欧州バッテリー規則とは?要求事項、企業への影響と対策をやさしく解説

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EUバッテリー規則

1.はじめに

世界的な電動化・再生可能エネルギー化の潮流の中で、バッテリー産業は急速に拡大しています。EVにおいては、バッテリーは主要部品の一つです。(図1)
EUでは、環境負荷を抑えつつ資源を循環させる経済モデル=サーキュラーエコノミーの推進を目的として、2023年に欧州バッテリー規則EUバッテリー規則*1(EU Battery Regulation)が正式に発効しました。

この規制は従来のEUバッテリー指令*1(Battery Directive 2006/66/EC)を置き換えるものであり、単なる環境対応にとどまらず、製造・使用・廃棄・リサイクルにわたる電池のライフサイクル全体を管理する包括的な制度です。

その中心的な考え方が、CFP(Carbon Footprint of Products:製品のカーボンフットプリント)の導入で、脱炭素社会が求める「持続可能なバッテリー」を目指すものです。

 

EVのバッテリー
【図1 EVのバッテリー】

 

*1 EU規則、EU指令:EU加盟国における法令として、EU指令は指令に基づき国内法が制定されてから国内へ適用されますが、EU規則は、発効により国内法と同等に適用されます。

 

2.欧州バッテリー規則とは何か

欧州バッテリー規則は、EU加盟国すべてに直接適用される法的拘束力を持つ統一規則(Regulation)です。
2023年8月17日に発効し、2024年以降段階的に義務が適用されていきます。
規則の目的は主に3つあります。(図2)

 

EUバッテリー規則の目的
【図2 欧州バッテリー規則の目的】

 

  1. 環境負荷の削減と資源循環の促進
    原料採掘から廃棄・再利用までの環境影響を最小化し、持続可能なリサイクル社会を実現する
  2. 倫理的・持続可能なサプライチェーンの確立
    紛争鉱物や強制労働など、人権・社会面のリスクを排除する
  3. 欧州産業の競争力強化
    EU域内でのバッテリー製造を促進し、グローバルな市場競争で優位性を確保する

このように、環境・社会・経済の三位一体でのサステナビリティを追求するのが、欧州バッテリー規則の本質です。

 

3.規則の対象と範囲

欧州バッテリー規則は、あらゆる用途の電池および蓄電池を対象としています。分類は以下のとおりです。

 

【表1 規則の対象と範囲】

分類

主な用途

ポータブルバッテリー 小型電子機器用 スマートフォン、ノートPCなど
産業用バッテリー 産業機械、再エネ設備 フォークリフト、太陽光蓄電
自動車バッテリー 車載電源(鉛蓄電池など) 12V始動用電池
電動車用バッテリー EV・PHEV駆動用 車載リチウムイオン電池
軽電動車(LMT)用バッテリー e-bike、電動スクーター LMT用リチウム電池
 

※欧州バッテリー規則で求められる義務内容や適用時期は、バッテリーの分類(ポータブル・産業用・EV・LMT など)によって異なります。本記事では共通要求事項を中心に解説しており、製品カテゴリに応じた追加要件については今後発行される委任法令(Delegated Act)などで詳細が定められる予定です。

製造業者、輸入業者、販売業者、リサイクラーのすべてが規制の対象となり、製品単体だけでなくライフサイクル全体での管理責任が課されます。

なお、軍事用途、宇宙用途、研究開発用など特定の用途のバッテリーは本規則の適用対象外とされています。ただし、商用品として市場に供給する電池は基本的に適用対象となります。

 

4.主要な要求事項

主要な要求事項をまとめると図3のようになります。

 

EUバッテリー規則の要求事項
【図3 欧州バッテリー規則の要求事項】

 

※欧州バッテリー規則は、本体規則に加えて委任法令(Delegated Acts)および実施法令(Implementing Acts)によって詳細な要件が追加・変更される仕組みとなっています。CFPの算定ルール、バッテリーパスポートの仕様、リサイクル義務の技術要件などは、今後これらの法令によって確定する点にご注意ください。

要求事項のそれぞれについて詳しく見ていきましょう。

 

(1)CFP(カーボンフットプリント)の算定と開示

欧州バッテリー規則の中核に位置するのがCFP:Carbon Footprint of Productsです。
これは製品の原材料採掘から製造・輸送・使用・廃棄までの全工程における温室効果ガス排出量(CO₂換算)を定量的に算定する仕組みです。
リチウムイオンバッテリーでは、2025年以降にCFPの算定*3と報告が義務化されます。
さらに2027年からは、排出上限値(カーボンスコア)の導入も予定されており、製造工程の低炭素化が求められます。

