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生物の生存に不可欠な必須元素の1つとして知られる「亜鉛」は、成人の生体内において、微量金属元素としては鉄に次ぐ、約2gが含まれています。
亜鉛は、たんぱく質の構造維持や多数の酵素の補因子として働いており、生体内の様々な生理機能において重要な役割を担っていることが知られています。近年、亜鉛欠乏症状を呈する患者の数が増加傾向にあるとされており、注目すべき元素といえます。
今回は、必須微量元素としての亜鉛について取り上げることにいたします。
目次
亜鉛は、酵素、サイトカイン、ホルモンなどの活性中心として重要な役割をなしており、さまざまな生体内の反応に関与しています。
また、アミノ酸からのたんぱく質の再合成、DNAの合成や、胎児や乳児の発育や生命維持、骨の成長や肝臓、腎臓、インスリンを作る膵臓、精子を作る睾丸など、新しい細胞が作られる組織や器官では必須のミネラルとなっています。さらに、体の細胞にダメージを与える活性酸素を除去する酵素の構成成分であるほか、味覚を感じる味蕾細胞や免疫反応にも関与していることが知られています。
最近の研究では、脳の海馬における細胞外亜鉛濃度を適切に保つことが、記憶の長期増強に影響を与えるという実験結果が得られており、また、老齢化による亜鉛濃度の上昇が認知症の発症メカニズムに関与する可能性が示されたり、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の発症にも亜鉛が関わっていることが報告されています。
亜鉛フィンガー(*)などの転写因子をはじめとする多数のタンパク構造の維持や300 種類以上の酵素が、亜鉛を必要とすることが知られています。
例えば、SOD(スーパーオキサイドディスムターゼ)、OTC (オルニチントランスカルバミラーゼ)、ファルネシルタンパク質転移酵素、ALP(アルカリホスファターゼ)、carbonic anhydrase (炭酸脱水酵素)、MMP(マトリックス金属プロテアーゼ)、alcohol dehydrogenase(アルコール脱水素酵素)、carboxypeptidase(カルボキシペプチダーゼ)などが挙げられます。
遺伝情報の発現に関与するタンパク質の多くが亜鉛含有タンパクであり、その構造がアミノ酸鎖と亜鉛の配位が指のような形をしているために「亜鉛フィンガー」、または、ねじれ構造から「亜鉛ツイスト」と呼ばれています。
亜鉛の摂取基準は年齢によって異なりますが、成人男性で10mg/日、成人女性で8mg/日 程度とされています。
[※詳細は厚生労働省の資料「日本人の食事摂取基準(2020年版)『日本人の食事摂取基準』策定検討会報告書」をご参照ください。]
亜鉛は通常の食事をしていれば8mg /日程度は摂取されており、亜鉛不足になることは殆どないのですが、偏食や食事制限などでタンパク質の摂取量が減少すると、亜鉛の摂取量が低下する傾向があるようです。
なお、亜鉛の腸管吸収率は30~40%とされています。
耐容上限量は18~29歳の男性で40㎎、30~69歳の男性で45㎎、70歳以上の男性で40㎎、18歳以上の女性で35㎎と設定されていますが、日本では近年、亜鉛欠乏者数が増加傾向にあるとの報告がなされています。
亜鉛を多く含む食品には魚介類、肉類、藻類、野菜類、豆類があります。
牡蠣には100gあたり14.5㎎、うなぎの蒲焼100gには2.7㎎と魚介類や肉類に亜鉛が多く含まれています。
食物中の亜鉛は、食物の消化により生じるアミノ酸、有機酸、リン酸などと複合体を形成し、主に十二指腸から吸収されます。
生体が亜鉛欠乏状態時には吸収促進され、過剰時には吸収抑制されます。食物中にカルシウム、リン、鉄、カドミウムなどの無機物があると亜鉛の吸収は抑制されますが、蛋白質があると亜鉛吸収は促進されます。
