ラジカル重合の開始剤・禁止剤を解説!種類,構造がわかる
今回はラジカル重合の開始剤・禁止剤の種類とその構造・特徴について解説します。
目次
1.ラジカル重合開始剤の種類と構造
反応性の高いラジカルを生成するすべての化合物が原理的にはラジカル重合開始剤として機能できますが、実際に工業的に重要な役割を果たしているのは単一開始剤とレドックス開始剤です。
(1)単一開始剤(ホモリティック開裂型)
単一開始剤は、式1に示す過酸化物系と、式2のアゾ系に大別されます。これらは「ホモリティック開裂型」とも呼ばれます。これは共有電子対がイオン的ではなく等分に開裂することを意味しています。
その代表的な開始剤を表1に示します。
過酸化物系: A-O-O-B → A-O・ + B-O・ (式1)
アゾ系: A-N=N-B → A・+ B・ + N2 (式2)
【表1 ラジカル重合の単一開始剤1)】
これらは温度によりラジカル生成速度が支配される開始剤です。
従って、重合温度に応じて適切な開始剤を選択する必要があります。
表1に記載した半減期が10時間となる温度が選択の目安とされています。
化合物d)の過酸化ベンゾイル(Benzoyl PerOxide)は過酸化物系開始剤の中でも最もよく知られており、「BPO」の略称で呼ばれています。
また化合物f)のアゾビスイソブチロニトリル(AzoBisIsobutyroNitrile)は通常「AIBN」と呼ばれます。
過酸化物系とアゾ系の違いとは
過酸化物系とアゾ系の違いは、いったん生成したラジカルが再結合した際に、開始剤としての機能を維持しているか否かにあります。
即ち、酸化物系ではA-O-O-Bに戻って再び開始剤として機能するのに対して、アゾ系では再結合後は化合物A-Bとなり、もはや開始剤として機能しません。
これが、酸化物系でかご効果(開始剤が拡散した方が重合を開始しやすい)が観察されるのに対してアゾ系では観察されないという違いを生んでいます。
(2)レドックス(酸化還元)系開始剤
レドックス系開始剤とは、酸化性物質と還元性物質とを組み合わせた2元系開始剤です。
その代表例が式3のフェントン試薬であり、両物質間での一電子移動反応によりラジカルが生成します。
H-O-O-H (酸化性) + Fe2+(還元性) → HO・ + HO- + Fe3+ (式3)
温度で分解速度が支配される単一開始系とは異なり、常温以下の低温でのラジカル生成も可能です。
(3)その他の開始剤
ベンゾインエーテルのように光の照射により開裂してラジカルを生成する開始剤も存在します。
2.ラジカル重合禁止剤の種類と構造
ラジカル重合の禁止剤とは、成長ラジカルの反応性を停止ないし抑制する物質です。
ラジカル重合の原料モノマーには、保存中に意図せず重合が起るのを防ぐために、通常、ラジカル重合禁止剤が添加されています。
禁止剤は下記3タイプに分類されます2)3)。
いずれも成長ラジカルがモノマーに付加する反応と競合する形で、重合を停止ないし抑制します。
(1)安定ラジカル
図1のDPPHやTEMPOのように安定ラジカル(反応性の低いラジカル)として存在する化合物をラジカル重合系に添加すると、図2に示すように、成長ラジカルと再結合や不均一を起こして重合を停止します。
【図1 安定ラジカル型の禁止剤の例(緑色が安定ラジカルであることを示す)】
【図2 禁止剤DPPHの作用機構】
(2)酸素等
酸素やニトロキソ化合物は、式4に示すように、成長ラジカルと反応して低反応性の安定ラジカルを生成します。
(3)ヒドロキノン等
ヒドロキノンやフェノール類が存在すると、成長ラジカルからこれらへの連鎖成長が起り、安定なラジカル種が生成することが知られています。
以上、今回はラジカル重合の開始剤と禁止剤について解説しました。
次回はラジカル重合の連鎖移動反応についてご説明します。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
《引用文献、参考文献》
- 1) 遠藤剛ら, 高分子の合成(上), 講談社(2010)
- 2) 大津隆行, ラジカル重合の禁止と抑制, 繊維と工業1(3), 183-186(1968)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fiber1968/1/3/1_3_183/_article/-char/ja/ - 3) 大津隆行, 重合防止剤の機能について, 有機合成化学協会誌33(8), 634-640(1975)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yukigoseikyokaishi1943/33/8/33_8_634/_article/-char/ja