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この記事では、最古の合成樹脂であるといわれ、熱硬化性樹脂の中で生産量が最大である「フェノール樹脂」について解説します。
フェノール樹脂とは、フェノール(P)とホルムアルデヒド(F)を主原料とする熱硬化性樹脂の総称です。
フェノール樹脂は100年以上の歴史を有する最古の合成樹脂といわれています。「ベークライト」とも呼ばれており、これは最初に商品化された際の商品名に由来しています。
また、図1に示すように、熱硬化性樹脂の中で最大の生産量を誇る樹脂でもあります。
【図1 日本国内での熱硬化性樹脂生産量の内訳(2021年)1)】
フェノール樹脂が分解すると、原料のフェノール(P)とホルムアルデヒド(F)が生成します。
両者には毒性がありますので、フェノール樹脂を扱う際には、分解が起るような高温にさらさない注意が必要です。
フェノール(P)とホルムアルデヒド(F)の共存下で起こる反応は、触媒が酸なのかアルカリなのかで異なります。これはフェノール樹脂の作り方を理解する上で重要な点です。
図2に示すように、酸触媒ではメチロールフェノールを経て縮合反応が主体で反応が進みます。
これに対してアルカリ触媒ではメチロールフェノールにさらにメチロール基が付加する付加反応が主体となります。
【図2 フェノールとホルムアルデヒドとの反応の基本】
熱硬化により硬化フェノール樹脂を得る際の原料である未硬化樹脂、換言すればフェノール樹脂の中間体は、前項で述べた触媒による反応の相違により、二種類に大別されます。
酸触媒によるものが「ノボラック樹脂」、アルカリ触媒によるものが「レゾール樹脂」と呼ばれています。
表1は両者を比較したものです。両者の構造に差があることに特にご留意ください
ノボラック樹脂が熱可塑性であって硬化にはアミン等の硬化剤が必要になるのに対して、レゾール樹脂はそれ自体で熱硬化性であり硬化剤は不要です。
【表1 フェノール樹脂中間体の比較2)】
表2にフェノール樹脂硬化物の特徴をまとめて示します。
【表2 フェノール樹脂硬化物の特性】
項目 | フェノール樹脂硬化物 | 評価 |
耐熱性 | 加熱減量は汎用樹脂中で最小水準 | 〇 |
残炭性 | 残炭率は汎用樹脂中で最高水準→炭素原料に適用可能 | 〇 |
難燃性 | 燃えにくい燃焼時の煙発生が少ない | 〇 |
機械的物性 | 高強度・高硬度 | 〇 |
結合力 | 結合力大→柔軟・低強度材料の補強に適用 | 〇 |
脆性 | 硬すぎて脆い→フィルム成形は通常困難 | △ |
変色 | 変色・着色が大きい | △ |
これらの特性は、いずれも、フェノール樹脂硬化物が有する下記2点の特徴に起因するものです。
これらの特性を活かしてフェノール樹脂硬化物は、 自動車・鉄鋼関連、 成形複合材、住宅関連等の幅広い分野で主に成型品として利用されています。
フェノール樹脂においてもリサイクルおよび天然原料の利用の両面で環境対応が検討されています。
フェノール樹脂は架橋密度が高いのでリサイクルには困難が伴います。
その中では、超臨界水処理によりフェノール等のモノマーを回収するケミカルリサイクルが注目されています。その一例を図3に示します。フェノールモノマーの生成が確認できます。
【図3 フェノール樹脂の超臨界水処理の効果:ガスクロ分析結果 ※画像引用3)】
天然原料についてはリグニン利用の検討が進んでいます。
リグニンは草木類に大量に存在する、図4に示すようにフェノール樹脂に類似した天然物です。
[※関連記事:リグニンから高純度モノマーの生産は不可能か?微生物の力を活用した検討例はこちら]
【図4 リグニンの構造の一例 ※画像引用4)】
リグニンは低分子化合物に分解してから利用することもできますが、分解に大量のエネルギーを投入するのは好ましくありません。このため、近年は、あまり分解せずに本来のリグニンに近い状態で化石原料由来のフェノール樹脂と混合利用する検討も開始されています4)。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
《引用文献、参考文献》