また、食物繊維や穀類、豆類に含まれるフィチン酸、食品添加物、キレート剤であるEDTAなどが亜鉛の吸収を阻害します。加齢とともにその吸収率は低下するとされています。
腸管で吸収された亜鉛は、血液中に放出された後、アルブミンやα2-マクログロブリンと結合して血液中を移動、各種臓器に運ばれます。
亜鉛は成人の体内に約2gあるとされており、成人では約6割が筋肉、3割が骨に含まれてます。
臓器で亜鉛濃度の高いのは、前立腺であり、骨、腎、筋、肝、心臓、消化管の順となっていますが、亜鉛は組織によって取り込まれる速度が異なっていることが知られています。
亜鉛の交替度の最も早いのは、膵、肝、腎、脾臓となっており、骨や中枢神経系への亜鉛の取り込みは比較的遅いとされています。
細胞内の亜鉛が過剰になると、亜鉛輸送体(ZnT輸送体)によって細胞外へと輸送されます。
反対に細胞内へ亜鉛を輸送するもの(ZIP輸送体)もあります。
両者は細胞内の亜鉛濃度を調整(亜鉛ホメオスタシス)する役割を担っています。
消化管で吸収されない亜鉛は糞便中に排泄されますが、吸収された体内の亜鉛は、膵液、胃液、唾液などの消化液や胆汁などを介し腸管を経て糞便中に排泄されます。
なお、尿からの排泄は僅かですがネフローゼ、糖尿病慢性肝疾患などでは尿中亜鉛量は増加するとされています。そのほか、アルコールの摂取により、亜鉛の排出量が増加します。
亜鉛の欠乏は種々の免疫系の低下を誘発したり、たんぱく質やDNAの合成に影響を及ぼすとされています。
他にも、亜鉛が関与する生化学反応は数多くあることから、亜鉛が欠乏することにより、様々な欠乏症(病態)を呈することになります。
亜鉛欠乏による症状の具体例としては、味覚への影響、子供の成長の阻害、免疫機能の低下、貧血、食欲不振、皮膚炎、生殖機能の低下、慢性下痢、脱毛、免疫力低下、低アルブミン血症などが挙げられています。
亜鉛の過剰摂取は、吐き気、嘔吐腎障害、免疫障害、上腹部痛、消化管過敏症、HDLコレステロールの低下、低銅血症、下痢などの原因となります。
また、銅の吸収阻害を引き起こすことが知られており、銅欠乏による症状が現れることがあります。
さらに、長期間の過剰摂取は、前立腺がんリスクを増加させる可能性があるとの報告もあるようです。
上述の通り、生体内の亜鉛濃度は亜鉛輸送体(亜鉛トランスポーター)によって調整されています。
生体内亜鉛ホメオスタシスは、これら亜鉛輸送体の協調的作用(相互補完)によって維持されています。
代表的な亜鉛輸送体を挙げてみます。
亜鉛輸送体は、ヒト疾患の発症や病態メカニズムと密接に関係していることがわかってきていますが、これらの機能を制御する医薬品はまだ報告されてはいないようです。
その他、配合剤の一成分として、硫酸亜鉛水和物、ヨウ化亜鉛(Zinc Iodide)が用いられています。
日本特許庁の「J-Platpat」を用いて、簡易的に特許を調査してみました。(調査日:2021.8.2)
[※FIの「A61K」は医薬品に関する主要な分類(サブクラス)です。]
この検索結果の母集団をざっとみたところ、「海洋ミネラル成分からなる骨粗鬆症治療および/または予防剤」「液状経腸栄養組成物」などの特許文献が見られました。
JSTが運営する文献データベース「J-STAGE」を用いて文献調査を行ってみました。(調査日:2021.8.2)
この検索結果の中には、「亜鉛欠乏症と低亜鉛血症」「亜鉛と神経疾患」「亜鉛と皮膚」などのタイトルの文献が見受けられました。
文献の内容を知りたい方は、データベースにアクセスして確認してみましょう。
以上、今回は必須微量元素としての「亜鉛」に関する基礎知識をご紹介しました。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)