*3 CFP算定:ISO 14067やEU Product Environmental Footprint(PEF)手法に基づくことが推奨されています。

 

(2)リサイクル含有率の義務化

再資源化を促すため、リサイクル材の使用義務として、電池中に含まれる再生資源(金属)の含有率が定められています。
2031年までに以下の目標が設定されています。

 

【表2 リサイクル含有率の義務化】

材料

2028年目標

2031年目標

コバルト 16% 26%
85% 85%
リチウム 6% 12%
ニッケル 6% 15%
 

これにより、リサイクラーや材料メーカーも循環経済の一端を担うことになります。

 

(3)回収・リサイクル率の義務化

廃棄バッテリーを確実に回収するため、加盟国ごとに回収率目標が設定されています。
ポータブルバッテリーでは2027年までに73%の回収率が義務付けられています。
また、リチウムやコバルトの回収効率も向上させることが求められています。

 

(4)デューデリジェンス(人権・環境リスク対応)

コバルトやリチウムなどの鉱物資源は、紛争地域や人権侵害問題に関わる場合があります。
そのため企業には、調達経路の追跡と倫理的リスクの管理(デューデリジェンス、Due diligence)が義務化されました。
OECDガイドラインに基づき、原材料調達から最終製品まで透明性を確保することが求められます。

 

(5)デジタルバッテリーパスポートの導入

2027年以降、容量2kWh以上のリチウムイオン電池にはデジタルバッテリーパスポートが義務付けられます。
これはQRコードを介してオンラインで参照できる電子情報で、以下のデータが含まれます。

  • 製造者・製造国・モデル情報
  • 材料組成・再生資源比率
  • CFP値
  • リサイクル可能性・再利用履歴

この仕組みにより、トレーサビリティ確保とリユース促進が同時に実現します。

 

5.スケジュールと実施段階

欧州バッテリー規則における主要項目のスケジュールと実施段階を図4に示します。

※2025年時点で、CFP算定義務やサプライチェーン・デューデリジェンス義務のうち一部は、EUによる再検討・適用時期の見直しが提案されています。そのため、最終的な適用時期は今後の公式発表を確認してください。

 

EUバッテリー規則のスケジュールと実施段階-2
【図4 欧州バッテリー規則のスケジュールと実施段階】

 

段階的な義務化に対応するために、各企業は長期的なロードマップに基づいて活動を進める必要があります。

 

6.企業への影響と対応策

EU市場で事業を展開する企業は、製品の性能だけでなく環境・倫理・透明性が競争力を左右する時代に直面しています。
特に次のような対応が求められます。

 

ESG経営と企業ブランド価値向上の要素
【図5 ESG経営と企業ブランド価値向上の要素】

 

これらは単なる法令遵守ではなく、ESG経営*2と企業ブランド価値向上の要素として位置付けられます。

*2 ESG経営:企業が環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)において、持続可能な経営を行うこと

 

7.今後の展望

CFPを軸にした国際調和が必要となります。欧州バッテリー規則のCFP制度は、今後日本や米国など他地域の制度設計にも影響を与えると考えられています。
環境や人体健康のための排ガス規制の強化・導入でもそうだったように、EUは、CFP値をグローバル基準に据えることで、国際的な環境競争をリードしようとしています。(図5)

 

CFP値のグローバル基準化
【図6 CFP値のグローバル基準化】

 

日本企業にとっても、EU向け製品のみならず、国内市場でのCFP開示やLCA評価*4が一般化する可能性が高まっています。
持続可能性対応が「規制遵守」から「企業価値創造」へと進化する転換期にあるといえるでしょう。

*4 LCA評価:Life Cycle Assessment、製品の原料採掘から廃棄・再利用までの全ライフサイクルにおける環境負荷を評価すること

[※関連記事:LCAの基本を解説!計算方法と活用事例、CFPとの違いもわかる

 

8.まとめ

欧州バッテリー規則とは、環境・社会・経済の観点から電池の全ライフサイクルを管理し、CFPを基軸に持続可能な産業構造を形成する法制度です。
今後、CFP値を正確に算定し、デジタルパスポートなどで透明に開示することが、国際取引や企業評価の新たな指標となっていきます。脱炭素時代において、バッテリー産業の信頼性と持続可能性を高める取り組みは、すべての製造業にとって避けて通れないテーマとなるでしょう。実務知識を効率的に学びたい方は、欧州バッテリー規則に関するセミナー受講もお勧めします。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・N)

 

 

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