医薬品の一般名とは?命名ルールや申請方法等の要点解説

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医薬品一般名

現在、医療機関で処方される医薬品の約80%は後発医薬品ジェネリック医薬品)であり、これは医療保険財政の改善を目指す国の方針に従うものです。

処方された後発医薬品の販売名を見るとブランド名ではなく、一般的名称+剤形+含量+「会社名(屋号)」 のような表示になっていると思います。これは、新たに承認申請するジェネリック医薬品の販売名について、一般的名称を用いた販売名に統一することとの厚生労働省の通達によるものです。

そこで、この医薬品の一般的名称(一般名)について簡単にまとめてみたいと思います。

1.医薬品の「一般名」の概要

「一般名」という場合、先ず思いつくのは、商標名に対する一般名です。
例えば、セロテープは商標名であり、一般名はセロハンテープです。
ここでご説明するのはこのような一般名ではなく、医薬品の有効成分となる化学物質の名前としての一般名(一般的名称)です。

化学物質の名前は、学術的には「化学名chemical name)」が使用され、物質の構造を正確に表現した体系的な命名法として、IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry:国際純正・応用化学連合)の定めたルールに則ったIUPAC名が知られています。しかし、複雑な化合物では長い名称となるため、医薬品の有効成分名としては一般にはあまり使用されません。

そこで、医薬品の一般名 (generic name)が使用されています。
世界保健機関(WHO)は、国際的で非独占的な医薬品の一般的名称として「国際一般名」(International Nonproprietary NameINN)を推奨しています。

ある有効成分を含む医薬品は、多くの商品名(商標名)で販売されていますが、そのような名称ではその有効成分が何であるか混乱を招くため、標準的名称である一般名が使用されます。
各国別に異なる場合も多い一般名(日本では「日本医薬品一般的名称」(Japanese Accepted Names for Pharmaceuticals: JAN)、米国では「米国一般名」(United States Adopted Names: USAN)、英国では(British approved names: BAN)など)も存在しますが、できるだけINNと整合をとって一元化の方向にあります。

例えば解熱・鎮痛薬である「アセトアミノフェン」は、USANとJANでは acetaminophen ですが、INNとBANでは paracetamol(パラセタモール)です。
ちなみに、アセトアミノフェンは、単剤の処方箋医薬品としては「カロナール」という販売名で、第2類医薬品としては「タイレノール」や「ノーシン」という販売名で販売されています。
また、化学構造および化学名(IUPAC名)は以下の通りです。(日本医薬品一般的名称データベースより)
 

医薬品一般名
【図1 アセトアミノフェン単剤の処方箋医薬品の化学構造および化学名】

 

2.医薬品一般名(generic name)の命名ルール

一般名の命名にあたっては、化学構造的あるいは薬理学的に類似した薬物群は同じ語幹(stem)を用いて命名することが多くあります。
以下に簡単な一般名の命名ルールを紹介します。

詳しくは、“Generic Name Stem”を参照してください。
 

(1)ペニシリン系抗生物質

ペニシリン系の薬の一般名には、語尾に「-cillin (-シリン)」が付きます。これは、ペニシリン(Penicillins)のスペル由来しています。

例:アモキシシリン(Amoxicillin)、アンピシリン(Ampicillin)、カルベニシリン(Carbenicillin)
 

(2)セフェム系抗生物質

セフェム系抗生物質の一般名には、語頭に「cef– (セフ-)」が付きます。

例:セファゾリン(Cefazolin)、セフォタキシム(Cefotaxime)、セフメタゾール(Cefmetazole)、セフォチアム(Cefotiam)
 

(3)キノロン系抗菌剤

キノロン系抗菌剤の一般名には、語尾に「-floxacin(-フロキサシン)」を用います。

例:シプロフロキサシン(Ciprofloxacin)、レボフロキサシン(Levofloxacin)
 

(4)抗ウイルス薬

抗ウイルス薬の一般名には、語尾に「-vir(-ビル)」が付きます。

例:オセルタミビル(Oseltamivir;商品名:タミフル)、ザナミビル(Zanamivir;商品名:リレンザ)、ラニナミビル(Laninamivir;商品名:イナビル)、バロキサビル(Baloxavir;商品名:ゾフルーザ)
 

