3分でわかる技術の超キホン 抗生物質とD-アミノ酸(細胞壁合成阻害剤の種類と代表例など)

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抗生物質
 
微生物には、古くからD-アミノ酸が存在することが知られていましたが、ペニシリンの発見以来、抗生物質の研究が盛んに行われるようになり、その作用機序も多くが解明されています。

今回は、D-アミノ酸に関連する抗生物質についてご紹介します。
 

D-アミノ酸と抗生物質

抗生物質は、微生物が産出する化学物質であって、他の微生物や細胞の発育・代謝を阻害するものといえます。
抗生物質の作用機序としては、DNA複製阻害、RNA合成阻害、タンパク質合成阻害、細菌細胞壁合成阻害作用などがあります。
このうち、細菌細胞壁合成阻害剤は、D-アミノ酸に深く関連する抗生物質であります。
 

細胞壁合成阻害剤の種類

細菌は、細胞膜の外側にさらに細胞壁をもっており、ヒトの細胞と大きく異なっています。
細菌の細胞壁合成に対して特異的に作用する薬物が、細胞壁合成阻害剤です。
ヒトには細胞壁がありませんので、細胞壁合成阻害剤は、ヒトに対する毒性が少ないという利点があります。

細胞壁合成阻害作用を示す薬としては、主にβラクタム系とグリコペプチド系が知られています。
 

βラクタム系

細菌の細胞膜のペニシリン結合蛋白質は、細胞壁にあるペプチドグリカンの前駆体であるD-アラニル-D-アラニンに結合してペプチドグリカンを作り上げていくのですが、βラクタム系はこのペニシリン結合蛋白質に作用して細胞壁合成を阻害します。

化学構造的にβラクタム系とD-アラニル-D-アラニンが似ていることから、ペニシリン結合蛋白質がD-アラニル-D-アラニンではなく、βラクタム系と結合してしまい、その結果として細胞壁合成が阻害されます。

βラクタム系
なお、βラクタム系は、さらに、ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系に分けることができます。
 

グリコペプチド系

グリコペプチド系は、ペニシリン結合蛋白質ではなく、D-アラニル-D-アラニンと結合することにより細胞壁合成を阻害します。βラクタム系とは作用点が異なっております。

この他にも、作用機序の異なる細胞壁合成阻害剤がありますが、下記に代表的な細菌細胞壁合成阻害剤を取り上げてみます。
 

代表的な細菌細胞壁合成阻害剤

ペニシリン

フレミングによって青カビの一種Penicillium属から単離された抗生物質ですが、その基本骨格はシステインとバリンのジペプチドがβラクタム環と呼ばれる4員環構造を構成している構造となっています。
ペニシリン

ペニシリンは、基本骨格の化学構造が細菌の細胞壁を架橋するD-アラニル-D-アラニンに似ているため、細菌のトランスペプチターゼはペニシリンとアラニン構造を誤認識してしまい、その結果、細胞壁の架橋が行われなくなるのです。
 

バンコマイシン

バンコマイシンは、ペプチドグリカン前駆体のD-アラニル-D-アラニン部分に結合することで、ペプチドグリカンの架橋反応を妨害します。

バンコマイシン耐性菌では、ペプチドグリカン前駆体がD-アラニル-D-アラニンではなく、D-アラニル- D-セリンとなっており、カモフラージュすることでバンコマイシンの結合を逃れ、身を守っています。
 

セファロスポリン

糸状菌Cephalosporium acremoniumから単離されたβ-ラクタム系の抗生物質です。

作用はペニシリンとほぼ同様で、細胞壁合成を阻害。アレルギー反応を起こしやすい点もペニシリンと類似しています。ペニシリンが効かない菌にも有効なのが特徴です。
糸状菌
 

サイクロセリン

サイクロセリンは、 Streptomyces orchidaceus の培養液中に産生される抗結核性抗生物質です。

抗酸菌、特にヒト型結核菌に強く作用し、ストレプトマイシン、バイオマイシン、パラアミノサリチル酸カルシウム、イソニアジドなどに耐性な結核菌に対しても効果があるとされています。
D-アラニンと構造が類似しており、細菌の細胞壁の合成を阻害します。

試験管内抗菌力はO-カルバモイル-D-セリンにより相乗効果が認められ、D-アラニンにより拮抗されるとされています。
サイクロセリン
 

ホスホマイシン

スペインの土壌から分離されたStreptomyces fradiaeの1 菌株の培養ろ液中に発見された抗生物質で、エポキシ環とC-P 結合という2つの特徴を有しています。
グラム陽性球菌のブドウ球菌からグラム陰性菌の大腸菌、プロテウス属、セラチア属、緑膿菌に至るまで広い抗菌スペクトルを有しています。

作用機序としては、UDP-N-アセチルグルコサミンエノールピルビン酸トランスフェラーゼ酵素を失活させる事で殺菌的に作用するもので、ペプチドグリカンの架橋を阻害するのではなく、ペプチドグリカンの生合成を初期段階で阻害するとされています。
ホスホマイシン
 

アズトレオナム

従来の二環系のペニシリン系やセフェム系とは異なり、細菌由来の単環系β-ラクタム抗生物質で、モノバクタム(モノサイクリック構造を有するバクテリア起源のβ-ラクタム)と称されています。

アズトレオナムは、天然モノバクタムの基本骨格を化学的に修飾し、緑膿菌を含む広範囲のグラム陰性菌に強い抗菌力を示し、β-ラクタマーゼに極めて安定であるとされています。

細菌のペニシリン結合蛋白(PBP)のうち、特にPBP3 に高い結合親和性を有し、細胞壁の合成を阻害します。
アズトレオナム
 

細胞壁合成阻害剤に関する特許・文献を検索してみると?

(※いずれも2019年11月時点における検索結果です。)

特許検索(j-platpat)

日本特許庁の「j-platpat」を使用して、細胞壁合成阻害剤の特許を調べてみました。

キーワード 「細胞壁合成阻害剤」

⇒ 全文: 402件、請求範囲: 45件
 

特許分類(FI)

抗生物質を含むFIとしては、下記のような分類がありました。

  • A61K35/74 構造未知の物質またはその反応生成物を含有する医薬品製剤; ・・バクテリア
  • C07G11/00 構造不明の化合物; 抗生物質

(他にもA61K35/74、C12P1/02、A23C9/156等々がありますがここでは省略します)
 
このFIで検索してみると、以下の件数となりました。

  • A61K35/74: 7792件
  • C07G11/00: 1140件

この2つのFIを合わせたうえで、キーワード:全文「細胞壁」を掛け合わせると、1554件になりました。
これを公開年代別に(※2019年は途中まで)グラフにすると、以下のような推移になります。

特許公開年別件数1

また、FI別にすると下のグラフのようになります。
特許分類(FI)別件数1

さらに、上記で取り上げた抗生物質をキーワードで検索すると、以下の件数になりました。

抗生物質 全文 請求範囲
ペニシリン 60387 1918
バンコマイシン 8621 1189
セファロスポリン 15476 1864
サイクロセリン 989 84
ホスホマイシン 1580 193
アズトレオナム 2536 294

 

文献検索(J-STAGE)

細胞壁合成阻害剤の文献を調べてみました。

  • キーワード:「細胞壁合成阻害剤」 ⇒ 199件
  • キーワード:「抗生物質 細胞壁 合成阻害」 ⇒ 655件

内容を見てみると、抗生物質の作用機序、探索研究、効果、臨床試験に関する文献が多数ヒットしました。
 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
 


バイオ・医薬分野に関する特許調査サービスは日本アイアールまでお気軽にお問い合わせください。


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