《食品技術を学ぶ》機能性オリゴ糖の基礎知識 [主な機能と種類、特保/機能性食品の利用例など]

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オリゴ糖の基礎知識を解説

皆さんの中には「オリゴ糖」を日々使用されている方も多いと思いますが、その実体や機能についてどの程度ご存じでしょうか?
食品分野や医療関係の方は基礎知識をお持ちと思いますが、他分野の方はあまりご存じないと思います。

以下、できるだけ分かりやすくまとめてみたいと思います。

1.オリゴ糖とは?

厚生労働省の健康用語辞典(e-ヘルスネット)では、「オリゴ糖」について以下のように説明されています。

“糖質のうち、最小単位である単糖が2個から10個程度結びついたもので、少糖とも言う。
低消化性(低エネルギー)で、整腸作用や腸内細菌を増やす作用などが知られている。

(中略)明確な定義はなく、ショ糖・麦芽糖・乳糖などの二糖類も本来はオリゴ糖の仲間といえますが、一般的には3つ以上の糖が結びついたものをオリゴ糖と呼んでいる場合が多いようです。

砂糖を原料に酵素を作用させて作られる「フラクトオリゴ糖」や、大豆から天然成分を抽出・分離させた「大豆オリゴ糖」、乳糖にβ-ガラクトシダーゼを作用させた「ガラクトオリゴ糖」などが代表的です。
ビフィズス菌などの善玉菌と呼ばれる腸内細菌の栄養源となってそれらを増やす効果があり、特定保健用食品として認められています。またトレハロース・パラチノースは、むし歯になりにくいことや消化されにくくエネルギーとして使われにくいことから、代替甘味料としてよく使われています。”

 

また、e-ヘルスネットの「腸内細菌と健康」というページでは、以下のような説明があります。

“・・・腸内の善玉菌の割合を増やす方法には、大きく分けて二通りあります。
まず一つめは、健康に有用な作用をもたらす生きた善玉菌である「プロバイオティクス」を直接摂取する方法です。(中略)

二つめは、腸内にもともと存在する善玉菌を増やす作用のある「プレバイオティクス」を摂取する方法です。食品成分としてはオリゴ糖や食物繊維で、これらの成分は野菜類・果物類・豆類などに多く含まれています。消化・吸収されることなく大腸まで達し、腸内にもともと存在する善玉菌に、好きな炭水化物の「エサ」を優先的に与えて、数を増やそうという考えです。(中略)

市販されているオリゴ糖製品の有効摂取量は、一日あたり2~10gです。しかしオリゴ糖を急に摂取すると下痢を起こしたり、おなかが張ったりすることがあります。”

 

2.プレバイオティクスとは?

上述の通り、オリゴ糖はプレバイオティクスの一種と言えますが、先ず「プレバイオティクス」について少し見ていきましょう。

少々乱暴ですが、簡単には「プレバイオティクス=腸内細菌の餌」ともいえます。

プレバイオティクス(prebiotics)は、1994年、英国の微生物学者GibsonとRoberfroidにより提唱された用語で、「プレバイオティクスは大腸内の特定の細菌の増殖および活性を選択的に変化させることより、宿主に有利な影響を与え、宿主の健康を改善する難消化性食品成分」と定義されています。

このプレバイオティクスとしての条件を満たす難消化性食品成分は以下の通りです。

  • ① 消化管上部で加水分解、吸収されない。
  • ② 大腸に共生する有益な細菌(ビフィズス菌等)の選択的な栄養源となり、それらの増殖を促進、あるいは代謝を活性化する。
  • ③ 大腸の腸内細菌叢(フローラ)を健康的なバランスに改変できる。
  • ④ 宿主(人)の健康に有益な全身的な効果を誘導する。

具体的には、オリゴ糖(ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、乳果オリゴ糖、キシロオリゴ糖、イソマルオリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、コーヒー豆マンノオリゴ糖、グルコン酸など)や食物繊維の一部(ポリデキストロース、イヌリン等)がプレバイオティクスとしての要件を満たす食品成分とされています。

なお、ヒトの母乳には、ラクトNビオースという構造を持つヒトミルクオリゴ糖が存在し、昔からビフィズス因子として知られていますが、これは天然のプレバイオティクスといえます。
 

3.機能性オリゴ糖

上述の通り、「ショ糖・麦芽糖・乳糖などの二糖類も本来はオリゴ糖の仲間」ですが、ここではこのような一般的な二糖類は取り扱わず、所謂「機能性オリゴ糖」について説明します。
 

(1)主な機能(作用)

