3分でわかる技術の超キホン 誘電材料とチタン酸バリウムの基礎知識

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チタン酸バリウム(ペロブスカイト構造)

チタン酸バリウム」は、専門外の人にはあまり知られていないかもしれませんが、誘電体材料分野では避けて通れない凄い物質なのです。
今回は誘電材料・チタン酸バリウムの基礎知識を解説します。

1.誘電体とは?

世の中のものは、電気が流れるもの(導電体)と流れないもの(絶縁体)に分けられます。
導電体としては金属や半導体があり、電線など電気を運ぶ役割を担います。
一方、絶縁体には導電体のように自由に動ける電子はなく、全て原子核の周りに束縛されています。

しかし、絶縁体と言っても、実際はある程度の電子の動く余地があります
ごく小さな電荷のズレや、電子以外にもイオンや分子が電場による変位など小さなものですが、マクロなスケールでは大きな効果として現れます。

このように、元々平均的に分布していた電荷に偏りが生じる現象分極(P)といい、電気的に分極できる絶縁体のことを「誘電体」と呼びます。分極のしやすさは誘電率(ε)で表します。通常の物質では10程度ですが、物質によっては巨大な値を示すものもあります。そして、コンデンサ素子の+と-の電極の間に挟まれていると、電気をため込む性質を持っています。

誘電体は主に電気絶縁材料として使用されます。
一部の誘電体は、分極中に特異な性質を示すことができます。例えば、圧電性、焦電性、強誘電性などがあります。これらの機能性材料は様々な分野で活躍しています。

 

2.誘電体の種類

(1)常誘電体(Paraelectrics)

常誘電体」とは、電場を印加すると電場の方向に分極が生じる誘電体のことです。電場を取り除くとゼロになります。
空気やプラスチック、セラミックス、ガラスなど大部分の絶縁体は常誘電体です。

 

(2)圧電体(Piezoelectrics)

圧電体」とは、圧力をかけることで分極を起こす誘電体です。
常誘電性はどのような結晶構造の物質でも示しますが、圧電効果は一部の結晶構造の物質でしか見られません。その原因は結晶の反転対称性にあります。通常の結晶は、対称操作で原子位置が元とピッタリ重なる構造を持っています。この場合、物質の一方向に圧力をかけても、その影響は正反対の方向にも均等に現れるため、電荷がどちらかの方向に偏ることはありません。
しかし、圧電体では対称な構造にはなっておらず、反転しても原子の位置が元に戻りません。変形し、電荷が一方向に偏って分極が発生します。また、圧電体は電場をかけると変形するという逆圧電効果も示します。

 

(3)焦電体(Pyroelectrics)

焦電体」とは、物質の内部がプラスの部分とマイナスの部分に偏って、自発的に分極する誘電材料です。
焦電体を加熱あるいは冷却することによって、表面に吸着していた荷電粒子との電荷のバランスが崩れ、表面に電荷が現れます。

 
★焦電体の関連コラム
3分でわかる技術の超キホン 焦電素子とは?焦電効果などの前提知識と原理・使い方を解説」はこちら

 

(4)強誘電体(Ferroelectrics)

強誘電体」は、焦電体と同じく外部に電場がなくても分極する物質を指します。
引き起こした電気双極子モーメントが自発的に整列した状態を「強誘電状態」、この性質を「強誘電性」と呼びます。

その代表的な物質が「チタン酸バリウム」(BaTiO3)なのです。
強誘電体の特徴は、分極の方向と反対向きに電場を印加することにより分極の方向を反転することができることです。
強誘電体ヒステリシス ループ(ferroelectric hysteresis loop)は、外部電場の作用下での強誘電体ドメインの動きをマクロ的に表現したものです。強誘電体の分極は電場に応じて変化し、分極強度と印加電場の間には非線形の関係があります(図1)。

 

強誘電体のヒステリシスループ
【図1 強誘電体のヒステリシスループ】

 

