サプライヤー監査とは?具体的な実施手順、チェックリスト例まで徹底解説!

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サプライヤー監査の解説

この記事では、サプライヤー監査の目的具体的な実施手順チェックリストの例効果的なサプライヤー監査を行うポイントを解説します。ぜひ最後までお読みください。

1.サプライヤー監査とは?

サプライヤー監査」とは、企業が原材料などを購入している取引先(サプライヤー)に行う監査です。
社内で認定した監査員が、サプライヤーのQMS(品質マネジメントシステム)の実施状況や実際の作業手順などを確認し、品質不具合が予見されるようなリスクを発見した場合には、是正を依頼します。
実際に品質不具合が発生する前にリスクを発見し、事故の未然防止ができる有効な手法です。

 

第二者監査とは?

サプライヤー監査と似た言葉で「第二者監査」があります。
第二者監査」とは、外部提供者に行う監査で、「外部提供者」とは外部からの供給(サプライヤー)や外部からの委託(外注先)を指します。
第一者監査が社内の監査、第二者監査がサプライヤーや外注先といった取引先の監査、第三者監査が認証機関など第三者による監査となり、どれも品質不具合のリスク低減への有効な手法です。特に第二者監査は顧客である企業がサプライヤーに対して直接行うため、より具体的かつ実践的な視点での評価が可能となります。
本記事ではサプライヤー監査について述べていますが、外注先への監査にも適用できる内容です。

 

2.サプライヤー監査の目的

サプライヤー監査は、組織が取引先の品質管理体制や実務プロセスを評価し、製品やサービスの品質を確保するための重要な活動です。
この監査の主な目的は、サプライチェーン全体での品質保証リスク管理、そして継続的な改善にあります。

監査を通じて、サプライヤーの品質マネジメントシステム(QMS)の有効性、法令順守状況、契約要件との適合性を確認します。また、潜在的な問題点を早期に発見し、予防措置を講じることで、品質問題の発生を未然に防ぐことができます。

 

3.ISO9001とサプライヤー監査の関係

ISO9001:2015では、外部提供者(サプライヤー)の管理に関する要求事項が、「8.4.3 外部提供者に関する情報」で規定されています。具体的には、外部提供者のパフォーマンス管理及び監視、妥当性確認活動が要求されています。

パフォーマンスの管理・監視とは、要求した品質通りの製品が納入されているか受入検査で確認することや、納期通りに納入されているかの分析、第二者監査で妥当性を確認することを指します。
このように、企業はサプライヤー監査を品質マネジメントシステムの重要な要素として位置づけ、計画的に実施する必要があります。

 

4.サプライヤー監査の実施手順とポイント

では、サプライヤー監査の具体的な進め方を見ていきましょう。

(1)事前準備

サプライヤー監査は企業の代表として監査を行いますので、事前準備が非常に重要です。
まず、サプライヤー監査に必要な事前準備について解説します。

 

① サプライヤー監査計画の立案

サプライヤー監査の全体責任者は、まず全体計画を立案します。全体計画では、監査対象とするサプライヤーの選定と監査チームの編成と大まかなスケジューリングを行います。

 

監査対象となるサプライヤーの選定

監査対象とするサプライヤーは、以下のような選定基準を用いて選定します。

  • 供給製品・サービスの重要度
  • 取引規模と頻度
  • 過去の品質実績
  • 前年度の監査結果

サービスの重要度が低い、取引規模が小さい、前年度の監査結果が良好だった、などの理由から、今年度の監査はなしとする、あるいは自己チェック(サプライヤー自身で書類評価を行う形式)のみとする、といった方法もあります。逆に前年度に品質事故のあったサプライヤーには、現地で直接監査を行い是正処置が行われているか確認することも重要です。
これらの基準に基づいてリスク評価を行い、高リスクのサプライヤーを優先的に監査対象とすることで、限られたリソースで効果的に監査を行えます。

 

監査チームの編成と大まかなスケジューリング

どのサプライヤーに監査を行うか決定したら、監査チームの編成と大まかなスケジューリングを行います。
監査チームの編成では、監査リーダーを任命し、さらに技術専門家、品質管理の専門家など、必要なスキルを持つメンバーを選定して監査チームを編成します。
監査の規模に応じて、適切な監査員の配置、必要な日数、交通費などの経費を事前に見積もります。

監査スケジュールには、以下の要素を含め、最終的な是正処置を実施完了し、監査報告書の完成が全体の監査結果報告書に間に合うようスケジューリングを行いましょう。

  • 事前準備期間(書類レビュー、チェックリスト作成)
  • 実地監査の日程
  • 報告書作成期間
  • 是正処置実施期間

サプライヤーの繁忙期を避け、十分な準備時間を確保することも重要です。

 

② 監査チェックリストの作成

監査チームに任命された監査員は、事前に監査で確認すべき項目をまとめた監査チェックリストを作成します。効果的な監査チェックリストを作成するには、サプライヤーの業種や提供する製品・サービスの特性に合わせてカスタマイズする必要があります。
QMS(品質マネジメントシステム)を重点的に監査するのであれば、ISO 9001の要求事項などを参考に作成しましょう。また、過去の監査で確認された不適合事項や改善点も反映させることで、継続的な改善を促進することができます。
さらに、チェックリストは単なる確認項目の羅列ではなく、各項目の重要度や関連する要求事項も明記することで、監査の焦点を明確にし、効率的な監査実施を可能にします。