機能性オリゴ糖とは、百科事典マイペディアによると「腸内のビフィズス菌を増やし,腸の調子を整え,その状態を保つ目的で,シロップやテーブルシュガー,飲料水や菓子などに用いられる甘味料。フラクトオリゴ糖,ダイズオリゴ糖,乳果オリゴ糖,ガラクトオリゴ糖,イソマルトオリゴ糖などがある。…ほとんどの場合,消化吸収されずに大腸まで運ばれて,ビフィズス菌の栄養源になる。」と説明されています。

すなわち、オリゴ糖のうち、ビフィズス菌増殖作用、腸の調子を整える作用、便通を改善する作用、体脂肪を減らす作用、カルシウムやマグネシウムの吸収を促進する作用を有するものを指すので、プレバイオティクスとしての条件を満たすオリゴ糖といえます。

なお、プレバイオティクス効果(整腸、体脂肪低減など)を有する難消化性⼆糖類も機能性オリゴ糖とされています。

このような機能性オリゴ糖を摂取することによる有益な効果としては、以下のものが報告されています。

  • 乳酸菌・ビフィズス菌増殖促進作用
  • 整腸作用
  • カルシウムやマグネシウムなどのミネラル吸収促進作用
  • 炎症性腸疾患への予防・改善作用
  • 体脂肪を減らす作用
  • タンパク質の消化吸収促進作用
  • 免疫賦活作用
  • 血中コレステロール上昇抑制作用
  • 肝機能改善作用
  • アレルギー予防作用
  • 癌予防作用
  • 腸内感染防御作用

 

(2)機能性オリゴ糖の種類

現在、工業生産されているオリゴ糖は20種類以上あるとのことですが、小腸で消化酵素によって消化され単糖となり、吸収される「消化性」のオリゴ糖と、消化されずに大腸まで届く「難消化性」のオリゴ糖の2種類に分かれます。このようなオリゴ糖のうち、難消化性オリゴ糖が機能性オリゴ糖です。

フラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖など一般的な難消化性オリゴ糖は砂糖の50~70%くらいの甘さがあり、甘味料として使用されています。

以下、代表的なオリゴ糖とその構造を示します。

オリゴ糖 原料
ラクチュロース(ミルクオリゴ糖) 乳糖
乳果オリゴ糖(乳糖果糖オリゴ糖,ラクトスクロース) 砂糖・乳糖
イソマルトオリゴ糖 でん粉
フラクトオリゴ糖 砂糖
ガラクトオリゴ糖 乳糖
コーヒー豆マンノオリゴ糖 コーヒー抽出粕
ラフィノース 甜菜

 

① ラクチュロース(ラクツロース, Lactulose)

ラクチュロース
[経口用二糖類製剤 ラクツロースシロップの添付文書より引用]
https://www.info.pmda.go.jp/go/pdf/270072_3999001Q1051_1_08

 

② 乳果オリゴ糖(乳糖果糖オリゴ糖, ラクトスクロース, Lactosucrose)

乳果オリゴ糖
[株式会社 林原 食品素材事業サイト「乳果オリゴ®」より引用]
https://www.food.hayashibara.co.jp/product/lactosucrose/

 

③ イソマルトオリゴ糖(Isomaltooligosaccharides)

イソマルトオリゴ糖
[富士フィルム和光純薬株式会社 糖類・甘味料分析関連試薬「イソマルトオリゴ糖」より引用]
https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/product/detail/W01W0109-0348.html

 

④ フラクトオリゴ糖(Fructooligosaccharides)

フラクトオリゴ糖
[富士フィルム和光純薬株式会社 糖類・甘味料分析関連試薬「糖類・糖質」より引用]
https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/category/01878.html

 

⑤ ガラクトオリゴ糖(Galactooligosaccharides)

4‘-ガラクトシルラクトース(ガラクトオリゴ糖の主成分)
ガラクトオリゴ糖
[富士フィルム和光純薬株式会社 糖類・甘味料分析関連試薬「糖類・糖質」より引用]
https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/category/01878.html
 

⑥ コーヒー豆マンノオリゴ糖(Mannooligosaccharides from coffee mannan)

マンノースが2~10分子結合した糖類の総称
コーヒー豆マンノオリゴ糖
[日本食品工学会誌 18(3)A4-A6(2017)より引用]

 

⑦ ラフィノース(Raffinose)

ラフィノース
[化学辞典 第2版「ラフィノース」より引用]

 

(3)機能性食品としての利用

機能性オリゴ糖は、前記のような機能を有しているため、特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品として利用されています。
 
