3分でわかる技術の超キホン 「ヒトのD-アミノ酸」まとめ(D-セリン/D-アスパラギン酸の解説と応用例など)

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ヒト

近年、植物、高等動物などにもD-アミノ酸が広く存在し、種々の機能を持つことが明らかになってきました。
特に、D-セリンが神経伝達の調整因子として作用している可能性など、ヒトに存在するD-アミノ酸ついての研究・報告が多くされております。
今回は、ヒトのD-アミノ酸についてまとめてみました。
 

ヒトのD-アミノ酸

ヒト体内には、主な遊離型D-アミノ酸として、D-セリンと D-アスパラギン酸が見い出されています。
いずれのD-アミノ酸も生体内で重要な役割をしていることが分かってきています。

D-セリン

D-セリンが、哺乳類の脳に豊富に存在することが分かっております。
中でも、ヒトの脳内分布は、前脳では高濃度に存在し、中脳や間脳では中等度から低濃度、後脳にはほとんど存在していないとされています。
ヒトの大脳にある遊離型セリンの20%はD型ともいわれています。

そして、D-セリンは、神経伝達において重要な役割を持つことが徐々に明らかになってきています。
総合失調症においては、ドパミン過剰による幻覚や妄想の症状(陽性症状)とともに、神経伝達物質の一つであるグルタミン酸が何らかの理由によって障害されていると考えられて(グルタミン酸仮説)おり、一方、D-セリンはNMDA(N-methyl-d-aspartate)型グルタミン酸受容体のグリシン結合部位に作用して受容体機能を促進する選択的アゴニストであるため、グルタミン酸/D-セリン系の異常が精神神経疾患の病態と関連している可能性が示唆されています。

これらのことから、統合失調症に対する治療薬として、D-セリン類縁化合物やD-セリン/D-アミノ酸酸化酵素(DAO)阻害薬との併用などが臨床応用に検討されています。
なお、双極性障害においても、グルタミン酸神経伝達の異常が注目されています。

また、ヒトの尿には高濃度のD-セリンが存在することが報告されています。
これは糸球体で濾過されたD-、 L-セリンのうち L-セリンのみが再吸収されるためと考えられています。
急性腎炎のモデルマウスでは、尿のD/L濃度比の低下と血清中のD/L濃度比の増加が起こることが報告されており、腎障害によってL-セリンの再吸収に障害が生じたためと説明されています。
このことからD-セリン濃度を測ることによって、腎障害の有無、すなわちマーカーとなる可能性が指摘されています。
 

D-アスパラギン酸

D-アスパラギン酸も、脳内濃度の減少によって、NMDA受容体の機能不全を引き起こし、結果として総合失調症や躁うつ病が発症するという仮説が提唱されており、D-アスパラギン酸酸化酵素(分解酵素)の阻害剤もNMDA受容体に関連した精神疾患に対する改善薬になる可能性が期待されています。

また、D-アスパラギン酸は、脳以外にも、網膜、松果体、下垂体、副腎、精巣などの組織に存在することが知られており、神経内分泌系および内分泌系組織において種々のホルモンやステロイドの産生・分泌の調節に深く関わっていることが報告されています。
例えば、松果体においてメラトニンの合成・分泌を抑制し、精巣においてはテストステロンの合成・分泌を促進することが明らかになっています。
遊離D-アスパラギン酸にも、メラトニンの分泌抑制、プロラクチン分泌の活性化や、テストステロン合成の促進作用などが報告されております。
 

加齢・老化とD-アミノ酸

眼の水晶体タンパク質中にD-アスパラギン酸が蓄積され、老化と共にその量が増加していることが報告されており、加齢や老化に伴って、種々のタンパク質中のアミノ酸残基が非酵素的に異性化し、D-アミノ酸残基が形成されることが明らかとなっています。

