3分でわかる技術の超キホン 抗腫瘍薬・抗がん剤のプロドラッグ
当コラムではプロドラッグを特集していますが、今回は「抗腫瘍薬」「抗がん剤」のプロドラッグをご紹介いたします。
1. イリノテカン (Irinotecan・カンプト)
ヌマミズキ科キジュに含まれるカンプトテシン(Camptothecin)をリード化合物としてカーバメート結合をもつイリノテカン(irinotecan)がプロドラッグとして開発されました。
カンプトテシンについては、 1970年代に米国で臨床試験を実施されましたが、水に不溶性であること、動物実験から予知できなかった出血性膀胱炎が発現したことなどにより開発が断念されたという経緯があります。
日本で1978年から誘導体の合成研究が開始され、 エチル基および水酸基を導入することにより抗腫瘍活性を増強した7-エチル-10ヒドロキシ-カンプトテシン(カンプトの活性本体であるSN-38)を合成、さらに水への可溶性を高めることにより、注射剤として製剤化可能なイリノテカンの合成に成功したとされています。
体内では、肝や各組織のカルボキシルエステラーゼにより、活性代謝物SN-38に変換され、がん細胞のトポイソメラーゼIを抑制することにより強い抗腫瘍効果を示します。
肺がん等の各種がん、悪性リンパ腫などの化学療法に広く用いられています。
2. フルオロウラシル (5-FU、5-Fluorouracil)
フルオロウラシルは、1956年に合成され、抗悪性腫瘍薬として使用されてきましたが、1990年代から、フルオロウラシルを親化合物として、種々のプロドラッグが開発されました。
(1) テガフール (Tegafur・フトラフール)
テガフールは、主に肝臓でCYP2A6代謝を受けフルオロウラシルになります。
テガフールは、作用の持続性向上を目的としたプロドラッグです。
さらに、血中 5-FU 濃度を上げて抗腫瘍効果を高め、付随して増大する消化器毒性を軽減するという目的を達成するために、ウラシルやギメラシル、オテラシルカリウム等が配合された医薬品も使用されています。
(2) ドキシフルリジン (Doxifluridine ・フルツロン)
ドキシフルリジンは、正常腸粘膜のPynPaseによっても5-FUを生成します。
ただし、重篤な下痢を引き起こすことが知られています。
(3) カペシタビン (Capecitabine・ゼローダ)
カペシタビンは、ドキシフルリジンの消化管障害を軽減することを目的としたプロドラッグです。
カペシタビンは、肝臓および腫瘍細胞において中間代謝物である5′-deoxy-5-fluorocytidine(5、5′-DFCR)、5′-deoxy-5-fluorouridine(5、5′-DFUR)へ代謝され、最終的に、腫瘍細胞に高発現しているチミジンホスホリラーゼにより5-FUへ変化し、抗腫瘍作用を発揮することが知られています。
高用量の5-FUを腫瘍選択的に供給することを目的としてデザインされた経口の抗悪性腫瘍剤です。
3. シタラビンオクホスファート
(Cytarabine Ocfosphate ・スタラシド)
シタラビンオクホスファートは、シタラビン(Cytarabine・ara-C)のプロドラッグであり、体内で数段階を経て活性代謝物のara-Cに代謝された後、腫瘍細胞内でara-CTPとなり、DNAポリメラーゼを阻害することにより抗腫瘍作用を示すとされています。
研究の途中で長鎖アルキル基を持つ化合物が経口投与でara-C より優れた抗腫瘍効果を示す事が明らかとなりました。
4. ネララビン(Nelarabine・アラノンジ)
ネララビンは、プリンヌクレオシドであるデオキシグアノシン(dGuo)の誘導体で、9-β-D-アラビノフラノシルグアニン(ara-G)のプロドラッグであり、造血器悪性腫瘍の治療薬として使用されています。
ネララビンは末梢血中でアデノシンデアミナーゼ(ADA)によって速やかに脱メチル化されara-G となり、このara-GTP が増殖細胞のDNA に取り込まれ、チェーンターミネーターとして作用してDNA合成を停止させるとされています。
ara-Gは水溶性が低くいという欠点があることから、水溶性の高いプロドラッグとしてネララビンが創出されました。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
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