特定保健用食品として販売されているもの(令和元年度の販売実績)を抜粋して以下に例示します(商品名、申請者等は省略)。

関与する成分 食品の種類 許可日
ラクチュロース 清涼飲料 1997年10月
乳果オリゴ糖 卓上甘味料 1997年10月
イソマルトオリゴ糖 卓上甘味料 1998年4月
フラクトオリゴ糖 卓上甘味料 1998年11月
ガラクトオリゴ糖 調味酢 1999年6月
イソマルトオリゴ糖 乳酸菌飲料 2001年9月
ガラクトオリゴ糖 卓上甘味料 2001年12月
乳果オリゴ糖 乳酸菌飲料 2002年3月
乳果オリゴ糖 清涼飲料水 2004年1月
ガラクトオリゴ糖 果実着色炭酸飲料 2008年12月
ガラクトオリゴ糖 清涼飲料水 2010年4月
コーヒー豆マンノオリゴ糖
(マンノビオースとして)
粉末清涼飲料 2011年12月
コーヒー豆マンノオリゴ糖
(マンノビオースとして)
コーヒー飲料 2013年8月
ガラクトオリゴ糖 キャンデー類 2013年8月
ガラクトオリゴ糖 調味酢 2015年9月
ガラクトオリゴ糖 キャンデー類 2019年8月

特定保健用食品許可(承認)品目一覧[Excel:597KB](令和3年7月16日更新)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/health_promotion/assets/food_labeling_cms206_210716_01.xls

 

次に、機能性表示食品を例示します(商品名、届出者名等は省略)。

機能性関与成分名 名称 届出日
コーヒー豆マンノオリゴ糖 コーヒー調整品 2019年2月
フラクトオリゴ糖 オリゴ糖甘味料 2019年3月
ラフィノース、ラクチュロース、フラクトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、α-シクロデキストリン オリゴ糖含有食品 2019年3月
難消化性デキストリン(食物繊維として)、ガラクトオリゴ糖 生菓子(ゼリー) 2019年4月
ガラクトオリゴ糖 ガラクトオリゴ糖入りシロップ 2019年5月
ガラクトオリゴ糖 30%りんご果汁入り飲料 2020年1月
難消化性デキストリン(食物繊維) 、有胞子性乳酸菌(Bacillus coagulans SANK70258)、フラクトオリゴ糖 食物繊維・乳酸菌・オリゴ糖配合食品 2020年3月
乳酸菌 シロタ株(L.カゼイ YIT 9029)、ガラクトオリゴ糖 乳製品乳酸菌飲料 2020年6月
ラクチュロース アイスミルク 2002年8月
乳糖果糖オリゴ糖 オリゴ糖類食品 2020年8月
ラクチュロース 清涼飲料水 2020年11月
ラクチュロース オリゴ糖シロップ 2020年11月
Pne-12乳酸菌(Lb. plantarum PIC-NBN22)、フラクトオリゴ糖 はくさいキムチ(刻み) 2021年2月

[消費者庁「機能性表示食品の届出情報検索」より検索]
https://www.fld.caa.go.jp/caaks/cssc01/

 

(4)機能性食品としての摂取量

主な機能性オリゴ糖の1日の摂取目安量は、下記の通りとなっています。
過剰摂取はしないようにしましょう。

  • フラクトオリゴ糖: 1 ~8g
  • イソマルトオリゴ糖: 4 ~20g
  • 転移ガラクトオリゴ糖: 1 ~5g
  • 大豆オリゴ糖(ラフィノース、スタキオース): 1 ~19g
  • ラフィノース: 2 ~5g
  • キシロオリゴ糖: 0.4 ~4g
  • 乳糖果糖オリゴ糖: 1 ~15g
  • ラクチュロース: 0.65~8g
  • ゲンチオオリゴ糖: 4 ~15g

[公益財団法人 日本健康・栄養食品協会のホームページより]

 

以上、今回は機能性オリゴ糖の基礎知識についてご紹介しました。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 A・A)

 


<参考文献>

1) e-ヘルスネット(厚生労働省) 健康用語辞典「オリゴ糖 少糖類 / oligosaccharide」
2) e-ヘルスネット(厚生労働省) 栄養素等のはたらき「腸内細菌と健康」
3) Gibson GR, Roberfroid MB. 1995. Dietary modulation of the human colonic microbiota: introducing the concept of prebiotics. J Nutr 125:1401-1412
4) 「機能性関与成分における機能性糖類・糖質の取扱い」(平成28年4⽉26⽇、健康⾷品産業協議会) https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/other/pdf/kinousei_kentoukai_160426_0004.pdf
5) 「日本における機能性オリゴ糖の開発」Trends in glycoscience and glycotechnology 15(82), 57-64 (2003)
6) 「オリゴ糖-現在の市場での動きと課題-」 J. Appl. Glycosci., 50, Suppl., 50-54 (2003)
7) 「注目しています.その技術!コーヒー豆マンノオリゴ糖の製造技術・健康機能および製品への活用」日本食品工学会誌 18(3)A4-A6(2017)
8) 公益財団法人 日本健康・栄養食品協会のホームページ 「オリゴ糖類食品の1日の摂取目安量


 

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