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不具合未然防止の基本と実務への適用《事例で学ぶ FMEA/FTA/DRBFMの効果的な使い方》(セミナー)
2024/12/3(火)9:30~16:30
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製品にとっての三大重要要素である、品質、コスト及び納期を「QCD」と呼びますが、優れたQCDは製品だけでなく開発にも必要です。
今回のコラムでは、開発のQCDを向上・改善させるためのキーポイントについて考えてみたいと思います。
図1にQCDを示します。
QCDの意味をどのくらいまで広げて考えたり、議論するかは、その場面場面で異なります。
例えば、製品そのもので考える場合には、顧客満足度の高い製品はQCDの優れた製品という議論がされます。
一方、考える範囲を広げていくと、QCDは組織活動全体の議論にも適用されます。
この場合には、”Q”はQMS(品質マネジメントシステム)の質の高さ、”C”は事業全体の収益力の強さ、”D”は全体生産物流管理レベルの高さを表します。
組織活動に対するサポート機能では、人材教育があります。
この場合のQCDの要素としては、教育の質、効率、タイミングプランがあります。
【図1 QCDの意味】
それでは、b開発における優れたQCDとは何でしょうか?
開発のQCDを考えると以下のようになるでしょうか。
開発において、様々な領域にインパクトをもたらし、組織全体のQCDの向上に繋がる特性をもつ製品としては、製造しやすい製品、品質管理ミスを起こしにくい製品、物流ネットワークがシンプルになる製品があります。これらの結果として、事業全体の収益力の強い製品をもたらします。
開発をグループやプロジェクト組織で行う場合、開発へのインプット(要求や目標など)に対して、より質の高いアウトプットを出すための構成は以下図2のようになります。
【図2 質の高いアウトプット】
この構成は、エンジニア個々のポテンシャルが組織の中のコミュニケーションにより活かされて、より質の高いアウトプットを生み出す姿を表しています。
図2に示す構成を強化するには、構成に含まれる各要因に対して改善を行わなければなりません。
改善のためにまず行わなければならないのは、現状把握です。現状把握により、必要なことと不足していることを考え、それらへの対応策を考えます。
理解と実践は関係し合っており、理解の強化と、より質の高い実践を繰り返し試みることにより、技術者個人あるいはグループのポテンシャル向上とアウトプット品質向上が可能になります。(図3)
理解には、知識だけでなく、ものの考え方や、図2のような全体の構成や要因を理解したり、各要因についての現状と対応策の理解も含まれます。
【図3 理解と実践の強化】
開発者にとっての理解には、FTAなど手法についての理解も含み、考え方には、三現主義や、原理原則主義、フロントローディング、ロバスト(頑健性)設計やバラツキ設計の考え方も含みます。これらのそれぞれについて、理解と実践の強化が必要です。
自分自身での学習や教育の時間が無くなると、OJT(On the Job Training、実務経験による教育)に依存したくなりますが、「専門知識とスキル」「広範な知見」がOJTだけでは理解・習得できないと思う場合には、努力して時間を確保し、自己学習やセミナー参加などを通じて強化を図らなければなりません。そのような行動の継続を支えるのが「プロフェッショナル意識」と「高いモチベーション」です。
日々の細かな積み重ねと努力が蓄積されて、技術者としてのポテンシャルが向上していきます。
不充分な計画や評価によりQが低下し、結果的にDが低下し、時間不足でQが低下するという悪いサイクルをもたらす。その典型でインパクトの大きいものとして手戻り(戻り仕事)があります。
ここでの「手戻り」とは、後期に予定しない問題が発生して変更などを行うことです。手戻りの発生原因をたどっていくと、要求が曖昧なままだった(初期にははっきりすることができないような項目を段階的に明確化する計画が無かった)とか、兆候はあったけど対応しなかった等があります。開発は生身の人間が行うもので、後戻りしたり、弱点が見つかり対応しなければならないことを避けたいという心理が働きます。
一方で、早目の対応をせずに前に進んだことにより、手戻りが発生します。
図4は、時間経過に対する開発負荷変化の事例を示したものです。
赤い線で示したものが、手戻りが多発する場合です。(B1)のように負荷が増加することに加えて、時間の制約の中で評価などを進めることにより、(B2)のようにある時間経過後の品質不具合が生じて追加対応が必要となります。
【図4 時間の経過と開発負荷の関係】
開発後期における変更は、工数・負荷が増大する範囲が製造部門、品質保証部門など関連部門へと拡がってしまいます。そのため、まずは初期検討をしっかり行い、評価実験計画をしっかり作ることが重要です。
初期段階での活動をを強化する場合は、図4(C)のように前の方の段階での負荷が増えます。このようなやり方を「フロントローディング」と言います。
フロントローディングを行った場合、トータルでの工数・負荷を減らすことができます。
これはQCDのC(開発費、開発効率)に関する効果ですが、実際のアウトプットとプロセスにおいて高いQ(開発品質)を得ることができ、もちろんD(開発日程)を確保できることに繋がります。
いくら初期に検討を行っても、全てが明確になり評価計画で網羅できるということはありません。
それでも検討に時間をかけて、初期評価計画がシステム的に構成されており、分からない領域にシステム的に迫っていけるようなものに工夫してある場合には、一つ一つの実験での知見を積み重ねながら製品やシステムの完成度を段階的に確実に上げていくことが可能になります。
開発の体質や文化として、質の高い考え方を定着させるには、強い信念をもってフロントローディングを繰り返し、それにより質の高い結果を得るという成功体験を積み重ねることが重要です。
「先に頑張っておいて良かった」という体験を繰り返すことは、モチベーションの向上にも繋がり、それが次の良いアウトプットに繋がっていくという良いサイクルを生みだします。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・N)