- 《大好評》LTspice設計実務シリーズ
LTspiceで学ぶ電子部品の基本特性とSPICEの使いこなし(セミナー)
2024/12/5(木)10:00~16:00
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ポンプは、化学プラント、食品、薬品、石油精製設備、火力発電など液体を用いるシステムの心臓にも例えられる重要な機械です。ポンプが無ければ様々な産業が成り立たないと言っても過言ではありません。
ポンプが、様々な生産システムにおいて意図通りに機能を発揮するためには、要求する技術仕様を遺漏なく正確にポンプメーカーに伝達することが肝要です。また受注生産機においては、適正なコスト設定のためにも技術仕様を明確にする必要があります。
では、ポンプメーカーに適切に伝えるべき仕様情報にはどのようなものがあるでしょうか?
ポンプに要求される基本機能は、単位時間当たりどの位の量の液体(流量Q)を、水柱(ヘッド)に換算してどの位の高さ(全揚程H)のエネルギを持って送り出すことができるかということです。
要求される流量Qと 全揚程Hを、「ポンプ要項」と呼びます。
全揚程は、ポンプ吸込み・吐出しの高低差と圧力差から決定される実揚程と、液を送るために必要な配管系統損失(システムヘッド)の合計です。
[※詳細は、当連載の「ポンプの効率と省エネ化」をご参照ください。]
全揚程はポンプ購入者(発注者)側にて適切に算出して、流量とともにポンプメーカーに提示します。
全揚程に余裕を見込み過ぎるとポンプ性能が実必要性能を大きく上回って運転点が実際に必要とされる点から大きくかけ離れることもあるので、過不足なく全揚程を算出するようにします。
ポンプ基本要項である規定流量と全揚程の他に、下記の項目をポンプ設計に必要な運転条件として仕様書に明記する必要があります。
これら運転条件は、
などに必要となります。
重要度の高いポンプについては、品質記録をきちんと残すために、検査と試験に関する要求事項を仕様書に明記します。
性能試験に関しては、JIS B8301あるいはAPI610などの公的規格を参考にして合格基準を明確にします。(独自基準を設定している場合はそれを優先します。)
性能試験の他、耐圧試験、材料証明書、非破壊検査、寸法検査、運転機能試験、性能試験後の分解検査、塗装検査、など必要な検査試験項目を指定します。
ポンプを適切に選定するためには、ポンプが扱う流体の特性を明確にする必要があります。
ポンプが取り扱う液体の主なものには、清水(高温、常温)、汚濁水、海水、プロセス液(石油系炭化水素、薬液、熱媒、食品)など様々なものがあります。
液名、液温(仕様温度、最高使用温度)、密度、比熱、粘度、腐食性の有無、スラリー混入の有無、飽和蒸気圧特性、など液の特性は、ポンプ部品に使用する材料の選択や、ポンプ構造の設計に関係する重要な特性ですので、仕様書にまとめて明確にポンプメーカーに提示する必要があります。
地上に設置したポンプで開放液面(ピット)から吸い上げるのか、ピット内にポンプを設置するのか、密閉液面(貯槽)内にポンプを設置するのか、貯槽から地上に置いたポンプに吸い込ませるのか、あるいはポンプ設置スペース(面積)をどの位取れるのか、など設備上の制約条件によりポンプの構造が変わってきますので、ポンプを設置する設備仕様を明確に提示する必要があります。
ポンプの要素部品3兄弟である、軸受、軸封、軸継手については、その選定を全面的にポンプメーカー委ねることもできますが、ポンプ購入者(発注者)側が、これら要素部品の正しい基礎知識を持っていれば、ポンプの用途や取扱液に応じた適切な要素部品を自ら選定することも可能ですし、ポンプメーカーが選定した要素部品仕様をレビューすることもできます。
軸受はころがりかすべりか、軸封はグランドパッキンかメカニカルシールか、またその型式は、軸継手はリジッドかフレキシブルか、など基本知識を身につけて仕様選定やレビューを適切に行えるようにしましょう。
駆動機には電動機を使用することが多いですが、設備構内の蒸気を利用する場合に蒸気タービン駆動とする、あるいは電源喪失時の非常用としてデイーゼルエンジン駆動とする、など電動機以外とする場合もあります。
ポンプの駆動機は、ポンプ製作者が手配して供給範囲に含める場合と、ポンプ購入者が支給する場合とがあります。
前者の場合は、駆動機手配に必要となる条件(電動機であれば電圧、周波数、型式、絶縁、冷却方式など)を、仕様書として明確に示す必要があります。
後者の場合は、ポンプ軸動力(最小流量~最大流量)、ポンプ回転体の慣性モーメント(GD2)、ポンプ始動トルクなど駆動機の設計に必要となる条件を、ポンプメーカーから入手します。
各種産業設備に使用するポンプは、メーカーに技術仕様を提示して設計製作する受注生産機種が多くありますので、発注仕様書作成に必要となる基本事項を正しく理解するようにしましょう。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・Y)