3分で分かる技術の超キホン 燃料電池とは?知っておきたい基礎知識を凝縮まとめ解説

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燃料電池の基礎知識

2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、利用時に二酸化炭素を排出しない水素エネルギーが注目されています。
本稿では、水素エネルギーの利用手段として注目されている「燃料電池」をわかりやすく解説します。

1.燃料電池とは?

燃料電池は、水素などの燃料の化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する化学電池の一種です(表1)。

燃料電池は、内部にエネルギーを蓄えている乾電池とは異なり、外部から燃料と酸化剤を供給することで電気エネルギーを発生する発電機のように機能する電池です。

化学電池 物理電池
燃料電池  一次電池 二次電池 太陽電池 熱電池
エネルギー源  化学エネルギー(水素) 化学エネルギー 太陽光エネルギー 熱エネルギー
外部から供給 内部に貯める 外部から供給
充電 × × ×
固体高分子形燃料電池 マンガン乾電池 リチウムイオン電池 シリコン系太陽電池 ゼーベック電池

【表1 電池の分類】

 

2.燃料電池が注目される理由

燃料電池が注目される理由は、その発電効率(変換効率)の高さです。
燃料電池の理論変換効率を水素エンジンなどの熱機関と比較すると、図1のようになります。

水素エンジンなどの熱機関は、水素の燃焼反応で発生する熱エネルギーを動力に変換します。
熱エネルギーから動力への変換では、作動温度によって理論変換効率(カルノー効率)が決まりますが、燃料電池は、熱エネルギーを経由しない反応で、カルノー効率の制約を受けません

現在実用化されている燃料電池では、100℃以下の温度でも60%以上の高い発電効率を実現しています。

燃料電池と熱機関の理論変換効率【図1 燃料電池と熱機関の理論変換効率】

 

3.燃料電池の歴史

燃料電池の歴史は古く、1801年にイギリスのデービーによって原理が提唱され、1839年にはイギリスのグローブが実験に成功しています。その後1950年代から実用化に向けた研究開発が始まり、1960年代にはジェミニ宇宙船とアポロ宇宙船に搭載され、スペースシャトルにも燃料電池が搭載されました。
その後の研究開発を経て、2009年に家庭用燃料電池コージェネレーションが、2014年には量産型の燃料電池車が日本で販売開始されています。
 

4.燃料電池の基本構造と発電原理

(1)基本構造と種類

燃料電池の基本となる構成要素は電解質、正極と負極の電極です(図2)。

正極と負極は触媒作用を持った物質で、電解質はイオン(Hなど)を通し、電子(e)と水素(H2)や酸素(o2)を通しにくい特性の物質です。燃料電池は、この電解質の種類によって分類されます(表2)。
 

種類 固体高分子形 固体酸化物形 リン酸形 アルカリ形
PEFC SOFC PAFC AFC
電解質 固体高分子膜
(陽イオン交換膜)
固体酸化物
(セラミックス)
リン酸 アルカリ水溶液
(KOH)
Polymer Electrolyte Solid Oxide Phosphoric Acid Alkaline
伝導イオン  H O2- H OH
用途  ・自動車
・家庭用&業務用 コージェネレーション
・非常用電源
・家庭用&業務用 コージェネレーション ・業務用 コージェネレーション ・宇宙船用電源
・潜水艇

【表2 燃料電池の種類】

 

燃料電池の基本構造(PEFC)【図2 燃料電池の基本構造(PEFC)】

 

(2)燃料電池の発電原理(仕組み)

燃料電池の内部反応は燃料電池の種類によって異なります。ここでは、現在広く用いられている固体高分子形燃料電池PEFC: Polymer Electrolyte Fuel Cell)を解説します。

まず、燃料となる水素は負極に供給され、水素イオンと電子に分離します。水素イオンは電解質である固体高分子膜を通って正極に移動、電子は外部の電気回路を経由して正極に移動します。そして、正極に供給された酸素は電子および水素イオンと反応して水(H2o)を生成します。

負極と正極の反応は式(1)、(2)で表わされ、これらの反応をまとめると式(3)となります。
1気圧、25℃の条件下で水素1モル(0℃、1気圧で22.4リットル)から得られる理論発電量は燃料電池の種類によらず約237kJです

  • 負極の反応  2H2 ⇒ 4H+ + 4e (1)
  • 正極の反応  O2 + 4H+ + 4e ⇒ 2H2O (2)
  • 全体の反応  2H2 + O2 ⇒ 2H2O + 2×237kJ (3)

 

5.実用的な燃料電池の構造

式(3)の反応による燃料電池の理論電圧は約1.23Vですが、実際の燃料電池では内部の様々な抵抗や損失によって、電圧が0.6~0.8Vまで低下します。
そのため実用化されているPEFCでは、基本構造となる固体高分子膜と正負電極の複合体(MEA)を図3のように積層し、電圧と発電出力を高めています>。

家庭用燃料電池コージェネレーションでは数十セル、燃料電池車では数百セルが積層されています。
乾電池の直列接続と異なり、外部から水素と酸素を供給する必要があり、冷却水回路が必要になる場合も多いため、実際の積層構造は図3よりも複雑です。

 

PEFCの積層構造模式図【図3 PEFCの積層構造模式図】

 

6.燃料電池の普及に向けた課題

燃料電池の課題の一つは価格の高さで、普及拡大の妨げとなっています。

特にPEFCは電極の触媒に高価な白金を使用しており、価格低減のために白金の使用量低減が必要です。
しかし、白金はPEFCの出力と耐久性に大きな影響を与えるため、使用量の低減は簡単ではありません。
また、白金は水素中の不純物によってその触媒性能が低下します。そのため燃料電池自動車向けの水素には品質規格が定められており(ISO14687-2)、燃料である水素の価格高の一因にもなっています。PEFCの白金の使用量を減らす研究など、燃料電池普及拡大のための様々な研究が産官学連携で進められています。

 

7.燃料電池の今後の展望

近年のカーボンニュートラルの流れを受けて、業務用の大型電源から、電車、船舶、ドローンまで、様々な用途への燃料電池の適用が検討されています。

また、燃料電池の技術は水の電気分解による水素製造にも応用できます
今後計画されている太陽光発電や風力発電の大規模導入は、時間帯によって余剰電力を発生すると予想されています。この余剰電力で水素を製造、貯蔵しておいて、電力が必要な場所で必要な時に水素を利用する検証が始まっています。

今後、水素エネルギー利用の拡大に伴い、燃料電池の用途が広がっていくことでしょう。

 

(アイアール技術者教育研究所 T・I[技術士(機械部門)])


《参考文献・サイト》


 

 

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