3分でわかる技術の超キホン 「フッ素化学」入門|C-F結合の特性、フッ素樹脂の用途など
「フッ素」(fluorine)は原子番号9の非金属化学元素であり、元素記号はF、第2周期ⅦA族のハロゲンのひとつです。原子半径が小さく、原子外殻電子構造は2P5で、強い酸化性を有しています。フッ素分子(F2)は毒性のあるガスで、最も強い酸化剤の1つです。
フッ素は、その特殊な化学的性質によって、プラスチック、ゴム、冷媒などの分野で大きな役割を果たしており、「フッ素化学」は化学の歴史の中でも重要な位置を占めています。
今回は「フッ素化学入門」として、フッ素化合物の基礎知識をご紹介します。
1.フッ素化合物の特性とは
フッ素化合物の特性は、主にC-F結合の特性に由来するものです。フッ素は強い酸化性を有しているため、あらゆる元素と結合しやすく、特に炭素原子Cと最も強い結合(C-F結合)を作れます。
C-F結合の特性
C-F結合は、一般的な材料の骨格である炭素と水素の結合(C-H)エネルギーと比べて、より結合エネルギーが高く安定であるため、耐熱・耐紫外線の性質を有しています。
フッ素樹脂の分子構造-C2F4-は対称であり、C-F間の距離が短いため、高周波の影響を受けにくく電気的にも安定しています。例えば、フッ素樹脂を電子レンジで温めてもほとんど温度が上がりません。
またC-F結合は、炭素とフッ素の電子の引き付けやすさのバランスがよいため、フッ素素材はほぼ無極性となり、表面に触れる物質との相互作用が極めて小さくなります。このため、フッ素材料は滑り性を持ちます。
C-F結合は安定しているため、分子と分子の間で引き合う力が弱く、凝集しにくくて表面張力が低いです。
一方、フッ化物の溶液については、水や油は分子同士が引き合って分子間凝集を起こりやすく、球状となりフッ素面から弾かれます。これはフッ化物の撥水、撥油特性の由来です。接触角が大きくなると弾く力が大きくなり、撥水撥油性が強まります(図1)。
[※関連コラム:3分でわかる技術の超キホン 濡れ性とは?撥水性/親水性の基礎知識 もご参照ください。]
【図1 接触角と濡れ性の関係】
2.フッ素材料(フッ素樹脂)の特徴と用途
フッ素素材は、普通のC-C結合の骨格の -CH2– ではなく、-CF2– になります。結合エネルギーが大きく、より回転しにくいです。
そのため、フッ素材料は炭化水素系材料より、圧倒的な耐熱性を有します。その強固な-CF2-結合から、溶媒や酸、塩基などに対する優れた耐性も発揮します。
C-F結合エネルギーは紫外線エネルギーよりも大きいため、太陽光によって切断されることがありません。また、炭素原子の周りをフッ素原子が隙間なく覆っているため、周囲の環境が紫外線を吸収することで発生するラジカルの攻撃も受けません。そのため、フッ素素材は耐紫外線の性質も持ち合わせています。
フッ素樹脂は構造にフッ素原子を持ち、プラスチックでPTFEやFEP、PFAなどが挙げられます。これらは石油系の油や燃料に対して優れた耐性を持ちます。フッ素ゴムは共重合組織にC-F結合をもち、特に耐薬品性や耐油性を有します。
フッ素ゴムの構造
現在市販されているフッ素ゴムは、大きく分けて以下の3種類があります。
- フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロプレン系のFKM
- テトラフルオロエチレン-プロピレン系のFEPM
- テトラフルオロエチレン-パーフルオロビニルエーテル系のFFKM
フッ素素材の用途
自動車の内燃機関からエレクトロニクスなどの様々な用途で、幅広い温度に対応するフッ素素材(フッ素樹脂)が使われています。
耐溶媒性から、自動車の燃料チューブ・ホース・ガスケットにも多く使用されており、オイル、エタノール混合燃料などに対し優れた耐性を有します。
電気安定性の特徴からは、携帯電話の内部や基地局用電線の絶縁材料にも応用されています。
滑り性を活かした用途もあります。潤滑用添加剤やギア、シール、ベアリングなど、滑り性重視の部品はフッ素樹脂を利用するケースが多く見られます。
また、撥水、撥油性を利用して、食品包装紙、不織布、カーペットなど幅広い用途にも展開しています。フッ素コーディングはその一つです。コーティング剤はディスプレイ、光学製品、ガラス表面の保護用途として、使われています。防汚コーティング剤の構造としては、基材の表面と強く接合する官能基、防汚機能を持つフッ素重合体の組み合わせです(図2)。
【図2 ガラス表面のフッ素コーディングの原理】
また、ライフサイエンス(医薬など)の分野でも、フッ素化合物は活躍しています。
フロンは化学的・熱的に極めて安定であり、かつ不燃性なので、冷媒としても優れた性能を有しています。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)
《引用文献、参考文献》
- 1)J-stage総説特集, 24-28, 「フッ素ゴムの特徴と最近の開発動向と用途」,フッ素ゴムの種類と物性・用途について
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gomu/93/6/93_202/_pdf/-char/ja - 2)清水正之, フッ素系界面活性剤の新しい動き, 34-37
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj1970/27/7/27_7_366/_pdf/-char/ja - 3)ダイキンフッ素塾(WEBサイト)
https://www.daikinchemicals.com/jp/e-juku/index2.html#!/j_c_2_1