リコール対応の基本的な流れと手法が具体例でわかる

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リコール対応の基本

製造業にとって、リコールは最悪の事態です。良いモノを作っても、想定を超えた使用環境や使用者の誤使用による事故により、残念ながらリコールになってしまう可能性はゼロではありません。もしリコールとなった時は、迅速な対応が企業責任、信用上重要です。

本コラムでは、一般生活用製品(産業機械、自動車、医薬品、食品等を除く)を想定し、主にメーカーの品質保証部門に勤務する方向けにリコール対象製品を市場から速やかに回収し事態を収束させるための方法について、実例をもとに紹介します。

1.リコールの流れ

リコールの大まかな流れは、以下の図の通りです。
予めメーカー側で以下のようにリコールがスムーズに運ぶための仕組みを用意しておく必要があります。
リコール対応のマニュアル(手順書)も準備しておきましょう。

 

リコールがスムーズに運ぶための仕組み
【図1 リコールがスムーズに運ぶための仕組み】

 

製品の事故が発生したら?

製品に事故が発生したら、「消費生活用製品のリコールハンドブック20221)」を参照し、リコール実施の判断、ユーザーおよび関係者への通知をします。
リコールとなったら、安全でない製品から速やかにユーザーを遠ざけなくてはなりません。

 

2.ユーザーへの通知や修理の提供

リコール情報をユーザーに伝えるには、直接の連絡が最も効果的です。
スマートフォンのリコールでは、ユーザーに直接メッセージを送信し、警告した事例があります。
SNS、特にインフルエンサーの活用も効果的です。

ある調査では、インフルエンサーによりWEBサイトへの訪問者数が、他の媒体に比べ4倍高くなったということです。ホッケー用マスクのリコールのケースでは、ツイッター(現X)でホッケー番組にタグ付けすることでユーザー層に対するリコール情報の周知につながりました。

また、複数の通知方法を組み合わせるとより効果的です。
例えば、企業のウェブサイト、手紙、電話、アプリやユーザー層のいる場所へのポスターの掲示などです。
2003年の米国の調査によると、リコールについて報道で知った後、ユーザーが手元の製品を確認する率が57%で、もう一度郵送等の通知を受けると74%に上がったと示されています。
オンラインで販売した製品は、当該業者への連絡が有効です。一部のプラットフォーム業者では、安全でない製品をAIで検出しリストから削除し、同情報を出品者・購入者に連絡するようになっています。

リコール対応の一つに無料修理があります。
転倒しやすい家具がリコールになった時、無料で固定するサービスを提供する事例がありました。
対象製品がIoT製品の場合は、回収をしなくても製品の使用状況をリモートで監視し、ソフトウェアパッチを通じて製品の欠陥を修正することも可能です。
スマートフォンがリコールになったケースでは、企業がユーザーにリコール通知を送信後、ユーザーの手元にある携帯電話のバッテリー容量を最大0%まで減らすようなソフトウェアアップデートを実施することにより、電源をリモートでオフにして使えなくした例があります。

 

3.リコール回収率を上げるために

リコール回収率に影響を与える要因は、対象製品の追跡能力製品寿命購入後リコールまでの期間製品価格ユーザーによる認知の度合いと言われています。

製品は、一旦市場に出ると追跡が困難ですが、近年ブロックチェーン技術の利用により追跡能力が向上しています。食品分野では、IBM社の Food Trust System10 によりターゲットを絞ったリコールが実施され、リコールの平均コストが最大 80% 削減されました2)。製品分野でも、サプライチェーンを通じてブロックチェーンの実装を図る Microsoft社の Project Manifestの例があります3)

製品寿命が短いものやリコールまでの期間が長いものは、製品が既に消費・廃棄済で、回収率が低くなる傾向があります。

製品価格については、米国の調査によると、5,000米ドルを超える場合、ユーザーの反応は30%を超えるという傾向が示されています(図2)。

 

小売価格別の回収率
米国消費者製品安全委員会 小売価格別の回収率(2016年)を元に作成
【図2 小売価格別の回収率】

 

ユーザーの認知度については、リコール時に、製品名だけよりも「〇〇で販売されている製品」と認知されると回収率があがります。リコール通知の見出しに、小売業者の名前が含まれた通知は、製造ブランドのみを記載したリコール通知よりも40%高い返品率が示された事例があります。

 

4.ユーザーへの働きかけ

更に回収率を上げるためには、ユーザーへの働きかけも大切です。
例えば、ユーザーにインセンティブを示して回収を促す方法があります。送料無料、クーポン/ギフトカード、返金、無料交換などを提示します。その際、ユーザーから破壊した製品の写真を送信してもらうと、対象製品は以降使用されないことが確認できます。

購入者にユーザー登録を促してその連絡先を得ることも効果的です。この方法は、リコールになった時、直接連絡できるためユーザーの反応が高くなります。米国の調査4)によれば、リコール通知をプレスリリースした場合の反応率は6%ですが、ユーザーに直接連絡した場合は50%に上ります。販売時点で顧客データの 99% が収集されていた加熱機器のリコールのケースでは、 5ケ月以内にユーザーの84%に連絡できた例もあります5)。英国では、家電製品を購入すると家庭用電化製品製造業者協会のウェブサイトに登録し、リコールがあったら通知を受け取ることができるようになっているそうです。

リコール対応も CRM(顧客関係管理)の一環と位置付け、ユーザーとの結びつきを得ておくことは、ユーザーの製品に対する ロイヤリティの向上につながり、万一のリコールの場合にも迅速に対応できます。

 

5.リコールに関するその他の課題

その他の課題として、グローバルな販路、新技術を使用した製品があげられます。
オンライン販売が一般化するにつれて、日本製品は海外にも販路が開拓されましたが、製品安全関連規制は経済圏によって異なるので、日本で規制がない製品でも海外でリコールの対象となるケースもありえます。

また、IoTやAIや3Dプリンターなどの技術を使用した製品は、販売された時点では欠陥がなくても、アップデートに伴う問題やデジタルセキュリティ上の問題が発生することが懸念されます。

モノづくりにおいては、リコールもある前提で、技術の動向も見ながらサプライチェーン全体で考える必要があるといえるでしょう。

 

 

(アイアール技術者教育研究所 J・M)

 


《引用文献、参考文献》


 

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