EMCとは?ノイズ対策の重要性が基礎からわかる!
1.EMCとは
飛行機に搭乗する時に、離着陸時には携帯電話の電源を切るように要請されます。病院内でも、特定の領域では携帯電話の電源を切ることが求められます。
これは、飛行機内あるいは病院内の電子回路を用いた精密機器に、携帯電話の発する通信用の電波、携帯電話の電子回路から漏れる電波が影響を及ぼし、精密機器の誤動作を引き起こさないようにすることが目的です。過去には実際に、飛行機内での電子機器使用による飛行機制御への影響や、救急車内での無線機器使用による医療機器の誤動作、スイッチのノイズによる検出器の誤動作で原子炉が緊急停止したことなどが報告されています。
このようなことを防ぐために、
- 電子機器からノイズを発生させない(抑制する)対策
- 電子機器へのノイズの浸入を抑える対策
が必要になります。
前者を、EMI対策(EMI:”Electromagnetic Interference“)と呼び、
後者を、EMS対策(EMS:”Electromagnetic Susceptibility“)と呼びます。
そして、電子機器がその動作によって他の電子機器等に電磁的な妨害を与えず、かつその動作が他の物から電磁的な妨害を受けない状態を「EMC」(”Electromagnetic Compatibility“)と呼びます。
EMI・EMSとEMC(用語の整理)
日本語では、一般的にこれらの言葉に次のような用語を当てています。
- EMI:電磁的な妨害の放出であることからエミッション
- EMS:電磁的な妨害への感受性であることから、その対策としては感受性を落とすこと、すなわち免疫性(イミュニティ)
- EMC:電磁的な妨害を放出せず、妨害を受けても免疫性があることから電磁両立性
このような対策が取られていない電子機器が市場に出回らないように、多くの国や地域で、EMC試験に合格した製品しか販売できないような規制が取られています。
つまり、EMCは、基本的には製品設計、製造段階で作り込んでおくべきものですが、新品の時には問題がなかった機器でも、ちょっとした故障だからとEMCを理解せずに修理すると、大きな問題になることもあります。
この連載コラムでは、EMCとは何か、また基本的な対策にはどのようなものがあるかを解説していきます。
2.ノイズの例
「EMC」とは、ノイズを発生させず、ノイズの浸入を抑えることですから、まずノイズとはどのようなものかを知る必要があります。最初にノイズの例を見てみましょう。
図1のような音楽の信号(青色)を増幅しているアンプに、より周波数の高い電磁気的な信号(黒色)が入って来るとスピーカからは音楽だけでなく、ガサガサという耳障りな雑音(ノイズ)も聞こえます。
【図1 音楽の信号と雑音のイメージ】
デジタル回路への影響はもっと深刻なものとなる場合があります。
図2で青の線は、ゼロと1のデジタル信号です。赤矢印はレベルの検出タイミングで、その時に電圧がしきい値より下であればゼロと判断し、しきい値以上であれば1と判断します。雑音の振幅が小さいうちは全く問題ありません。
しかし、雑音によって一瞬でもしきい値にかかり、かつそのタイミングがレベル検出タイミングと一致すると、1であるべき信号がゼロと判定されたり、ゼロであるべき信号が1と判定されたりして、デジタル信号の表す意味が全く変わってしまいます。
図2の「誤ったレベル」の行で、朱字で示したのが、雑音の影響による誤判断です。
【図2 デジタル信号への雑音の影響】
3.ノイズの発生源
ノイズの発生源としてはどのようなものがあるでしょうか?
自然界では、雷や宇宙線がノイズ源になり得ます。
人工的に作られるノイズとしては、各種のモータ、電気機器の電源スイッチ、電車のパンタグラフの火花、などのほか、各種の電気回路から漏洩する電磁波があります。さらに、公共放送の電波、携帯電話、無線LAN等の意図的に発射される電波も、これらのシステムと無関係な電子機器にとってはノイズ源になります。
ノイズの発生源は、ノイズの影響を受ける電子機器の外にあるとは限りません。
最近の多機能化したスマートフォンなどでは、高密度に配置された無線通信回路と情報処理回路の間で、お互いがノイズの発生源、受け手になることがあり、「機器内EMC」「イントラEMC」などと呼ばれています。
4.デジタル信号はノイズの塊!
デジタル信号が、基本周波数よりはるかに高い周波数のノイズを発生していることには気を付けなければなりません。矩形波は、下の式のように基本波に奇数次の高調波を足していったものになっています。
この式を図で確認してみましょう。
図3の青線の矩形波は、黒線の基本波に3次高調波、5次高調波・・と奇数次の高調波を足していったもので、9次高調波まで足し合わせたものでは、図の赤線で示したようにかなり矩形波に近い形になっています。
【図3 正弦波と奇数次高調波の足し合わせによる矩形波の合成】
このように振幅は基本波よりは小さいものの、デジタル信号を扱う電子機器では、機器内EMCなどの対策が必要になる場合があります。
次回は、ノイズの伝達経路について解説します。ノイズがどのような経路で伝わって来るのか、経路ごとにどのような対策を立てるのかについて整理しましょう。
(アイアール技術者教育研究所 H・N)