3分でわかる技術の超キホン 糞便微生物移植(FMT)とは?

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FMT(微生物移植)

以前欧米では、難治性の再発性クロストリジウム・ディフィシル感染症(rCDI)という病気が猛威をふるっていた時期がありました。
重症のrCDI は抗生物質が効かなくなるなど治療は困難を極めたそうです。

そんな中、2013 年にオランダのグループがrCDI を対象とした糞便微生物移植(Fecal Microbiota Transplantation;FMT)の臨床試験を行い、画期的な有効性を証明しました。
これによって、FMT は急速に注目を集めることとなりました。

FMTについては、ニュースやテレビ番組でご覧になった方もいらっしゃると思いますが、今回は、奇抜な治療法ともいえる糞便微生物移植(FMT)についてご紹介いたします。
 

腸内細菌と疾患

ヒトの腸管には約1000種、数100兆個以上、重さにして1~2Kgの腸内細菌が生息しています。

ヒトに定着している細菌の90%は消化管に生息していて、「腸内細菌叢」と呼ばれています。

通常、この腸内細菌叢は恒常性があり、外界からの刺激、加齢、ストレスなどによってバランスが多少崩れても元に戻る性質を持っていますが、その恒常性が破綻すると、すなわち、腸内細菌叢が乱れる(dysbiosis)と、炎症性腸疾患や過敏性腸症候群といった消化器疾患を生じることになります。

しかし、最近の研究から、dysbiosisは消化器疾患だけでなく、肥満や糖尿病などの代謝性疾患、関節リウマチや多発性硬化症などの自己免疫疾患、自閉症やうつなどの精神疾患といった様々な疾患に関与していることが明らかになってきました。

これらの病気の原因となっているdysbiosisの改善を目的とした治療法の一つとして、副作用のない糞便微生物移植(FMT)が細菌学的治療として注目を集めています。
 

糞便微生物移植(FMT)とは?

糞便微生物移植(FMT)とは、健康なヒト(ドナー)から提供を受けた糞便(feces)に存在する腸内微生物(microbiota)を患者の腸内に移植(transplantation)することをいいます。

冒頭にご紹介した再発性クロストリジウム・ディフィシル感染症(rCDI)に有効性であることが証明されたことによって急速に広まってきていますが、最近はrCDI だけでなく、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群をはじめとした様々な消化管疾患、さらには消化管以外の疾患においてもFMT は試みられるようになってきました。
 

FMTの歴史

紀元4 世紀に中国で行われたという文献が存在しています。
Ge Hong という学者が中国の救急医学の書物の中で、食中毒または急性の下痢症に対して、健常人の糞便を投与しているとあります。

欧米では、1958 年にEiseman という外科医が偽膜性腸炎の患者4 名にFMT を行っております。
しかし、その後FMTの報告例はほとんどなくなってしまったようです。

ペニシリン等の抗生物質が登場し、あらゆる細菌微生物のもたらす感染症が治療され始めたからと予想されています。
 

FMTの対象疾患

再発性クロストリジウム・ディフィシル感染症(rCDI)

クロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)は、抗菌薬を服用した結果、腸内細菌の量と種類のバランスを崩し(腸内細菌叢の乱れ[dysbiosis])、特定の病原性の細菌(一般的な細菌は、クロストリジウム・ディフィシル)が過剰に繁殖し、この細菌によって放出された毒素が、大腸の保護粘膜に炎症(大腸炎)を起こし、血性の下痢や腹痛、発熱等の症状を引き起こします。

CDIの治療にはバンコマイシンやメトロニダゾールなどの抗菌薬が用いられますが、15~20%に再発が認められ、さらにその45%には再発がみられるという報告があります。
これを再発性クロストリジウム・ディフィシル感染症(recurrent Clostridiumdifficile infection:rCDI)としています。
再発を繰り返す度に抗生物質に抵抗性を増していき、最も重症な場合は、生命を脅かす脱水、低血圧、中毒性巨大結腸症、大腸穿孔が起こることがあります。

重度で再発する場合は便移植(FMT)が行われることがあります。FMTによって腸内の正常な細菌が再定着すると考えられています
 

潰瘍性大腸炎(UC)

UCでのFMT ではいくつかのランダム化比較試験(RCT)が報告されており、FMTの治療効果が有効であるとされていますが、凍結ドナー便を40回以上自己浣腸する方法であったり、現実的な治療としては疑問視もされています。
 

過敏性腸症候群(IBS)

今のところでは、2017年にノルウェーのグループから小規模ながらRCT での有効性が報告されていますが、今後さらなる複数のRCT の結果を見たほうがよいとの意見もでています。
 

その他

パイロット試験では、移植片対宿主病(GVHD)、腸管ベーチェット病、回腸囊炎、機能性便秘などで実施されているようです。
 

消化管以外の疾患について

RCT で有効性が示唆されているのは、メタボリックシンドローム(肥満)患者、肝性脳症を対象とした試験が行われています。
メタボリックシンドローム患者に対するFMT は、肥満自体は改善させなかったものの、インスリン抵抗性が改善したことが報告されています。

その他、薬剤抵抗性のB 型肝炎、多発性硬化症、ジストニア、2 型糖尿病、急性GVHD、特発性血小板減少症、敗血症、多剤耐性菌感染症、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、原発性硬化性胆管炎、急性膵炎、パーキンソン病、てんかん、自閉症、うつ病、HIV 感染症など、およそdysbiosisが関与していると考えられる疾患のほとんどが臨床試験の範疇で実施されているようです。
 

