《化学プラント初心者向け》HAZOPとは?考え方・ガイドワード・実施手順の基本

化学プラントでは、ひとたび事故が起きると、周辺住民の避難や工場の操業停止といった深刻な事態につながりかねません。だからこそ「事故が起きてから対処する」のではなく「起きる前にリスクを見つけておく」という予防の考え方が重要です。
そのための手法として、化学プラントで使われているのが「HAZOP(ハゾップ)」です。
本記事では、主にHAZOP初心者の方向けに、基礎知識や実施手順、活用例まで、わかりやすく解説します。
1.HAZOPとは何か?
「HAZOP」とは『Hazard and Operability Study(ハザード・アンド・オペラビリティ・スタディ)』の略称です。
日本産業規格のJIS C 61882では、規格名称として『ハザード及び運用性の検討(HAZOPスタディー)-適用の指針』と表記されています。
化学プロセスに潜む危険性や運転上の問題を洗い出すことを目的として開発された手法です。
化学プロセスだけにとどまらず、電気・機械・医療分野など幅広い産業に応用されており、とくに危険物や毒性物質、可燃性物質を取り扱う化学プラントにおいては、安全を支える手法として活用されています。
2.HAZOPの基本的な考え方
HAZOPの基本的な考え方として、
- 設計意図からの「ずれ」に着目する
- チームでさまざまな専門知識を持ち寄る
ことが挙げられます。
順番に見ていきましょう。
考え方1:設計意図からの「ずれ」に着目する
HAZOPでは、プラントのどこかで「設計で想定した動きと異なる状態(ずれ)」が発生した場合に、どのような危険や運転上の問題につながるかを検討します。
たとえば化学プラントでは、
- 温度
- 圧力
- 流量
- 液位
- 組成
などが設計意図や正常な運転範囲から外れることが、事故の起点となる場合があります。
そこでHAZOPでは、後述する「ガイドワード」を用いて、「このプラントで起こりうる『ずれ』にはどのようなものがあるか」を体系的に洗い出します。そして、それぞれの「ずれ」について原因や結果、既存の安全対策を検討し、必要に応じて推奨事項を記録します。
HAZOPでは、こうした『ずれ』について原因や結果、既存の安全対策を検討し、必要に応じて追加の対策を検討します。
考え方2:チームでさまざまな専門知識を持ち寄る
HAZOPの前提として「チームで実施する」という考え方があります。
HAZOPは設備やプロセスだけでなく、実際の操作・運転まで対象に含めるため、
- 保全
- 設計
- オペレーター
- 品質保証
- 安全管理
などといった、異なる専門領域のメンバーが集まって議論することが求められます。
ベテランが「ここは大丈夫」と無意識に思い込んでいる箇所でも、別の専門家の目から見れば見落としているリスクがある、という場面は現場でよく起こります。こうした「思い込みによる見落とし」を防ぐためにも、多職種チームによる議論が欠かせません。
各メンバーが現場の「暗黙知(言語化されていない経験則)」を持ち寄ることで、ひとりでは気づけない潜在的なリスクを表面化できるのが、最大のメリットといえるでしょう。
3.HAZOPのガイドワードの種類と活用法
HAZOPには「ずれ」を体系的に洗い出すための道具として「ガイドワード」という言葉のリストが用意されています。まずはこの仕組みを理解しましょう。
ガイドワードの種類
HAZOPでは「設計意図からのずれ」を体系的に引き出すために、基本的なガイドワードとして以下の7つが用いられます。
これらを使うことで、個人の経験や勘に依存せず、体系的に「起こりうる異常」を洗い出せます。
基本的なガイドワードの一覧は以下のとおりです(※1)。
| ガイドワード | 意味 |
| No or Not(ない) | 設計で意図したことがまったく起こらない |
| More(多い) | 設計意図に対して量的に増加する |
| Less(少ない) | 設計意図に対して量的に減少する |
| Reverse(逆) | 設計意図と逆のことが起きる |
| As Well As(加えて) | 意図したこと以外に余分なことが起きる |
| Part Of(一部欠如) | 意図したことの一部しか達成されない |
| Other Than(別のもの) | 設計意図とまったく別のことが起きる |
なお化学プラントの実務では、
- 「Early(早すぎ)」
- 「Late(遅すぎ)」
といった時間軸に関するガイドワードを加えたものが、バッチ系プロセスで使用される場合もあります。
ガイドワードの活用法
ガイドワードは、単独では機能せず、流量や温度、圧力などといったプラントの設計・運転パラメータと組み合わせてはじめて具体的な「ずれ」がわかります。
たとえば「流量(Flow)×No or Not(ない)」と組み合わせると、「流れなし」というずれが導き出されます。その原因として、配管詰まりやポンプ停止などを検討します。さらにその先として「下流側での冷却不足→反応器の温度上昇→暴走反応リスク」という危険のシナリオまで展開できます。
関連するガイドワードとパラメータの組み合わせを順番に検討することで、思いつきや経験則だけでは見落としがちなリスクも、体系的に拾い上げやすくなります。化学プラントのように毒性・引火性の高い物質を扱う現場では、この「考え漏れを減らす仕組み」が人と設備の安全確保につながります。
化学プラントにおける、ガイドワードとパラメータの組み合わせ例は次のとおりです。
| ガイドワード | パラメータ | ずれの例 | 化学プラントで想定される結果の例 |
