食品業界の特許トラブルを知ろう ~本当に怖い特許の話~

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前回のブログで、食品技術者にこれから特許が特に必要とされる理由を説明しました。
でも、特許情報をよく調べて対策をとってから開発するのと、きちんと対策せずに開発していくことの違いを実感できる人はあまり多くないのかもしれません。
今回は、食品業界のこわ~い実例を挙げますので、どうぞ特許情報調査の必要性を味わってみてください。
 

えっ!あのお餅が、特許が原因で・・・?

ここのところ10年で、誰もが見たり聞いたり食べたりしたことのあるであろう超有名メーカーどうしが特許紛争で激突していたのをご存知でしょうか。

あらかじめ切込みが入れられたことできれいに膨らむお餅を食べて、気分良くお正月を迎えられる方もたくさんいらっしゃることでしょう。

実は、切り餅の2大メーカーの間でこの餅の切込み位置について、特許侵害の有無が知財高裁(知的財産高等裁判所)で争われ、被告側が特許権を侵害していたと結論付けられました。
さらに判決では賠償額計14億8500円と、侵害品である餅の販売・製造禁止、さらには在庫品の処分と餅に切込みを入れる製造装置の破棄までもが命じられ、被告の製品は二度と売り出されることがなくなったのです。

また、カップ麺の元祖と袋ラーメンの雄がストレート麺の製法を争ったときは、被告が製法を変える形でどうにか和解に落ち着きました。
ノンアルコールビール市場の王者の座をかけた2社は、分析して分かった成分値を争点として二審まで争った末に、被告側の製品販売は維持で賠償金もないという、被告が逆転する形で和解しました。

このように、特許訴訟はどちらかの企業の事業や商品の継続いかんがかかるものです。しかし金銭的、労力的には当事者双方に大きな負担を強いられます。

負けた側には賠償金のほか、弁護士や弁理士などの代理人費用に加え、当事者企業の人件費、さらには証拠収集のための調査費用などが重くのしかかります。その費用は約1,707万円といわれています[1]。

もちろん、双方の企業の関係する技術者も、証拠となる書類作成、立証に必要な試験の実施、出廷や代理人との打ち合わせに駆り出されることになり、長期にわたって本業に専念できない事態に陥ります。
係争自体がビジネスの大きなリスクになるのです。

これらのリスクを低減する方法は、前もって特許調査を行っておき、それに基づいて社内で対応策を練っておくしかないのです。

 

どのような特許調査が必要なのか

どんな特許調査を行うかは、開発の段階により3つに分けられます。
 

①開発前・初期段階での調査

まだどんな製品になるかも決まっていない段階では、まずその技術分野にどのような特許があるのかを把握するための「先行技術調査」を行います。
どんな競合他社がいるのか、彼らが何を考えているのかを特許情報から知り、さらにそれと自社開発の方向性を社内で十分議論します。
それをもとに、研究開発テーマを設定し、スケジュールを立てるのです。
 

②開発中期段階での特許調査

製品の方向性がだんだん形になってきたころは、もっと範囲を絞り、深く、また継続的に調査する必要が出てきます。

そして最初の先行技術調査以降に新たな問題となる出願や、新しいプレーヤーが出現したかを監視します。
そのために、特許検索専用のデータベースにどんな命令して検索させるのか(検索式)を決め、繰り返し同様の命令文で新たな特許を検索します。
関係部署はそれらの特許を読み、問題になりそうとピックアップされた出願や特許権があれば、さらにその出願人の動向を探ります。
このように、問題のある出願を発見し、継続的にその動きを監視していく調査は、SDI調査(Selected Dissemination Information)といい、ウォッチング調査とも呼ばれます。

どうしても対応が必要になると考えられる特許があれば、まだ権利化されていない場合は弁理士と相談して権利化阻止をします。

特許権として成立してしまっている場合はその特許を無効にする(潰す)ために、無効資料調査を行うとか、権利自体を回避する策を考える必要があります。
 

➂開発終盤・最終段階での特許調査

開発技術やレシピが確立し、あとは製品を売り出すばかりのステージではどうしたらよいのでしょうか。

この時期には、最終的に販売する製品等の仕様が、他社の特許を侵害することにならないかを確認するための「侵害予防調査」(「クリアランス調査」とも呼ばれます)を行うことが一般的です。できるだけ漏れのない徹底した調査を行います。
先行技術調査やSDI調査とは異なり、さまざまな観点から立てた検索式を使って関連分野の特許(基本的には、生存している特許が対象)をしらみつぶしに調べます。
その後、自社製品等と、調査で抽出された関連性の高い出願・特許とを1件1件照らし合わせて該当しているか否かを細かく確認していくのです。

 

食品技術者は特許調査にどこまで関わるべきなのか?

技術者は、初期段階の「先行技術調査」と、開発中期段階での「SDI調査」は自分で実施できることが望ましいでしょう。
少なくとも、抽出された特許を読んで、自社の製品と比較することは必須です。

検索式を使った調査に自信がない場合や、大量の特許文献を読む時間が確保できない場合は、外注することも視野に入れるとよいですが、もちろんそこで入手した資料は、最終的に技術者が徹底的に分析する必要があります。
 
(参考文献)
[1] 特許庁・株式会社サンビジネス「特許権侵害訴訟における訴訟代理人費用等に関する調査研究報告書」平成29年2月, p85
 
(※本稿は中谷技術士事務所中谷明浩講師からのご寄稿を、日本アイアールが再構成したものです)
 

中谷先生による ”食品業界の特許” に関するセミナー情報はこちら
 
特許調査の種類と概要については日本アイアールのサイトも併せてご参照ください。

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