(5)抗体医薬

抗体医薬モノクローナル抗体)の一般名には、語尾に「-mab (-マブ)」が付きます。これはモノクローナル抗体 (monoclonal antibody)に由来しています。

例:リツキシマブ(Rituximab)、トラスツズマブ(Trastuzumab)、アダリムマブ(Adalimumab; 関節リウマチ、潰瘍性大腸炎治療薬のTNF-α抗体)、ニボルマブ(Nivolumab;免疫チェックポイント阻害薬のPD-1抗体「オプジーボ」)

 

なお、「2021年10月に行なわれた世界保健機関(WHO)の専門家会議で、抗体医薬の命名ルールが変更されることが決まった」という情報があります。

新たな体系では、「-mab」のステムが廃止され、以下の4種のステムに分割されます。

  • tug グループ1 未修飾抗体unmodified immunobglobulins
  • bartグループ2 人工抗体antibody artificial
  • mig グループ3 多重特異性抗体multi-immunoglobulin
  • mentグループ4 フラグメント抗体fragment

※詳細は、引用したWEBサイト「薬読」の「抗体医薬の「マブ」がなくなる?命名ルールの変更が決定」(「薬にまつわるエトセトラ」)のページをご参照ください。
 

(6)酵素阻害薬

ある酵素を阻害する酵素阻害薬の一般名は、標的にする酵素や作用機序ごとに異なっています。
 

① HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系)

HMG-CoA還元酵素を阻害する高コレステロール血症薬の一般名には、語尾に「-vastatin (-バスタチン)」が付きます。

例:アトルバスタチン(Atorvastatin;商品名: Lipitor)、ロスバスタチン(Rosuvastatin; 商品名;クレストール)、ピタバスタチン(Pitavastatin;商品名:リバロ)

 

② Factor Xa阻害薬

Factor Xaという酵素を阻害する薬の一般名には、語尾に『-xaban (-クサバン)』が付きます。

例:アピキサバン(Apixaban; 静脈血栓塞栓症の治療薬;商品名: エリキュース)

 

③ リン酸化酵素阻害薬

Cyclinというタンパク質に依存して活性を発揮するリン酸化酵素 (Cyclin-dependent kinases)を標的にするタイプの薬の一般名には、語尾に『-ciclib (-シクリブ)』が付きます。

例:パルボシクリブ(Palbociclib;乳癌治療薬;商品名:イブランス)
 

3.医薬品一般名の申請と選択

INNやJAN、USAN等の一般名の申請、命名手続はほぼ同様です。
INNの命名のプロセスについて、国立医薬品食品衛生研究所生物薬品部の一般的名称に関する説明に簡潔に記載されていますので、これをそのまま引用します。

International Nonproprietary Name (INN, 医薬品国際一般名称) は,世界共通の医薬品の固有名称で,WHO医薬品国際一般名称委員会が命名します.命名された名称は, proposed INN (pINN) として公開され,4ヶ月以内異論がなければrecommended INN (rINN) として公開されます.」

先ずJANの手続について見てみましょう。詳細は独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)の「我が国における医薬品一般的名称(JAN)の申請等について」をご参照ください。

申請の際の添付資料は以下の通りです。

  • (1)命名設定の根拠とその資料(WHOクロニクルの写し等)
  • (2)申請一般名に係る類似登録商標の調査結果
  • (3)類似構造(起原)を有する医薬品及び同種薬理作用を有する医薬品に関する一覧表(一般名、化学名、化学構造式等を記載すること)
  • (4)起原及び開発の経緯等に関する資料
  • (5)理化学的研究に関する資料(旋光度測定データ等)
  • (6)効力及び毒性に関する基礎実験資料
  • (7)参考となる臨床試験成績
  • (8)その他関連資料

 

また、厚生労働省の通達「医薬品の一般的名称の取扱いに関する事務手続等について」を拾い読みしてみましょう。

1.一般名は、原則としてまず英名を作成するものとし、これを翻訳し、又は字訳する方法により命名するものとする。翻訳又は字訳する場合は、次によるものとする。
 (1) 一般名の英名に用いる化学名に文部科学省で定める学術用語(以下、学術用語)で日本語訳が示されている場合は、原則としてその日本語訳によるものとする。ただし、医薬品に特有なものにあっては、その名称によることができる。
 (2) 一般名の英名に用いる化学名に学術用語で日本語訳が示されていない場合は、字訳法則(別紙3)により字訳するものとする。ただし、一般名の一部が学術用語で日本語訳が示されている化学名である場合には、当該部分については、(1)に定めるところによるものとする。