| No or Not(ない) | 流量 | 流れなし | 冷却不足 → 反応器過熱 → 暴走反応 |
| More(多い) | 温度 | 温度上昇 | 自己反応性物質の分解・爆発 |
| Less(少ない) | 圧力 | 圧力低下 | 大気圧未満まで低下した場合、外気流入 → 酸化・引火 |
| Reverse(逆) | 流量 | 逆流 | 毒性物質の逆混入 → 中毒リスク |
| As Well As(加えて) | 組成 | 不純物混入 | 異物混入による予期しない化学反応 |
4.HAZOPの実施手順5ステップ
HAZOPの実施手順としては、大きく以下の5ステップに分けられます。
- 対象ノードと設計意図の確認
- ガイドワードで「ずれ」を洗い出す
- 原因と結果を特定する
- 現状の安全対策を確認する
- 改善策の検討とワークシートへの記録
順番に見ていきましょう。
ステップ1:対象ノードと設計意図の確認
HAZOPを始める前にまず「どこを解析するか」という範囲を決めましょう。
この解析単位を『ノード』と呼び、配管やタンクなど、共通の設計意図や運転条件をもつプロセスの一定範囲に設定します。
ノードを決めたうえで、そのノードが「どのような目的をもち、どのような条件で運転されるのか」という設計意図を改めて言語化しておくことが重要です。
たとえば「精留塔から発生する気体を冷却して、塔頂圧力をコントロールする」といった具合に、目的と運転条件をまとめておくことで、その後の解析がぶれなくなります。
設計意図が曖昧なまま次のステップへ進むと「ずれ」の洗い出しが不完全になるため、関係者全員が同じ認識を共有できているか確認してから先へ進みましょう。
ステップ2:ガイドワードで「ずれ」を洗い出す
設計意図を確認したら、次はその意図から「ずれ」が生じる可能性を一つひとつ想定していきます。このとき使うのが前述した「ガイドワード」です。
これらをノードの「パラメータ(流量・温度・圧力など)」と組み合わせることで、たとえば「逆流(Reverse + Flow)」といったずれを体系的に洗い出せます。普段は思いつかないような想定外の事象も、ガイドワードの組み合わせから自然に浮かび上がりやすくなるのです。
たとえば『流量』に『No or Not』を組み合わせれば『流れなし』、『More』を組み合わせれば『流量増加』といったずれを体系的に検討できます。なお、すべてのガイドワードがすべてのパラメータに適用できるわけではありません。
ステップ3:原因と結果を特定する
洗い出した「ずれ」の一つひとつについて、「なぜそのずれが起きるか(原因)」と「そのずれが続いた場合に何が起きるか(結果)」を分析します。
このとき、既存の安全対策によって影響を過小評価しないよう、まず原因と結果を整理し、その後に既存の安全対策を確認していくことが重要です。安全装置の存在を前提にしてしまうと影響が過小評価され、潜在リスクの見落としにつながるためです。
たとえば毒性物質を扱う配管では、「下流側の圧力上昇や逆止弁の機能不全など(原因)→毒性物質の逆流(ずれ)→隣接ラインへの混入・中毒リスク(結果)」という連鎖を特定することになります。この原因→ずれ→結果の連鎖を可視化することで、どの箇所にどのような対策が必要かが明確になります。
ステップ4:現状の安全対策を確認する
特定したシナリオに対して、現在どのような安全対策・設備がすでに存在しているかを洗い出して記録します。
具体的には、警報やインターロック、安全弁など、異常発生時に事故への発展を防ぐための設備を一つひとつ確認し、ワークシートに記載していきます。この段階では「何があるかを整理」して、それが十分かどうかの判断は次のステップで行いましょう。
ステップ5:改善策の検討とワークシートへの記録
HAZOPで特定したリスクや運用性の問題については、必要に応じてリスク評価を行い、追加対応の要否を検討します。
HAZOP自体の主目的はリスク対応策を策定することではありませんが、検討の中で推奨事項が挙がった場合には、ワークシートに記録して、その後の設計・運用上の検討につなげます。必要に応じて担当部署や期限を設定し、フォローアップを行います。
追加対応が必要と判断した箇所については、推奨事項(アクション)をワークシートに記録します。必要に応じて担当部署や期限を設定し、フォローアップにつなげます。
また「ずれ」のシナリオを文章で記録しておけば、若手や新入社員への安全教育にも活用できるでしょう。
HAZOPは一度実施して終わりではなく、設備の改造や運転条件の変更などがあった場合には、その変更内容に応じて見直しや再評価を行うことが重要です。
5.まとめ
HAZOPとは、化学プロセスに潜むリスクや運転上の問題を事前に洗い出すための体系的な検討手法です。「設計意図からのずれ」に着目し、専門知識を持ち寄りながらリスクを議論するというアプローチが最大の特徴です。
HAZOPの考え方や手順を学んだうえで、実際の事故・故障事例とあわせて理解を深めたい方は、より実践的な内容を扱ったセミナーもあわせてご検討ください。過去のトラブルから「なぜ事故が起きたのか」を学び、HAZOPの実施につなげるヒントが得られます。
(アイアール技術者教育研究所 TKI)
《引用文献、参考文献》
- 1) 厚生労働省「化学プラントのセーフティアセスメント」
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000016sqi-att/2r98520000016su8.pdf#page=7


































