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LTspiceで学ぶ電子部品の基本特性とSPICEの使いこなし(セミナー)
2024/12/5(木)10:00~16:00
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本記事では、電子回路部品の一つである「サイリスタ」について解説します。
サイリスタに関して知っておきたい基本事項をまとめていますので、知識の補充・整理にご活用ください。
目次
電子回路を構成する部品のうち、サイリスタはダイオードの一種で、電力制御などに用いられます。
電力制御の基本となる部品なので押さえておきましょう。
サイリスタの形状は、3端子で、ダイオードにスイッチ制御するゲート端子を設けた形になっています。
回路記号は、図1のようになります。
【図1 サイリスタの回路記号】
サイリスタは、ゲート(G)からカソード(K)にゲート電流を流すことにより、アノード(A)とカソード(K)間を導通させることができる3端子の整流素子です。
【図2 サイリスタの構造イメージ】
図2(a)は、サイリスタの簡単な構造図で、P型、N型、P型、N型の順に半導体を接合した4層構造になっています。途中のP型半導体にゲート端子を取り付けた構造になっています。
P型半導体からゲート端子を取り出す素子を「Pゲート品」といい、N型半導体からゲート端子を取り出す素子を「Nゲート品」といいます。
サイリスタは、図2(b)のように、PNPトランジスタとNPNトランジスタとを組み合わせた複合回路としてみることができます。
では、このトランジスタモデルで、サイリスタの原理・基本動作をみてみましょう。
【図3 サイリスタの基本動作(トランジスタモデル)】
図3において、ゲート(G)に電流が流れない場合(IG=0)には、Tr2はOFF状態になっていてTr2のコレクタには電流(IC2)は流れません。
そのため、Tr1のベース(IB1)にも電流は流れず、Tr1もOFFの状態になっています。
この状態ではアノード(A)に電圧が加わってもサイリスタの電流は流れません。
【図4 自己保持状態】
図4は、図3においてゲート(G)すなわちTr2のベースに電流(IG)が流れた場合の図です。
この場合、Tr2はON状態になります。これによりTr2のコレクタを通してTr1のベース電流(IB1)が流れます。
Tr1にベース電流が流れるので、Tr1はON状態になり、Tr1のコレクタを通してTr2のベースに電流(IB2)が流れます。Tr1からTr2のベースに電流が流れるので、ゲートの電流が無くなってもサイリスタのアノード(A)側からカソード(K)側には電流が流れ続けます。これを「自己保持状態」と言います。
また、導通状態を停止させるには、アノード(A)とカソード(K)間の電流を一定値以下に下げることが必要です。
サイリスタの使用例を見てみましょう。
図5は、サイリスタの簡単な使用例を示した回路図で、交流電源を整流して直流にする場合の使用例です。
実際には、抵抗の後に平滑回路などを使用して直流出力を得ています。
【図5 サイリスタの使い方(位相制御)】
下の図6では、図5の(a)点、ゲートパルス入力、(b)点の波形を示します。
【図6 パルス入力と交流電源の出力波形】
(a)の波形は、交流電源の出力波形で、斜線部が出力の状態を示しています。(a)で、+側は正の出力電圧で、-側は負の出力電圧です。
サイリスタのゲートに、あるタイミングでパルスを入力すると、サイリスタがオンして(b)のようにゲートパルス入力後に正の電圧が出力されます。
サイリスタは、一度オンするとパルスがなくなってもオンし続けます。
そして、交流電圧が負の状態になると、正方向に流れる電流がなくなりオフします。再び交流電圧が正の状態になって、その後ゲートパルスが入力されると、またサイリスタはオンして、正の電圧が出力されます。
このような回路構成をとることによって、交流電源の正の部分からのみ出力を得ることができ、交流電源を整流して直流にすることができます。
また、ゲートパルスの位相を制御することによって、出力の大きさを制御することができます。
これがサイリスタの位相制御です。
「サイリスタレギュレータ」という部品には、このサイリスタの位相制御が使われています。
