品質ルールと品質マインドの最適バランスは?
顧客満足が得られるような製品やシステムの品質の維持や向上のために、品質ルールを守ることと、品質マインドを持つことは、車の両輪のようなものです。
この二つについて、さらなる理解のため、具体的な事例をあげて説明したいと思います。
「品質ルール」とは
ここで言う品質ルールとは、品質マネジメントシステムの品質マニュアルからはじまり、設計図面規格や工程規格で指示されているもの、さらには品質に関する行動に関して明文化されているもののことを意味します。
それならば品質ルールは、守るのが当たり前で、議論の余地は無い、と思われるでしょうか?
目の前の工程作業など、手順が明確に決められている場合には、その通りに進めなければならないのは当然で、迷いも無いと思います。
一方、関連する品質ルールすべてと言った場合、それは山ほどあり、全て常に覚えていられるわけではありません。それでも細かく明文化されたルールがあると助かるのは、迷ったときに参照できるからです。
そうでなければ、頻繁に上司や先輩などに、どうすれば良いかを確認することになります。これは双方にとって大きな時間ロスとなります。
ただ、たとえ知らなければならないルールが山ほどあったといえども、目的を含む根幹部分は完全に記憶しておく必要があります。
限度見本で基準を明確化する
個人の判断が大きくバラつく場合には、判断基準を明確にする必要があります。
例えば、アルミ二ウムハウジングの外観上の要求品質特性として、‘キズなきこと’という規格があった場合を考えてみましょう。
‘キズ’に対する個人の解釈と許容値の理解はバラつきます。‘キズ’がどのくらいのものを意味するのかをはっきりさせておくことが必要です。
部品どうしが軽く当たった跡はOKか、シール性など機能に影響を与えない箇所のある程度のキズはOKかなどを、納入先との合意もおこない、はっきりさせておかなければなりません。
このような場合、「限度見本」と呼ばれる方法が用いられます。
キズの箇所や種類に対して、キズの大きさの段階を示す写真をならべて、合格基準を視覚化するものです。
変化点に対する感性
品質不良品発生の解析において、変化点を分析することは有効です。
仕様変更はもちろんですが、工程変数、材料の取入れ先、組立や検査方法などの変化点を確認します。
変化点には、変更した点はもちろんですが、アクシデント的に変化してしまった点も含まれます。
一方、変化点の検出は、不具合が起きてからだけでなく、不具合の防止にも有効です。
次のような事例があります。
通常、部品バリエーションは時とともに増えていきます。物流も含めたコストの点で、種類は少ないに越したことはありませんが、それなりの理由があって似て非なるものが登場し、誤品管理が必要になります。
ある時、誤品を含むコンポーネントが製品に組付けられました。
組付けまでの受け入れ検査、出荷検査などで誤品は検出されませんでした。
見つかったのは製品を次のレべルの製品に組付ける工程でした。組付け作業を行っていた人が、‘いつもと持った感じが違う’ということでリーダーに連絡したことがきっかけで、誤品が含まれていることが分かりました。
この段階で分かったことにより誤品が最終的な市場に流出することはなく、市場での不具合も未然に防止されました。
組立規格には、‘部品の持った感じが違うか確認する’という項目はありません。
この例のように、規格に無くても「何か違っていること」に気が付き行動するという変化点に対する感性は、品質活動において重要です。
日本製品の品質の高い理由は「品質マインド」の高さ
品質の高い日本の工場の品質保証のやり方を知ろうとした外国の工場で働く品質保証担当者が、日本の工場の品質マニュアルやルールを見て、意外に思う時があります。
それは、思っていたより、詳細ではなく、ルールの量が少ないと感じるからです。
自分たちの工場のルールの方が、よっぽど膨大なルールを体系化していると思うのです。
それなのに何故、日本の品質が高いかというと、一言で言えば、品質マインド(品質意識)が高いからです。
ルールになくても、良い品質のものを作るという意識により正しい判断ができるようになっているからです。
可能性のある千差万別の状況における行動ルールを全て明文化しようとするとその量は膨大になります。(例えば、ルールで全てをカバー仕切れずに、例外規定が設けられ、さらに例外規定が適用できないケースを規定し・・・・・)
品質ルールと品質マインドの最適なバランスを考える
全体の品質活動で考えると、品質ルールに頼り過ぎることも、品質マインドに頼り過ぎることも良くありません。
その両方のバランスが重要です。
では、良いバランスとはどのようなものでしょうか?
上述の限度見本の例はルールがある方が良い例です。
一方、変化点に対する感性の例は、品質マインドの良い例です。
これらの例から考えるならば、誰もが頻繁に遭遇し判断にバラツキが生じるような事象については、正確なルール化が有効で、一方、頻度は稀だが多様で品質意識に基づく応用が必要な事象は、品質マインドでカバーするというバランスが良いのかもしれません。
(アイアール技術者教育研究所 H・N)