- 《大好評》LTspice設計実務シリーズ
LTspiceで学ぶ電子部品の基本特性とSPICEの使いこなし(セミナー)
2024/12/5(木)10:00~16:00
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電子回路を構成する部品に、「SAWフィルタ」があります。
SAWフィルタという部品名は聞いたことがないという方も多いでしょう。
しかし、現在、スマートフォンや携帯電話には必ずと言っていいほど使われている部品なのです。
今回は「SAWフィルタ」の概要についてみていきましょう。
“SAW“とは、Surface Acoustic Wave(弾性表面波)の略語です。
「弾性表面波」とは、固体表面を伝播する波動のことです。
池に小石を投げ入れたりすると、波が起こり周りに伝わっていきますし、壁の表面を叩いたりしても、その振動は、周りに伝わっていきます。これが弾性表面波ということになります。
SAWフィルタは、かつては、ブラウン管テレビ受像機の高周波回路に使用されていました。
その後、小型化が進み、現在では、スマートフォンや携帯電話などの無線通信機器のキーデバイスの1つとなっています。携帯電話の音質が初期の頃と比べて格段によくなっているのも、SAWフィルタのおかげなのです。
図1は、SAWフィルタの原理と簡単な構造を示す図です。
上の図は、上面図で、下の図は、側面図です。
【図1 SAWフィルタの原理と簡単な構造】
図1において、SAWフィルタは半導体製造のフォトリソグラフィ技術を利用し、圧電基板(タンタル酸リチウムや水晶など)の表面に、駆動用(励振用)と検出用(受信用)のくし形電極を形成した素子です。
駆動用電極に高周波電圧が加わると、電極ピッチ(くし形電極の歯のピッチ)に応じた波長の振動が強く励振され、これが表面波となって検出用電極に伝わります。
表面波は、その波長λと電極周期が等しい場合に最も強く励振されます。
中心周波数foと表面波の伝搬速度vとの間には fo=v/λ の関係があり、表面に形成された電極間隔で周波数が決まります。検出用電極ではその周波数の振動を電気信号に変換します。
このようにして、特定の周波数の信号を検出するフィルタの役目を果たします。
図2は、SAWフィルタの周波数特性の例です。
SAWフィルタは、減衰特性が急峻なので、狭い周波数帯の信号も低損失で取り出すことができます。
【図2 SAWフィルタの周波数特性の例】
SAWフィルタと似た部品で「BAWフィルタ」があります。
“BAW“とは、Bulk Acoustic Wave(バルク弾性波)のことです。
「バルク弾性波」とは、3次元的な拡がりを持つ媒質中を伝搬する弾性波を言います。表面を伝播するSAWとは、区別されています。
図3は、BAWフィルタの原理を示す図です。
圧電材料(ここでは水晶基板)を挟んで電極が設けられています。
【図3 BAWフィルタの原理】
図3において、水晶の上面と下面にある電極が弾性波を励起し、弾性波が電極と水晶の間を往復します。
BAWの弾性波は、SAWフィルタの水平伝播パスに対して、垂直に伝播します。
圧電材料に弾性波エネルギーを保存することによって、BAWは非常に高いQ値を達成でき、これにより急峻なフィルタを実現できます。
BAWフィルタには、「FBAR型」や「SMR型」があります。
「FBAR」(Film Bulk Acoustic Resonator)とは、共振器の下部に空洞(キャビティ)を設けることで、圧電膜を自由に振動させる構成になっています。
薄膜がスパッタなどにより薄く形成でき、また微細なパターンも不要なので、高周波化が図りやすいです。
また、「SMR」(Solid Mounted Resonator)は、共振器の下部に音響多層膜(ミラー層)を設けることで、弾性波を反射させる構成になっています。
SAWフィルタは、BAWフィルタと比較すると、コスト面で有利なので、800MHz~2GHzまではSAWフィルタが使用されることが多いです。
放熱性は、BAWフィルタより良くありません。
一方BAWフィルタは、SAWフィルタより帯域端の切れがよいので、2GHz以上を使う移動体通信システムには必要不可欠で、3GHz以上の高い周波帯域でも適用可能です。
このように、SAWフィルタやBAWフィルタは、高い周波数を扱うスマートフォンには、不可欠な部品となっていて、1台に20個以上使用される場合もあります。
5Gの時代になれば、ますます高性能なSAWフィルタやBAWフィルタが求められることでしょう。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 E・N)