FMTの投与方法

FMTの投与方法は、施設や対象疾患によっても異なっているようです。
これまで報告された方法として経鼻胃チューブ、経鼻十二指腸チューブ、上部内視鏡、大腸内視鏡、注腸が用いられたとされています。

rCDI では経肛門投与(注腸または下部消化管内視鏡)の有効性が高いとする報告が多く、最も有効なのは下部消化管内視鏡を用いて回盲部(盲腸および上行結腸の一部から形成される小腸と大腸の境界部)で投与するものであるとの報告もありますが、一方で、CDIに対するFMT投与経路別の有効性に関しては投与法による有効性の違いは認められないとの報告もされているようです。

また、糞便をカプセル化する試みも進んでいます。
凍結保存した糞便カプセルを内服することにより、新鮮便の投与と同等の良好な成績がrCDI で得られているとの報告もされています。

FMT 施行回数は、治癒は1 回のみで行われることが多いようです。1 回で治癒困難であれば、同一ドナー糞便を用いて行われますが、2 回のFMT でも治療困難であれば、他のドナー糞便を用いることもあるようです。
なお、rCDI の場合は、いずれも3~5 日間の抗生物質投与が推奨されています。抗生物質抵抗性であることの確認と、患者固有の腸内細菌数を減少させるために投与するとされています。
 

FMTのドナー糞便

ドナー糞便は、厳格なものが求められています。
感染症の除外は必須であり、ドナーの抗生剤等の薬の服用歴や患者の食物アレルギーや症状を悪化させないようにドナーの食事にも配慮が必要とされています。
時にはドナーから糞便を採取する何日も前から準備することが求められることもあるようです。

一方で、ドナー糞便は新鮮便または凍結便のいずれもrCDI では有効であることが実証されています。
当初は心情的に親族の糞便をドナーに選んでいましたが、凍結便も有効であるという理由で徐々に第三者糞便を用いる施設も増えてきているようです。
 

治療因子

従来、FMTによって腸内の正常な細菌が再定着すると考えられていましたが、近年、CDI に対する糞便移植を改良して、糞便中の腸内細菌をフィルターで除去した腸内細菌の存在しない上澄み液を患者に移植したところ、rCDI が治癒したという結果が得られたとの報告がされました。
この結果から、腸内細菌が重要なのではなく、ドナー糞便中の細菌以外のものに決定的な治癒因子(腸内細菌代謝産物等?)が含まれている可能性が示唆されています。

また、FMT 治療によってインスリン感受性の改善を認めた患者のFMT 後の糞便は、ドナー糞便の腸内細菌ではなく、ドナー細菌に類似した患者本来の糞便腸内細菌が増加しているという報告もされており、よって、移植という言葉は適切ではないのかもしれないとの意見もあります。

コアラの赤ちゃんは、離乳期に母親の肛門を舐めることによって、主食のユーカリの葉に含まれる食物繊維を消化するのに必要な消化酵素を有する腸内細菌を獲得しているといわれています。
コアラの赤ちゃんにとって生きていくうえでとっても重要なことなのです。

ヒトにとっても腸内環境を整えることは、消化管の疾患だけでなく、他の多くの病気を治療・予防することになりますので大切にしたいものです。
 

FMTに関する特許・文献を検索をしてみると?

(※いずれも2019年11月時点における検索結果です)

FMTに関する特許調査

特許庁の”j-Platpat”で特許公報を調べてみました。

  • キーワード検索:全文: 糞便*移植 → 3716件
  • 糞便微生物移植 糞便移植 糞便細菌叢移植 → 70件
  • 論理式:[糞便/Cl]*[微生物/CL+糞便/CL+細菌叢/CL]*[移植/CL] → 67件
  • [糞便/Cl]*[移植/CL] → 67件

ヒットした内容を見てみると、「糞便細菌叢移植のための組成物」「移植用便の採取方法」「腸内細菌叢改善剤」などの特許が得られました。
糞便そのものは特許にはならないと思われますので、採取方法や製剤、組成物の特許が出されているものと考えられます。
 
今回の結果から特許分類(FI)をみてみると、消化器官疾患治療薬の特許には[A61P1/00、04]が、活性成分・組成物に関する特許には、[A61K31 ~ 35]、中でも[A61K35/74@A(バクテリア菌全体)、35/741(腸内有益菌)] が比較的多く付与されていました。
実際の調査の目的によって、使い方を検討する必要がありそうです。
 

FMTに関する文献調査

国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) の文献プラットフォーム”j-stage”を使って、FMRに関する文献を調べてみました。

  • キーワード検索:糞便 移植 → 2056件
  • キーワード検索:糞便 微生物 移植 → 608件
  • キーワード検索:糞便 細菌叢 移植 → 255件

ヒットした内容を見てみると、「クローン病に対する糞便移植療法」「腸内細菌叢研究の現状と展望」「糞便移植法の現状と将来展望」等々の文献がヒットしました。

文献等の具体的な内容について興味のある方は、ぜひご自身でも検索してみてください。
 
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
 


バイオテクノロジー関連の特許調査・文献調査サービスは日本アイアールまでお問い合わせください。


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