また、白内障やアルツハイマー病の原因タンパク質にはD-アミノ酸が多く蓄積していることが明らかとなっています。

このことから、老化した皮膚や紫外線被爆した皮膚に見いだされているD−アスパラギン酸は老化や紫外線損傷の分子マーカーとして有用であると期待されています。
 

D-アミノ酸の利用・応用

上記の統合失調症に対する治療薬、腎障害マーカー等の他にも、D-アミノ酸を用いた様々な技術が考えられています。

抗菌剤

D-アミノ酸は、高等動物に対する必須性はないと考えられていることから、D−アミノ酸アミノトランスフェラーゼの特異的阻害剤を開発すれば、選択性の高い抗菌剤として利用できる可能性が考えられています。
 
ヒトに関連する技術以外にも下記のようなことも期待されています。

バイオフィルムの形成抑制・解体

細菌のバイオフィルムの形成抑制・解体に対して、抗生物質とD-アミノ酸を一緒に添加すると、抗生物質の抗菌活性が上昇することが報告されており、バイオフィルムの形成抑制剤や除去剤が期待されています。

食品の品質や製品の均一性検査

オレンジジュースの劣化した製品にはD-アミノ酸が含まれることが知られており、このことから、D-アミノ酸を測定することによって、品質や製品の均一性を確認することができる可能性が示唆されています。
 

ヒトのD-アミノ酸について特許調査・文献調査をしてみると?

(※いずれも2019年11月時点における検索結果です。)

特許検索(j-platpat)

日本特許庁の「j-platpat」を使用して、D-アミノ酸の特許を簡易的に調べてみました。

キーワード「D-アミノ酸」

⇒全文: 9909件、請求範囲: 1156件

特許分類(FI)

D-アミノ酸に対応するFIは残念ながら無いようです。
アミノ酸のFIとしては、

  • A61K31/198 医薬用,歯科用又は化粧用製剤; ・・α-アミノ酸;
  • C08G69/36 炭素-炭素不飽和結合のみが関与する反応以外の反応によって得られる高分子化合物; ・・アミノ酸・・

(他にペプチドに関するC12P13/04、A61K38/00、C07Kなどもありますがここでは省略します)

これを検索すると

  • A61K31/198 ⇒ 4692件
  • C08G69/36 ⇒ 423件

両者を合わせ、キーワード:全文「D- D体」を掛け合わせると、2717件になりました。

公開年代別に(※2019年は途中まで)グラフにすると、以下のような推移になります。
公開年別件数

また、FI別にすると、下記グラフのようになりました。
FI別件数

このうち、最も件数の多い”A61″(医学または獣医学;衛生学)の分類コードランキングを見ると下記のようになりました。

順位 件数 FI 説明
1 2631/2637 A61K31 有機活性成分を含有する医薬品製剤[2]
2 1277/2637 A61P43 グループA61P1/00~A61P41/00に展開されていない特殊な目的の医薬[7]
3 849/2637 A61K45 A61K31/00~A61K41/00に属さない活性成分を含有する医薬品製剤[2,6]
4 809/2637 A61P25 神経系疾患の治療薬[7]
5 704/2637 A61P3 代謝系疾患の治療薬
6 685/2637 A61K38 ペプチドを含有する医療製剤
7 611/2637 A61K9 特別な物理的形態によって特徴づけられた医薬品の製剤
8 587/2637 A61K37 - (現在は使われていない)
9 576/2637 A61P1 消化器官,消化系統の疾患治療薬[7]
10 564/2637 A61P35 抗腫瘍剤[7]

また、A61K31で「D-セリン」を検索すると 679件
「D-アスパラギン酸」は 2,007件
となりました。それぞれ種々の医薬品に関する特許がヒットします。

文献検索(J-STAGE)

文献データベースJ-STAGEを利用して、D-アミノ酸の文献を調べてみました。
検索したキーワードと該当件数は以下の通りです。

  • D-アミノ酸 ⇒ 98,876件
  • D-セリン ⇒ 10,198件
  • D-セリン ヒト ⇒ 3,304件
  • D-アスパラギン酸 ⇒ 9,009件
  • D-アスパラギン酸 ヒト ⇒ 1,943件

D-セリンと統合失調症のような種々のD-アミノ酸(D-セリン、D-アスパラギン酸)に関する文献が多数ヒットしました。
 
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
 


バイオ・医薬分野に関する特許調査サービスは日本アイアールまでお気軽にお問い合わせください。


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