電流の導通によるスイッチングの原理のため、非常に応答性が高いです。
例えば、精密な空調などの制御では、温度に応じてヒーターのオンオフを制御する必要がありますが、サイリスタレギュレータを用いることで簡単に実現することができます。
次に、サイリスタを用いた整流回路の例を示します。
図7は、ブリッジ接続したサイリスタを用いた全波整流回路です。全波整流回路は、交流の正負の波の両方を取り出して直流にするものです。
【図7 サイリスタを用いた全波整流回路】
図7において、サイリスタQp1、Qp2、Qn1、Qn2は、交流電源に対してブリッジ接続されています。一般的な整流ダイオードのブリッジ接続と同じ構成です。
Qp1のゲート端子をgp1とし、Qp2のゲート端子はgp2、Qn1のゲート端子はgn1、Qn2のゲート端子はgn2としています。電流の矢印の方向を正とすると、Qp1とQn2を正群のサイリスタ、Qp2とQn1を負群のサイリスタと表します。
図8は、図7の回路の動作(電流波形)を示す図です。
【図8 サイリスタを用いた全波整流回路の電流波形】
図8において、交流電流Iaに対して正群ゲートパルスgp1、gn2を加えると、Qp1、Qn2がONの電流波形になります。また、交流電流Iaに対して負群ゲートパルスgp2、gn1を加えると、Qp2、Qn1がONの電流波形になります。すると、図7の回路の抵抗には、出力電流Ⅰpnが出力されます。
これは、交流を全波整流した波形になります。これを平滑回路に接続すれば、直流波形が得られます。
このようにして、サイリスタを用いた整流回路が構成されます。
サイリスタの応用例として、インバータをご紹介します。
「インバータ」とは、直流電力を交流電力に変換することを言います。
今は、無くなってきましたが、かつて液晶テレビにはバックライトとして冷陰極管が使用されていました。冷陰極管は交流電圧で駆動するため、直流電源から冷陰極管を駆動するのにインバータが使用されていました。
図9は、インバータの基本原理を説明するための図です。
【左:図9(a)/ 右:図9(b) インバータの基本的な原理図】
図9(a)において、図9(b)のtoでS1とS4を閉じると、負荷Rには左側がプラス極となる電源電圧Vが加わり、S1→R→S4へと、負荷電流が流れます。
次に、t1でS1とS4を開くと同時に、S2とS3を閉じると、Rには、こんどは右側がプラス極となる電圧Vが負荷に加わり、負荷電流は反対方向のS3→R→S2へと流れます。
再び、t2でS2とS3を開くと同時に、S1とS4を閉じると、toにおける状態に戻ります。
これを繰り返すと負荷Rには、図9(b)のような方形波状の交流電圧が加わって、直流を交流に変換することができます。
図10は、図9に示した原理図のスイッチS1~S4の代わりに、サイリスタを用いたインバータの基本回路の一例です。
サイリスタをターンオフさせるために、負荷Rと並列に転流用のコンデンサCが接続されています。
サイリスタをターンオンさせた後、ターンオフさせるための回路を「転流回路」と呼びます。
【図10 サイリスタを用いたインバータの回路図】
図10において、例えば図9(b)のt0の時点で、gp1とgn2にパルス状のゲート電流を流し、Qp1とQn2をターンオンさせると、Qp1→R→Qn2の回路がつくられ、負荷Rには電圧Vが加わり、電流Iが流れ、同時にコンデンサCにも、Vが加わり充電されます。
次に図9(b)のt1において、gp2とgn1にパルス状のゲート電流を流し、Qp2とQn1をターンオンすると、Cに充電されたVによって、Qp1とQn2はターンオフし、Qp2→R→Qn1の回路がつくられて、Rには反対方向の−V が加わり、−Iが流れます。また、Cは以前と反対の極性で充電され、−Vに達します。
その後、図9(b)のt2において、Qp1とQn2をターンオンさせると、Cに充電された−Vによって、Qp2とQn1はターンオフし、t0の場合と同じ状態になり、これらの繰り返しによって交流出力に変換されます。
このような回路では、負荷にかかる出力は、図9(b)のような方形波になるので「単相方形波インバータ」と呼ばれます。フィルタ回路などで方形波の角を丸めて、正弦波に近づけることもできます。