2.一般名は、語音、綴りともに明快で、できるだけ短いものであり、かつ、既存の名称と混同されにくいものでなければならない。

3.薬理学的に関連のある群に属する医薬品の一般名は、この関連を示すようにつける。そのため、医薬品グループを表すステム(別紙1)に示す資料を参照すること。また、一般名の一部に解剖学的、生理学的、病理学的、若しくは、治療的効果を示唆するような字句が含まれてはならない。

5.化学薬品であってその化学名が短いものはそのまま医薬品名として命名する。また、化学名が長いものはステムを考慮し、既存品と類似しないように適当な接頭語、接尾語等とステムを組み合わせることにより命名する。化学名を短縮して作る方法は、類似の名称が多くなる傾向があるので避ける。

7.塩、エステル、プロドラッグ、包接化合物及び水和物などの一般名は、原則として、薬理的に活性のある部分(塩基、酸又はアルコールなど)の名称について考案し、これに薬理的に不活性な部分の名称を組み合わせることにより命名するものとする。

10.単離した文字、数字又はハイフン、h及びkは原則として使用しないこととし、phはf、thはt、yはi、ae又はoeはeとするものとする。

【別添1 一般名の命名基準】(抜粋)

 

医薬品一般名と商標登録との関係

上記下線部分からも明らかなように、一般名は、商標とは異なり、個人に帰属するものでなく、万人が共通に使用できる名称ですので、既存の商標と類似するものであってはなりません。また、既存商標の権利と抵触しないものが選択されます。

一般名と商標の関係について、商標権侵害訴訟の判決文に考え方が端的に示されていますのでご紹介します。

東京地方裁判所 平成27年4月27日判決 平成26年(ワ)第766号

「被告各標章は、あくまで被告各商品の有効成分であるピタバスタチンカルシウムを示すものにすぎず、それ自体出所識別機能を有するものと認めることはできないから、その使用は商標的使用に該当しない

「化合物の一般的名称である『ピタバスタチンカルシウム』の略称として用いられる『PITAVA』の文字を標準文字で書してなる本件商標と、薬剤の取違えを回避するため被告商品の錠剤表面に印字された『ピタバ』との文字からなる標章(被告標章)とが類似する旨主張することは、公益上、容認することができないというべきである」

「上記検討したところによれば、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標(商標法4条1項7号、46条1項1号)に該当し、本件商標権に係る商標登録は、無効審判により無効とされるべきものと認められるから、原告は本件商標権を行使することができない(商標法39条により準用される特許法104条の3)」

 

一般名と商標の関係ついては、WHOのINNに関するガイダンスにも以下のように記載されています。

「INNの選択の過程で、既存の商標所有者の権利は完全に保護されます。提案されたINNの公開後4か月の間に、提案されたINNが既存の商標と矛盾していると考える利害関係者によって正式な異議申し立てが提出された場合、WHOは撤回を取得するための取り決めを積極的に追求します。そのような異議の、または提案された名前を再考します。異議が存在する限り、WHOはそれを推奨INNとして公開しません。」

 
また、USANの申請に関する説明にも以下の通り記載されています。

「商標:その薬のために発行された商標はすべて提供されるべきです。登録国の名前とともに、既知の外国商標を含める必要があります。」

 
なお、冒頭、ジェネリック医薬品の販売名に一般名を使用することをご説明しましたが、新薬の製造販売の申請の際に販売名だけでなく一般名をも記載する必要がありますので、新規有効成分の場合には予め一般名の申請が必要となります。
 

4.医薬品一般名の調べ方

最後に、一般名の調べ方について簡単にご説明します。

日本の医薬品一般名は「日本医薬品一般的名称データベース」で調査することができます。

ここでは、日本で一般的名称が付けられたすべての医薬品について、 医薬品一般的名称(英名および日本名)、日本薬局方収載状況、構造式、化学名、分子式、分子量、CAS登録番号、薬効分類コード、薬効分類名、INN等がデータベース化されていますので、利用をお勧めします。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 A・A)
 
 


《参考文献・サイト》


 

医薬品関連の特許調査なら日本アイアール

 

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