結晶に電場が印加すると、図のOAの曲線に示すように、外部電場の増加に伴って分極強度が増加します。電界強度が増加し続け、点Bに相当する値に達すると、結晶の電気ドメインの方向が電界の方向に向かって、分極強度は飽和に近づきます。さらに電場を増加させると、PとEは線形の関係となり、E=0のとき、縦軸のODは自発分極強度Psと呼びます。

 

チタン酸バリウムの結晶内部の歪み
【図2 結晶内部のゆがみ】

 

電場が減少し始めると、結晶の分極も減少はじめます。電界ゼロではまだ分極が存在します。
これは電界を下げると結晶の内部応力により電気ドメインの一部が分極方向からずれるためです(図2)。

逆電界が一定値まで増加し続けると残留分極は完全に消失します(図1)。
強誘電体は一般に誘電率が非常に大きいですが、誘電率が大きいから強誘電体と呼ばれるわけではないのです。

 

3.チタン酸バリウムとは?

チタン酸バリウム」(BaTiO3)はペロブスカイト構造を持つ人工物です。
ペロブスカイト構造はABO3の組成を持つ立方晶であり、固体化学における代表的な結晶構造です。

BaTiO3を例としてみると、立方晶の各頂点に金属Baイオンが、体心に金属Tiイオンがそれぞれ位置し、金属Tiを中心として酸素Oが立方晶の各面心に位置します。
酸素と金属Tiから成るTiO6八面体の向きは、金属Baとの相互作用により容易に歪み、より対称性が低い直方晶(斜方晶)や正方晶に相転移できます。この特性により物性は劇的に変化します(図3)。

 

チタン酸バリウムの結晶構造
【図3 チタン酸バリウムの結晶構造】

 

4.チタン酸バリウムと相転移

チタン酸バリウムの融点は1618℃です。1460~1618℃で結晶化したチタン酸バリウムは、非強誘電性の安定な六方晶系に属します。1460~130℃の間では立方晶構造に変化します。

このとき、図3に示したように、O2-(酸素イオン)による形成する酸素八面体の中心にTi4+(チタンイオン)があり、8つの酸素八面体で囲まれた隙間にBa2+(バリウムイオン)が存在します(図3)。チタン酸バリウムの結晶構造の対称性は極めて高いため、分極は発生せず、結晶は強誘電性や圧電性を持ちません。1460℃以上から急冷した物の誘電率は室温で10万近くとなり、極めて高いです。

チタン酸バリウムは、温度が下がると結晶の対称性も低下します。
130℃より低下すると、チタン酸バリウムは常誘電体から強誘電体への相転移を起こします。

チタン酸バリウムは130~5℃において、顕著な強誘電性を有する正方晶系の結晶系になります。この強誘電体から常誘電体へ変わる温度(キュリー点)で比誘電率εrは最も高くなり、εr = 20,000 以上になるものもあります。

チタン酸バリウム結晶は温度が5℃以下になると斜方晶系に変化しますが、このときも結晶は強誘電性を持っています。-90℃以下に温度が下がり続けると、結晶は斜方晶系から三方晶系に変化しますが、このときも結晶は強誘電性を持っています。

 

チタン酸バリウムの相転移
【図4 チタン酸バリウム(BaTiO3)の相転移】

 

チタン酸バリウムは極めて高い比誘電率を持つことから積層セラミックコンデンサ(MLCC)などの誘電体材料として広く使用されています。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)
 


《引用文献、参考文献》

  • 1) 電子情報通信学会 2013「知識ベース」P6 強誘電体の分極Pと電界Eの関係
    https://www.ieice-hbkb.org/files/09/09gun_01hen_01.pdf
  • 2) 村田製作所(WEBサイト)セラミックコンデンサのFAQ
    セラミックコンデンサの静電容量経時変化のメカニズムを教えてください
    https://www.murata.com/ja-jp/support/faqs/capacitor/ceramiccapacitor/char/0013

 

 
 

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