乾燥速度の支配因子:膜面温度とガス濃度をやさしく解説《Roll To Rollフィルム乾燥のツボ③》
乾燥中のフィルム温度は乾燥風よりも低くなります。
膜面温度は雰囲気の湿度やガス濃度に依存し、乾燥速度に大きな影響を与えます。
今回のコラムでは、水系の空気線図を中心にそのイメージを説明します。
1.フィルム製造における乾燥速度の支配因子
乾燥速度は「外気の温度」と「塗膜の表面温度」の差に比例します(図1;文献1)。
厳密には乾燥後半は膜面温度が上昇して乾燥速度が遅くなる「減率乾燥期」になりますが、それは次のコラムに譲り、ここでは乾燥速度が一定の「定率乾燥(または恒率乾燥)期」で説明します。
この「塗膜の表面温度」は雰囲気のガス濃度が低いほど外気より低い温度になり、蒸発するガスの種類によっても変わります。これも続くコラムで解説しますが、ここでは「雰囲気のガス濃度が膜面温度に影響する」と覚えておきましょう。
【図1 乾燥速度の支配因子】
2.乾燥速度と諸因子(ガス濃度、風速、外気の温度)
雰囲気を高温にするほど速く乾くイメージは皆さんお持ちでしょうが、低ガス濃度でなければ高温にしても早く乾きません(図2)。梅雨時に気温が高くても洗濯物が乾きにくいのと同じイメージです。
風速も影響しますが低ガス濃度で速乾になります。水のガス濃度は湿度ですが、他の溶媒では蒸発するガスの気中濃度になります。
図2に水系と比較するために同濃度で計算しましたが、実際のRoll To Rollプロセスでは防爆上、LEL(爆発下限界濃度)の33%以下の低濃度にしなければならないので、通常この計算より低ガス濃度になります。
【図2 乾燥速度と諸因子】
(注)なお、図2は以下の条件で計算しました。
[送風方式]二次元ノズル(開口率=4%)、[スリット条件]幅=3mm, 間隔=75mm, 塗膜距離=100mm
[伝熱係数]hc (W/K・m2) = 0.17・GA0.78, GA(kg/m2・hr) :質量風速
3.塗膜の膜面温度は湿球温度(空気線図を使った見積例)
ガス濃度と膜面温度の関係を水系で説明しましょう。
湿度計として、右写真のような2本対の温度計を観たことがあるかと思います。
左側は普通の温度計で、雰囲気の気温を「乾球温度」として測定します。
右側の温度計では「湿球温度」を測定します。下の球が湿ったガーゼで覆われており、ガーゼ下端はタンクの水に浸されています。水が毛細現象で球を覆うガーゼまで吸い上げられています。ガーゼで覆われた「湿球」表面では水が蒸発して温度が下がります。蒸発の程度は湿度に対応するので湿度を見積もる事ができるのです。
ここで 乾球=28℃、湿球=22℃ の時に湿度が何パーセントになるか見積もってみましょう。
見積もりには「空気線図」を使います(図3;文献2)。段取りは以下です。
- ① 横軸の温度で、乾球温度と湿球温度を見つけ、縦に線を伸ばす。
- ② 湿球温度と曲線の100%の交点を見つける。
- ③ その交点から「比エンタルピー線」と表記されたナナメ線を伸ばし、乾球温度の直線との交点を探す。
- ④ その交点が載る曲線の相対湿度RH(%)を読む。
この場合は湿度60%になります。
【図3 空気線図】
「比エンタルピー線」は「蒸発により膜面温度を下げるために必要な熱量」を示していますが、これも続くコラムで解説します。
水系の場合は空気線図から湿度を見積もることができますが、タンクの液を他の溶媒に替えて、他の溶媒で空気線図を作れば、同様にガス濃度と膜面温度を見積もることができます。
(※この記事は AndanTEC代表 浜本伸夫 講師からのご寄稿です。)
≪引用文献、参考文献≫
- 1)浜本伸夫、「理論と現場の融合で RTR プロセスの改善を目指す 第3回 乾燥性と溶媒種」, コンバーテック2022年6月号、pp20-24
- 2)yu-note 「設備手帳を読む(設備手帳を読む)」 https://yunotebook.com/kutyo-kuukisenzu/
- 第1回: 実験室からRoll To Rollへ|塗れる条件と塗工・乾燥のポイント
- 第2回: 薄く塗るか?厚く塗るか?適正なダイ構造と条件
- 第3回: スケールアップの注意点を解説|狭幅パイロットから広幅の量産へ
- 第4回: 同時重層のポイントを解説|粘度と流量のバランスは?
- 第5回: バックアップしない塗工方式 TWOSD (Tensioned Web Over Slot Die)