 

監査で確認すべきQMSの主要項目に関するチェックリスト

効果的な監査を実施するために、たとえば以下のような項目を含めたチェックリストを作成します。

  • 品質方針と目標: 品質方針と、それを達成するための具体的な目標が明確に設定されているか
  • 文書化された手順: 業務プロセスが標準化され、必要な手順が文書化されているか
  • 記録の管理: 品質記録が適切に作成・保管・管理されているか
  • 工程管理: 各製造工程が計画通りに管理され、工程パラメータが適切に監視・記録されているか
  • 検査・試験: 原材料受入れから最終製品出荷までの各段階で、適切な検査・試験が実施されているか。また検査基準の妥当性や、不適合品の処置方法も重要
  • 設備管理: 製造設備の保守点検、校正、能力評価が計画的に実施されているか
  • 教育訓練と力量評価: 従業員に必要な知識・技能を習得させるための教育訓練計画や客観的な評価プロセスが策定・実施されているか
  • 責任と権限: 品質問題発生時の対応権限や報告ルートが明確になっているか

 

サプライヤー特有のリスクの見極め方

上記のQMSに関する確認項目とは別に、サプライヤー特有のリスクを特定するための質問項目も重要です。
たとえば以下のような観点でチェックリストを作成してみてはいかがでしょうか。

  • 規制要件:サプライヤーの業界に適用される法規制や業界標準の要求事項を理解し、コンプライアンス状況を評価します。業界ごとに異なる規制要件を把握することで、規制違反のリスクを事前に特定し、適切な対策を求めることができます。
  • 技術的要件: 業界特有の技術要求や品質基準を確認し、サプライヤーの対応能力を評価します。特に先端技術や高度な品質要求がある業界では、技術的な不適合リスクを重点的に確認する必要があります。
  • 生産能力: サプライヤーの生産能力と柔軟性を評価し、需要変動に対応できるかを確認します。急な需要増加や、震災・パンデミックなど緊急時の対応能力が不足している場合、納期遅延や品質低下のリスクが高まります。
  • 技術力: サプライヤーの技術開発能力や問題解決能力を評価し、技術的課題への対応力を確認します。技術革新が速い分野では、サプライヤーの技術力不足が競争力低下につながる可能性があります。

 

(2)当日の実施手順

① オープニングミーティング

監査当日、まずはオープニングミーティングを行いましょう。オープニングミーティングに必要な項目の例は以下の通りです。

  • 監査チームの紹介: 監査チームメンバーのそれぞれの役割や担当分野を説明
  • 監査の目的と範囲の確認: 監査の目的と対象範囲を明確に説明
  • 監査基準の確認: どのような基準で監査を行い、不適合が発見された場合にはどのように評価を行うのかを共有
  • スケジュールの確認: 監査スケジュールを確認し、必要に応じて調整する
  • 機密情報の取り扱いについての合意: 監査中に接する機密情報の取り扱いについて明確に合意し、サプライヤーが安心して情報を開示できる環境を整える

 

② 監査の実施

監査では客観的事実の収集が重要です。監査員の主観による判断ではなく、どの作業や文書が、何に照らし合わせて問題なのかを明確にします。個人的な意見や推測ではなく、「作業手順書では〇〇という作業を行うはずが、××の状態でした。」など、具体的な事実に基づいて指摘します。

この際、単なる批判ではなく、改善の方向性を示す建設的なフィードバックが提供できるよう心がけましょう。「〇〇を改善することで、××というメリットが期待できます」といった形で、改善による利点も併せて伝えることが効果的です。
また、サプライヤーの環境や制約条件を理解し、現実的な視点で評価します。過度に理想論を押し付けるのではなく、サプライヤーの状況に即した改善提案を行うことで、実行可能な改善につながります。

さらに、可能であれば実際の作業を直接見学する現場観察を行います。現場観察では、「言っていること」と「やっていること」のギャップを発見することが重要です。また、監査員は発見した課題をその場で指摘するだけでなく、根本原因の理解に努める姿勢が求められます。

 

③ クロージングミーティングの進め方

監査終了後はクロージングミーティングを行います。このミーティングでは、監査で発見した事実を整理しサプライヤーと共有します。

好事例や改善点を具体的に説明し、サプライヤーの取り組みを適切に評価します。不適合事項がある場合は、その事実と根拠を客観的に説明し、是正処置についてサプライヤーの理解と合意を得ることが重要です。
最後に、サプライヤーからの質問や意見に丁寧に対応し、相互理解を深めることで、監査後の改善活動がスムーズに進むよう配慮します。

 

(3)監査後のフォローアップ

監査終了後は速やかに監査報告書を作成してサプライヤーに送付し、必要であれば是正処置を依頼します。

 

