《EVの測定モードを解説》WLTCモードとは?「電費」や「水素燃費」の計算方法は?
電気自動車(EV)では、単位走行距離あたりに必要な電力消費量を「電費」(単位Wh/km)と呼び、フル充電で走れる距離を「航続距離」と呼びます。
これらの数値は車両の性能値として使用されますが、走行の環境や走行方法により異なります。
測定の公平性や再現性を確保するために、測定方法や条件を規定するのが測定モードです。
現在、乗用車に適用されているWLTCモード、EVの電費そして燃料電池自動車(FCEV、FCV)の水素燃費について説明したいと思います。
1.燃費と電費
日本における乗用車の燃費測定モードの変遷を図1に示します。
最初は単純な測定モードでしたが、より実走行に近づけたモードとなり、次に世界的共通化を図るモードへと変化しました。
時速60km/h定地走行モードは燃費測定用ですが、それ以外は排ガスの測定モードと同一です。
【図1 日本の乗用車燃費測定モードの変遷】
車両の生産や販売がグローバル化される中で、車両認証における排ガスや燃費の測定モードを世界共通化しようという動きがあります。
これによって、異なる地域に対し認証を行う負担が減るとともに、開発においても地域に適合するための開発工数が軽減できます。ユーザーにとっても、車選びの時の車両性能比較が容易になります。
ちなみに、日本での「燃費」は「リッターあたり何キロ走る」(単位km/ℓ)という言い方がよくされますが、欧米での「燃費」(fuel consumption, fuel economy)は、「単位走行距離当たりに必要な燃料消費量」(単位ℓ/㎞、ℓ/100km)で表されます。地球温暖化抑制のための車両CO2規制では、単位走行距離当たりのCO2排出重量(単位g/㎞)で表されます。
EVの「電費」(電力消費率)測定においては、エンジン車やハイブリッド車の燃費測定モードと共通のモードが適用されます。すなわち、電費もWLTCモードで測定されるようになりました。
2.WLTCモードとは?
排ガスや燃費の試験法における世界共通化のために、国連の自動車基準調和世界フォーラムWP29において策定されたのが、WLTP(Worldwide harmonized Light vehicles Test Procedure, 乗用車等の軽・中量車国際調和試験法)です。
このWLTPにおける試験サイクルが、WLTC(Worldwide harmonized Light duty driving Test Cycle, 乗用車等の軽・中量車国際調和運転テストサイクル)です。図2にWLTC測定モードを示します。
【図2 WLTC測定モード(class3車両の場合)】
車速変化パターンをトレースするのに必要な車両能力に配慮して、車両の最高速や加速性能に関係するPMR(Power to Mass Ratio, 定格出力/空車重量)によって車両を4分類し、測定モードを変えています。
現在の日本の乗用車では、ほとんどの車両がClass3に分類されますが、今後EVのマイクロコミュータなどが登場するとClass1に分類されるものもあると思います。
なお、WLTPでは超高速パートは各加盟国のオプションとされ、日本ではそのような走行の使用割合が低いことにより、測定モードに含めないこととなりました。
3.電費の計算
EVのWLTCモードを用いた電費(電力量消費率)は、図3の式により計算されます。
【図3 電費の計算】
4.燃料電池自動車の効率(水素燃費)
燃料電池自動車(FCEV、FCV)では水素を充填して走りますから、その効率は、水素充填量あたり何キロ走るかで決まります。
FCEV導入の活発化にともない、FCEV同士での環境性能比較ができるように、日本でもFCEVの水素の燃費は、WLTCモードを用いて測定して表示することが決められました。
水素燃費は図4の式により計算されます。
【図4 水素燃費の計算】
5.EV性能値のベンチマーク
EVの開発が進んでいきますが、今後発表される数値のイメージをつかむためには、以下のようにベンチマーク(基準)となるいくつかの数値を覚えておくと良いと思います。
《BEV》日産リーフ(62kWhバッテリー搭載タイプ)
- 航続距離:458km(WLTCモード)/570km(J08モード)
- 電費:161Wh/km(WLTCモード)
《FCEV》トヨタMIRAI(第2世代 タイプG)
- 航続距離:850km(WLTCモード)
- 水素燃費:152km/kg
*BEV: Battery Electric Vehicle
*FCEV: Fuel Cell Electric Vehicle
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・N)