- 《大好評》LTspice設計実務シリーズ
LTspiceを活用したEMC設計基礎から設計応用(セミナー)
2024/12/19(木)10:00~17:00
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センサを用いる制御などにおいて重要なS/N比(SN比、エスエヌ比、信号雑音比、信号出力・ノイズ出力比)と、しきい値(閾値、threshold、スレッショルド、スレッシュホールド)について、考え方を説明します。
制御においては、物理量変化をセンサで電気変化として捉え、これをコントローラでの処理や演算に用いるためにデジタル信号に変換します。
信号処理前の最初のセンサ波形(生(なま)検出波形)と、実際の検出対象の動きとの関係は、図(A)のようになります。
ここで示した例は、バルブの動きを位置センサで検出するものです。実際のバルブの動きは緑の線のように、最大リフトの時に跳ね返りながら止まり、もとに戻る時も跳ね返りながら戻るという動きをします。
これに対して、センサの生検出波形には、赤の点線のように、跳ね返りも含めて正しく実際の動きを捉えている部分に、ノイズと呼ばれる電気的外乱成分が重なっています。
電気的外乱成分には、センサの原理・構造から生じてしまうもの、センサの搭載環境からくるもの、そして外部から一次的に受ける電磁ノイズによるものなどがあります。
生検出波形の基本的構成は、センサの出力波形にノイズ出力波形が重なったものとなり、これを図に表すと図(B)のようになります。
図(B)のような場合に対して、図(C)のように、センサ出力に対してノイズ出力の割合が大きくなった場合には、検出対象の動きを判別することができません。
センサの全体出力において、ノイズ成分の割合が小さいほど、センサ出力と検出対象の変化との相関の精度が高くなるため、これを見る尺度としてS/N比を用います。S/N比は、次の式で求められます。
信号処理回路を用いて、出力波形の周波数成分を選別することを「フィルタリング」と呼びます。
ローパスフィルタ(Low-pass filter)は、高周波数成分をカットして、低周波成分をパス(減衰せずに残す)します。
ノイズ成分は、センサの基本的な出力変化に対して高周波数成分として加わることが多いため、ローパスフィルタを用いることにより、図(D)にイメージを示すように、生波形の整形ができます。
この波形整形処理においては、実際の検出対象の変化のうち、ノイズ成分と同程度の高周波数変化成分もカットされます。
このような処理が、センサを用いる制御の目的とする機能と精度において、影響が無いかの確認が必要です。
例えば図(A)で例に挙げたバルブのリフト検出の場合、実際のバルブの跳ね返りを検出している部分は図(E)に差を示すように、フィルタリング処理によって無くなります。
しきい値は、判定するための基準値、もしくは状態を切り替えるための基準値を意味します。
センサで言えば、検出目標とするとする変化が生じたかの判定をしたり、異常を判定してバックアップ制御などに切り替えるための基準値です。図(F)に例を示します。
この例では、コントローラにおける処理により、センサの出力がしきい値を越えると、デジタル信号0から1に切り替えます。(F2)は(F1)に比べて、しきい値の大きい場合を示しますが、このような検出波形の発生を用いて制御するとき、(F2)の方が挙動判定が遅れることになります。
一方、しきい値を小さくし過ぎると、検出波形の立ち上がり前にあるノイズ出力に反応して、波形が生じたと判定し誤検出となります。
S/N比が小さいということは、検出波形とノイズ波形の大きさの差が小さいことを意味しますので、しきい値を小さくすると誤検出しやすくなります。
図(F3)は、異常判定のための、しきい値の例を示しています。
センサの故障診断の方法として「シグナルレンジチェック」と呼ばれる方法があります。これは正常時に発生する出力範囲をはずれたセンサ出力が発生したことを検知して異常判定を行うものです。図(F3)の緑色の範囲が正常時の出力範囲で、赤色の範囲が異常時と判定する出力範囲です。
センサの出力バラツキ(固体バラツキ、繰り返しバラツキ)やノイズも考慮して誤判定のないように、しきい値を設定する必要があります。黄色の範囲は、そのような考慮や誤判定を防ぐための余裕率を示しています。
例えば電磁ピックアップ方式の回転センサのように、検出条件により検出出力が変化する場合があります。(磁場変化を用いているため回転速度が上がると出力が大きくなる)
このような場合に、出力波形の判断をするためのしきい値の設定を小さくしたときと、大きくしたときを図(G1)と(G2)に示します。
出力波形が小さい場合でも検出できるように図(G1)のように、しきい値を小さくすると、出力が大きいときにノイズを検出してしまう可能性があります。一方、しきい値を大きくしていくとノイズの影響は受けにくくなりますが、図(G2)のように出力波形が小さい時に検出ができなくなります。
S/N比が小さいほど、最適なしきい値を設定できる範囲が狭くなります。あるいは、実際の出力が得られる範囲でも制御信号として使える範囲が狭くなります。
これに対して図(G3)は、制御における対応策の例で、センサ出力の大きさに応じて自動的にしきい値を変える「可変しきい値」という考えです。
S/N比を大きくするための方策としては、S(信号出力)の方を大きくするか、N(ノイズ出力)の方を小さくするかになります。
信号出力を大きくするには、検出対象が同一でも原理的に出力が高いセンサとしたり、センサの出力バラツキを減らして、同一状態での出力の最低値を上げるというアプローチがあります。
一方、ノイズ出力を小さくするには、以下のようなアプローチがあります。
以上、今回のコラムではS/N比としきい値の考え方についてまとめてみました。
関連する制御設計をする際の参考として頂ければ幸いです。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・N)
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