① 監査報告書の内容

監査報告書には以下のような情報を記載します。

1. 監査の基本情報

  • 実施日時と場所
  • 監査チームメンバー
  • 監査対象範囲(監査した部門、プロセス、生産ラインなど)
  • 適用基準(監査の評価基準となった規格、ISO 9001や顧客要求事項など)

 
2. 監査結果の詳細

  • 適合事項(要求事項に適合している事項や特に優れた取り組み)
  • 不適合事項(要求事項からの逸脱や不適合を具体的に記述)
  • 改善推奨事項(現状は要求事項に適合しているが、さらなる改善の余地がある項目)
  • 好事例(業界標準を超える優れた取り組みや創意工夫)

 
3. 結論と推奨事項

  • 総合評価(監査結果の全体評価を記載。業界によっては監査結果が良好ではない場合には、発注量を減らす処置などをとる)

監査報告書は単なる記録文書ではなく、サプライヤーとのコミュニケーションツールであり、改善活動の起点となる重要な文書です。そのため、事実に基づく客観的な記述と、建設的な改善提案のバランスを意識して作成することが重要です。

 

② サプライヤーへの是正処置要求

監査はやって終わりではなく、監査後の是正処置完了までが重要です。

 

是正処置のフォローアップ手順

サプライヤーに是正処置を確実に実施させるため、以下のような手順が効果的です。

  1. 是正計画のレビュー: サプライヤーに是正計画を提出させ、不適合の根本原因に対応しているか、実施スケジュールは適切か、責任者は明確か、といった観点から確認をします。
  2. 進捗確認の方法と頻度: 重要な不適合や短期的な対応が必要な項目については、週次など案件の重要度に応じたフォローアップを実施します。
  3. 有効性評価の基準: 是正処置の実施後は、有効性を判断します。「特定の不良現象が3ヶ月間発生していないこと」「抜き取り検査で規定値内であることが継続的に確認できること」など、客観的かつ測定可能な基準を用いて本当に効果があったかを確認することが重要です。
  4. 水平展開の検討: 特定のサプライヤーで発見された重要な不適合や優れた改善事例は、他のサプライヤーへの水平展開を検討します。類似のリスクを持つ他のサプライヤーに対する予防的な評価や、改善のベストプラクティスの共有で、サプライチェーン全体の品質向上につながります。ただし、機密情報の取り扱いには十分配慮します。

フォローアップは形式的なチェックに終わらせず、サプライヤーとの対話を通じて、改善活動の深化と定着を支援する姿勢が重要です。効果的なフォローアップにより、一時的な対策ではなく、持続的な品質向上の仕組みづくりを促進することができます。

 

是正処置要求の伝え方

是正処置要求を効果的に伝えるためには、以下の点に注意が必要です。

  • 不適合の明確な説明: 観察された事実と要求事項との乖離を客観的に説明します。「〇〇工程において、作業手順書に規定された××の確認が実施されていませんでした」など、具体的な状況を示します。
  • 根拠となる要求事項の提示: 不適合の判断基準となった要求事項を明確に示します。「ISO 9001:2015の8.5.1項では…」「契約書第〇条に基づく品質要求事項では…」など、具体的な参照先を示すことが有効です。
  • 期待される改善の方向性の明示: 単に「是正してください」と伝えるのではなく、期待される改善の方向性を具体的に示します。ただし具体的な方法はサプライヤー自身が考える余地を残すことも重要です。
  • 合理的な対応期限の設定: 不適合の重要度とリスクを考慮した現実的な対応期限を設定します。サプライヤーの事業サイクルや繁忙期も考慮し、「対応計画の提出」「暫定対策の実施」「恒久対策の完了」など、段階的な期限設定も効果的です。

 

5.効果的なサプライヤー監査を行うには

より効果的なサプライヤー監査を実施していくためには、継続的な監査ルールの見直しと監査員のレベルアップが重要です。

 

(1)監査ルールの継続的改善

「監査ルール」とは、監査するサプライヤーの選定基準や監査頻度、チェック項目監査基準を指します。サプライヤー全体の監査結果を分析し、次年度の監査計画に活かします。

たとえば、どのサプライヤーも監査結果が良好であまり指摘がない場合には、監査頻度を減らす・監査基準を厳しくするといった監査ルールの改訂を考慮しましょう。監査計画は固定的なものではなく、ビジネス環境や品質状況の変化に応じて柔軟に見直すことが重要です。

 

(2)監査員のレベルアップ

また効果的なサプライヤー監査には、監査員のレベルアップも欠かせません。監査員は、顧客クレームなどの品質状況、社会動向や業界動向、サプライヤーの製造工程などを熟知して力量を維持しなければなりません。
さらに外部研修などを通じて、業界知識の取得効果的な質問技法コミュニケーションスキルなどを身につけるのも効果的です。

 

6.まとめ

いかがだったでしょうか。効果的なサプライヤー監査は、サプライヤーにとっても自分たちだけではなかなか気付けない、言い出しにくい改善を進める大きなチャンスです。
品質不具合の未然防止につながるサプライヤー監査が行えるように取り組んでいきましょう。

 

(アイアール技術者教育研究所 K・A)
 
 


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