エチレンカーボネート(ポリカーボネート原料)
燃料 バイオジェット (例)藻類の光合成→エタノール→エチレン→ジェット燃料
e-fuel(石油代替燃料) 合成ガス製造→フィッシャー・トロプシュ反応で合成
メタン CH4 総括反応式 CO2 + 4H2 → CH4 + 3H2O (メタネーション)

では、これらの具体例を見てみましょう4)

 

(1)North C Methanol (ベルギー):メタノール

ベルギーのノースシーポート(北海港)で、風力によるグリーン水素と、地元の主要産業から回収した CO2 で、メタノールを製造し、船舶燃料や化学品原料に利用するプジェクトです。現在、63MW の電解槽で年間 45,000 トンのメタノール製造を目指して準備中です。

 

(2)山口県・周南における産業間連携 :メタノール

日本でもトクヤマと三菱ガス化学が、セメント工場より排出されるCO2 からメタノールを製造する国内初の商業プラントの事業化を検討中です。

 

(3)Jupiter 1000 (フランス):メタン

近隣の製鋼工場のボイラーから発生するCO2 と再エネ由来のグリーン水素を利用してメタンを合成するプロジェクトです。電解槽(1MWe)で水素約 200m3 /h を製造し、25m3 /h の合成メタンを製造するもので、2023年に試験運転を終了しました。今後のスケールアップが検討されています。

 

(4)Carmeuse CCU (ベルギー):メタン

石灰の製造工程で発生するCO2とグリーン水素を利用して、微生物によってメタンを生成するプロジェクトであり、2025年中の稼働を目標にしています。グリーン水素は、75MW の水電解プラントを採用予定とされています。

 

4.注目のCCU事例とその用途

この他にもCCUに含まれる興味深い取り組みがあります。

 

(1)セメントのリサイクル

東京大学らのグループは、コンクリートのリサイクル工程でCO2を吸収させるプロジェクトに2020年から取り組んでおり、世界的にも注目されています。
(※詳しくは「次世代のコンクリートリサイクルとは?」をご参照ください。)

 

(2)農業への展開

トマトのハウス栽培で、ハウス内のCO2濃度を通常の大気中濃度である約400ppmから1500ppmにまで高めると、50%以上の増産が可能との報告があります。またオランダではShell社が自社製油所の水素製造プラントからの副生CO2を近隣の園芸農家に供給し、園芸品の増産に貢献しています。
(※詳しくは「農業における高濃度CO2の利用と事例」をご参照ください。)

 

(3)ブルーカーボン

ブルーカーボンとは二酸化炭素CO2を生物学的に海中に固定することを意味します。典型的には海草・海藻の増殖が該当します。このブルーカーボン向けに、増殖に有効な2価鉄Fe2+を、増殖効果のない3価鉄Fe3+に酸化させずに安定的に供給できる技術が日本で開発されています。
(※詳しくは「ブルーカーボンとは?増産に向けた日本の有望技術を紹介」をご参照ください。)

 

これらの取り組みの進展も期待されます。
将来的には、CO2が「資源」として当たり前のように使われる時代が来るかもしれません。
CCUに関する今後の技術動向に注目しましょう。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)

 


《引用文献、参考文献》


 

 

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