最低限知っておきたい官能基の基礎知識《有機化学の初心者/専門外の人向け》
この記事では、有機化学を初めて学ばれる方、有機化学が専門でない方へ向けて、「官能基」についてご紹介いたします。
目次
1.官能基とは
有機化学で最初に学ぶことの一つが「官能基」(functional group)です。
官能基とは、有機化合物の性質を決める特定の原子の集まりであり、同じ官能基を持つ化合物は共通する化学的性質を持ちます。
新型コロナウイルスへの対策としてエタノール(CH3CH2-OH)消毒液が使用されますが、エタノールのようにヒドロキシ基(-OH基)という官能基を持つ化合物をアルコール(alcohol)と呼びます。
それぞれの官能基の持つ性質を知ることで、その有機化合物の性質を推測することができます。
2.官能基の例
(1)ヒドロキシ基(アルコール)
アルコールの例として、メタノール、エタノールなどがあります。
ヒドロキシ基があると、その分子は水に溶けやすくなります。
例えばスクロース(ショ糖)にはヒドロキシ基が8つもあります。
(2)アルデヒド、カルボニル基(ケトン)
アルデヒドはアルコールを酸化すると生成します。
飲酒するとエタノールは体内で代謝されてアセトアルデヒドへ変化します。
(3)カルボキシ基(カルボン酸)
カルボン酸の構造を有する代表的な化合物として酢酸(CH3-COOH)があります。
酢酸はお酢に含まれています。果物の酸味成分としてリンゴ酸、酒石酸はそれぞれリンゴやブトウに含まれます。
(4)シアノ基(ニトリル)
シアノ基は電子求引性基であり、加水分解によりアミドやカルボン酸へ誘導できます。
シアノ基を有する化合物例としてアクリロニトリル (acrylonitrile)があります。アクリロニトリルは工業的に重要な中間体であり、合成樹脂などの原料として使用されています。
(5)アミノ基
アミノ基は塩基性を示します。
アミノ基を有する脂肪族アミン類は腐臭など強い匂いを持つものもあります。
アドレナリンやドーパミンなど神経伝達物質はアミノ基を有しています。
(6)ニトロ基
分子内にニトロ基が複数あると不安定となり爆発しやすくなります。
爆薬であるTNT(トリニトロトルエン)にはニトロ基が三つあります。
(7)エステル結合
エステル結合は、カルボン酸や酸無水物とアルコールの脱水縮合によって得られます。ポリマー合成にもエステル結合は使われます。
エステル結合を含む低分子化合物はバナナやリンゴなど果物の臭気成分に含まれます。
(8)アミド結合
タンパク質にはアミド結合が含まれています。
アミド結合はカルボン酸とアミノ基の脱水縮合によって得られます。
環状構造のときには「ラクタム」と呼びます。
《主要な官能基のまとめ》
3.官能基と匂い
構造が単純な低分子化合物では、官能基の種類によって「アルコール臭」「エステル臭」のように匂いを分類することができます。
同じ炭素鎖でも官能基によって匂いが異なります。
炭素数6のヘキサンの末端をアルコール、アルデヒド、カルボン酸、エステルへ変換した化合物は匂いがそれぞれ異なります。
4.IUPAC命名法と官能基
化合物の体系的な命名は IUPAC規則に基づいて行われます。
IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry:国際純正・応用化学連合)は化合物の構造から名称を与える規則として系統的命名法を作り出しました。広く使われる化合物については慣用名として通用しています。
例えば、「酢酸」(acetic acid)は許容慣用名であり、IUPAC命名法にしたがって命名すると「エタン酸」(ethanoic acid)となります。
命名法の詳細については省略致しますが、官能基は化合物の命名の際に使われます。
有機化合物の構造を書くソフトウェアとして世界で最も使われているChemDraw(CambridgeSoftが開発した分子構造式エディタソフトウェア)では、化合物の構造からIUPAC名へ変換することができ、またその逆も可能です。複雑な化合物の命名法に困ったときには参考にすることができます。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 Y・I)
≪引用文献、参考文献≫
- 1)Jonathan Clayden, Stuart Warren, 野依良治(訳代表), ウォーレン有機化学(上),東京化学同人, 29-35
- 2)日本香料工業会、香料の化学
https://www.jffma-jp.org/about/science.html