3分でわかる技術の超キホン P型有機トランジスタ(OFET)材料開発

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OFETとディスプレイ
現在の情報化社会で欠かせないパソコンやディスプレーの基本的な機能を実現しているのは、シリコンなどの固い無機物の半導体です。一方、柔らかくて簡単に作ることができる有機物の半導体デバイスを中心とした「有機エレクトロニクス」に関する研究が、次世代電子材料開発のために期待されています。

特に溶解性に優れ、蒸着や溶液塗布などの簡易的なプロセスによって、低温で高い移動度を実現できることから、有機薄膜太陽電池や有機EL素子の次として、P型有機電界効果トランジスタ(Organic Field Effect Transistor: OFET)の研究開発が急ピッチで進められています。

印刷技術を用いてデバイスを大量かつ安価に生産できるため、数ミリ程度の厚さの超薄型テレビや、柔らかいプラスチック素材の曲がるディスプレー、服などの形態にして身に着けるウェアラブルコンピュータなどの新しい製品が実現でき、革新的な産業になることが期待されています。
 

有機トランジスタと電子材料

増幅やスイッチング機能を持つトランジスタは、素子に流せる電流の大きさによりその有用性が決まります。
このため、トランジスタに用いる材料は、移動度が大きな材料ほど有用ということになります。

一般的に、有機トランジスタには、拡張されたπ電子共役系を持つ多環芳香族化合物及びn電子を持っているヘテロ環化合物などの分子が広く使われています(下記図1, 2)。

これは大きなπ電子共役系を持つ分子は電荷の伝導に有利なだけではなく、その強いπ―π相互作用のために結晶化しやすく、結晶薄膜を作成する時に配向制御をしやすいためです。
 

多環芳香族化合物の電子特性は?

ここで、多環芳香族化合物の電子特性を簡単に説明します。

多環芳香族化合物の電子特性を支配しているのはπ電子の挙動です。
よく知られているように、ベンゼンでは炭素原子の4個の原子価電子のうち3個はSP2混成軌道を占め、隣り合う2個の炭素原子とのσ結合並びに1個の水素原子とのσ結合の形成に関わり、残り1個の電子は2Pz軌道にあって、炭素原子間のπ結合の形成に関わっています。

ベンゼン分子全体では2Pz軌道にあるπ電子が6個あります。
それらは特定の炭素原子の上に局在化しないで、自由電子のように六角形のベンゼンの骨格上を動き回って、環電流となります。
ベンゼン環が縮合したものも同様で、ナフタレンでは合計10個のπ電子が骨格の上を回っています。
 
多環(3-4)芳香族化合物
[図1.重要な多環芳香族化合物の例]
 
複素環芳香族化合物
[図2.重要な複素環芳香族化合物の例]
 
 

π電子と自由電子

π電子の持っている自由電子的な性格は、多環芳香族化合物の電子スペクトル(可視・紫外吸収スペクトル)にみることができます。

限られた空間内を動き回っている自由電子のエネルギー順位は、一般的に電子が運動する空間の大きさが増大するほど準位間の間隔が減っていくものです(HOMO-LUMOのバンドギャップを狭くする)。
そのため、π共役が広がるほど分子のπ電子が励起されやすく、高いキャリア移動度に有利です。しかし、その反面、溶解性も減っていきます。

塗布やインクジェットなどの湿式プロセスを利用するために、最近の実用化を目指す材料開発では、有機溶媒に溶ける材料の開発に重点が置かれています。
長鎖アルキル基で化学修飾した材料の開発や材料の高分子化がその主な取り組みです。
これは、長鎖アルキル基による化学修飾は分子の配向性を損なうことなく、π電子による分子間のπ―π相互作用を低減し、溶解度の向上を図ると考えられます(図3)。

棒状液晶分子の化学構造
[図3.棒状液晶分子の化学構造]
 
しかし、長鎖アルキル基の導入によって溶解性の向上は実現できても、結晶化温度が低下することが一般的です。
FETを作成する場合、加熱すると、素子が融解してしまいます。
そのため、耐熱性と溶解性を併せ持つ材料の開発が求められているのです。
 
(日本アイアール株式会社 特許調査部 L・H)
 
 


☆OFETなど電子材料技術に関する特許調査・文献調査サービスは日本アイアールまでお問い合わせください。


 

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