3分でわかる インクジェットプリンタ関連技術の要点解説(動作方式、インク・用紙の分類等)
今回は、インクジェットプリンタに関連する様々な技術について、要点を解説します。
インクジェットプリンタは、もう皆さんがよく使っている印刷装置で、複写機・レーザープリンタなどと比べても手ごろな価格で入手が可能な機器です。
インクジェットプリンタの歴史は古く1950年代には原理が特許として欧州で存在すると言われています。
主に産業用途で使われていましたが、1980年代から後ほど説明しますがオンデマンド方式のプリンタが開発されて小型化、低廉化がなされて家庭用に普及するようになりました。そして、文書用途のみならず写真用プリンタとしても利用が広がっています。
目次
1.インクジェットプリンタの動作方式
インクジェットプリンタの動作方式は、大きく二つに分類されます。
それは「コンティニュアス方式」と「オンデマンド方式」です。
コンティニュアス方式は、インクジェットプリンタの開発が行われた当初からの古いもので、オンデマンド方式は1980年代より次々に各社でプリンタの開発及び発売が行われたものです。
(1)コンティニュアス方式
これは、名前の通り連続してインクを吐出して回収を行い、印刷時にインクの流れをペーパー面に向ける方式です。
以下の図に示すようにインクタンクからのインクを供給ポンプ経由して電歪素子の振動で一定の大きさのインク粒子を生成します。このインク粒子を帯電させて偏向電極により必要なタイミングでペーパー面にインク粒子を放出するものです。必要でないタイミング時はガターを経由して回収ポンプを通過して回収します。
(2)オンデマンド方式
コンティニュアス方式に対してオンデマンド方式は必要な時に必要な量を吐出するので、小型化やマルチヘッド化などが比較的容易に実現できます。
オンデマンド方式には大きく「ピエゾ方式」と「サーマル方式」があります。
① ピエゾ方式
電圧を加えると体積が変化する圧電素子であるピエゾ素子を使用して機械的にインクを吐出する方式です。
エプソン、ブラザー、リコー、キヤノン(商業印刷向け)などの各社が採用しています。
② サーマル方式
ヒーターの過熱によりインク内に気泡を発生させてインクを吐出する方式です。
キヤノン(家庭・オフィス向け)、HP、富士ゼロックス、レックスマークなどの各社が採用しています。
【インクジェットプリンタの各方式の特徴(メリット・デメリット)まとめ】
メリット・デメリットの表でも記載していますが、オンデマンド方式はノズルのつまりの対策が重要であり、制御する上でヘッド管理とクリーニングが必須となります。
なお、オンデマンド方式には、その他に産業用としてバルブ方式もありますが、ここでは割愛します。
2.インクジェットプリンタの基幹技術
インクジェットプリンタの各社の性能比較というと、一般的にドットサイズや印刷速度などがまず初めに浮かぶと思いますが、そのバックグラウンドにはいろいろな技術により支えられています。それらについて簡単に述べてみます。
(1)ヘッド製造技術
インクを吐出するノズルの直径は、数μm程度と高精度なMEMS加工技術で製造されます。
例えば、キヤノンのプリントヘッドの例によると約20×16mmの中に6000個以上のノズルが成形されているようです。
(2)液滴量コントロール
一度の吐出で吐き出すインクの量は1pl程度にコントロールされます。
直径で10数μm程となり、これをピエゾ素子やヒーターでコントロールして吐出します。
これを実現するために自社純正インクに対して適正な制御を行っています。
3.インクジェットプリンタ用のインク
インクジェットプリンタに使用されるインクについて説明します。
カラー印刷を行うためのインクに関しては、色(カラー)に関連する別のコラム「カラーマッチング、カラーマネジメントとは?」で説明しましたが、色の三原色であるシアン・マゼンタ・イエローの「減法混色」を使用します。これに黒を加えてCMYKの4色です。
また代表的なものは「染料インク」と「顔料インク」です。
(1)染料インク
インクが用紙の内部に染み込んでいくことで着色します。
染み込むために表面に凹凸ができず、発色がよくなります。
写真のように光沢紙で鮮やかさが出ます。
(2)顔料インク
インクの粒子がそのまま用紙の表面に留まるため、高階調・高精細に表現が可能です。
文字などはっきりとしたものの表現に向いています。
【染料インクと顔料インクの特徴(メリット・デメリット)まとめ】
4.インクジェットプリンタに使う用紙
インクジェットプリンタに使用される用紙には、大きく「加工紙」と「非加工紙」があります。
主な用紙について以下に示します。
(1) 加工紙
① コート紙
中、上質紙を原紙として、表裏両面にコート剤を塗布した用紙です。
ツルツルとした感触が特徴で、商業印刷で最も多く用いられます。
② 光沢紙
光沢紙も表面に光沢のあるコーティングがされている用紙で、インクジェットプリンタで写真などを印刷する際に使用されます。
③ 写真用紙
写真を印刷するためのインクジェットプリンタ専用用紙です。印画紙タイプ・フォト光沢紙タイプ・マット紙タイプなどあります。
(2)非加工紙
① 普通紙
別名「PPC用紙」や「コピー用紙」ともよばれ、オフィスではコピー用、プリント用として最も良く使われる用紙のひとつです。
文書などテキスト印刷に適しています。
② 上質紙
上質紙はパルプと呼ばれる、主に原材料となる木などから取り出した繊維を100%使用した紙です。普通紙と同様にテキスト印刷に適しています。
③ 再生紙
新聞や古雑誌などの古紙をほぐして繊維状にしたものをすき直して作った用紙です。
5.インクジェットプリンタの利用用途
インクジェットプリンタ技術の応用される用途についていくつか述べたいと思います。
(1)捺染用
「捺染」とは、布に色模様を染め出すことです。
染料を糊(のり)に溶かした色糊を用いて布に模様をプリントします。
この技術としてインクジェット技術が用いられています。
プリントに続いて染料の固着を行い、水洗して仕上げます。
(2)電子基板用
電子基板の配線パターンの生成のために、例えば機能性材料であるインクによるインクジェット印刷を使って配線のシード層を形成し、無電解銅(Cu)めっきにより配線層を作ります。
エッチングレジストのための版が不要となり、環境負荷が低いという特徴があります。
(3)3Dプリンタ用
例えば、紫外線を照射すると固まる特性を持つ光硬化性樹脂をインク状にして吹付け、そこに紫外線を照射して固めて造形するものです。
(4)DNAチップ用
DNAチップは、プラスチックやガラスなどの基板上に多数のDNAを配置して検体がDNA鎖を形成するかにより分析する器具です。この配置のために適量のDNAをインクジェット方式で形成します。
基本的なビジネスモデルは「インクで稼ぐ」
今回は家庭用インクジェットプリンタに関して、その応用例も交えて説明しました。この分野でも駆動系の制御、プリントヘッド加工技術や用紙の搬送技術など多岐にわたって特許の出願がなされています。
またビジネスモデルとしては、本体の価格を抑制して消耗品であるインクで利益を出す構造でベンダー各社がしのぎを削っています。
しかし、インクに関しては非純正インクの販売がなされており、しばしば訴訟に発展する事例がみられます。
動作方式や基幹技術でも説明しましたが、微細加工のノズルは目詰まりを起こしやすく故障の原因になります。この場合、非純正のインク使用時ではベンダーが補償の対象としないため、ユーザーは使用リスクを背負うことになりますので、注意が必要です。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 T・T)