「チョッパ制御」とは、電流のON―OFFを繰り返すことによって直流または交流の電源から、任意の電圧や電流を作り出す制御方式です。「チョッパ」(chopper) とは、英語で「切り刻むもの」の意味で、電流(電圧)を切り刻んでいるかのように制御しているということになります。
入力電圧より下げる制御を「降圧チョッパ」、入力電圧より上げる制御を「昇圧チョッパ」といいます。
図11は、チョッパ制御の基本原理を説明するための図です。
図11(a)は基本回路図で、図11(b)は動作波形を示す図です。
【左:図11(a)チョッパ制御の基本回路図 / 右:図11(b)チョッパ回路の動作波形】
図11(a)は、電源V、負荷抵抗R、およびスイッチS1で構成された回路です。
図11(a)の回路では、スイッチS1をt0でオン、t1でオフにすると、負荷抵抗Rに加わる電圧Vは、図11(b)のようなパルス状の波形になります。
周期T(t0→t2)において、t1が1/2の期間とすると、平滑回路を通した後の実効的な電圧は、V/2となります。また、スイッチS1のオンとオフの比率を可変することで平均される電圧を可変することができます。
このような原理の図において、スイッチs1をサイリスタに置き換えれば、サイリスタによるチョッパ制御回路になりますが、サイリスタをターンオンさせた後、ターンオフさせるための転流回路も必要になります。
実は、転流回路を必要としないサイリスタが、図12において、図11(a)のS1のかわりに設けられた「GTO」という部品です。
「GTO」とは、ゲートターンオフサイリスタ(gate turn-off thyristor)の略で、ゲートに逆方向の電流を流すことにより、ターンオフできる機能をもつサイリスタです。
GTOを用いれば、チョッパ制御回路を容易に作成することができます。
【図12 GTOを用いたチョッパ制御回路】
チョッパ制御回路を用いた電源回路が「スイッチング電源」と呼ばれる電源回路です。
直流電圧から異なる電圧値の直流電圧を作るDC-DCコンバータは、チョッパ制御回路の応用なのです。
また、チョッパ制御は電車の速度制御等にも応用されています。
ここで、サイリスタとトランジスタの相違について、両者の特徴を比較しながら整理してみましょう。
上記3.(4)の②でも取り上げましたが、「GTO」(gate turn-off thyristor)は、ゲートに逆方向の電流を流すことでターンオフできる機能をもつサイリスタです。特徴として、GTOは数千アンペアの電流を制御できる能力があります。
また、サイリスタよりも高速でスイッチングできます。したがって、変動する負荷に対して迅速に対応することが可能であり、モーターのスピードコントロール等に適しています。
応用例としては、速度制御と方向制御が可能なので、電車の効率的な運転に寄与しています。さらに、太陽光や風力など再生可能エネルギーから得られる電力を、安定した電力として送電網に供給する際などにも使用されています。
「トライアック」は、日本語では「双方向サイリスタ」と呼ばれます。トライアックとは、ゲート電圧をトリガーとして順方向・逆方向どちらにも導通させることができる半導体スイッチです。サイリスタが1方向に電流を流すのに対して、双方向に電流を流せます。
なお、トライアック(TRIAC)は、”TRIode AC Switch“の略です。Triodeは3極の素子のことを意味し、ACは交流(Alternating Current)を意味します。そのため、交流を双方向にスイッチする3極の素子ということになります。
図13にトライアックの回路記号を示します。
サイリスタを2つ逆方向に並列接続した構造で、直流だけでなく交流も扱えるようになっています。双方向なので、アノードとカソードの区別はありません。ゲート(G)にパルスを加えて制御します。
【図13 トライアックの回路記号】
トライアックの特徴として、交流電圧の位相制御ができます。
そのため用途としては、調光器、ヒーターの温度制御、モーターの回転数制御などがあげられます。
ということで今回は、「サイリスタ」について解説してきました。
サイリスタは大きな電流を扱えるため、扇風機などの家電から、大きいものでは電車のモーターまで、様々な機器に利用されています。とても重要な半導体といえるでしょう、
(日本アイアール株式会社 特許調査部 E・N)