常温硬化型塗料/焼付硬化型塗料の樹脂硬化機構《塗料/コーティング技術入門⑥》
樹脂には熱可塑性と熱硬化性の2つのタイプがあります。
熱硬化性樹脂が主要な塗膜成分となる塗料では、原料となるモノマーやポリマー同士が反応して硬化し、塗膜を形成します。熱硬化性樹脂を形成する樹脂反応には、常温での時間経過によるものと加熱によるものの両者があり、その反応機構も様々です。
今回は塗膜の硬化における代表的な樹脂反応について解説します。
目次
1.常温硬化型塗料の樹脂反応
建築物や構造物に使われる塗料は、塗装後、外気の温度でゆっくりと硬化反応が進みます。
1液型塗料の塗膜は樹脂が空気中の酸素と反応する酸化重合によって硬化し、2液型の場合は主剤と硬化剤に含まれる樹脂同士が反応して硬化します。
それぞれの反応について見ていきましょう。
(1)酸化重合
酸化重合型の塗料では、樹脂中の二重結合成分と空気中の酸素が反応して塗膜が硬化します。
メインとなる樹脂成分はポリエステルの一種であるアルキド樹脂です。酸化重合型塗料では、リノール酸やオレイン酸といった二重結合成分を含む脂肪酸由来のアルキド樹脂が使われており、酸化重合反応ではこの二重結合由来のラジカルと酸素由来のラジカルが結合して硬化反応が進みます。
反応機構は下図の通りで、発生したラジカルの連鎖反応により異なるポリマー同士が反応し、最終的にR-O-RやR-O-O-R構造で架橋された塗膜が形成されます。
【図1 酸化重合反応】
この反応はアルキド樹脂中の二重結合成分が多いほど、重合度が高くなります。
なお、酸化重合型塗料は「フタル酸樹脂塗料」などの名称で知られ、船体用塗料や防錆用中・上塗り塗料など様々な用途で使われています。
(2)不飽和ポリエステル-スチレンの重合
このタイプの塗料では、不飽和ポリエステルに含まれる二重結合とスチレンの二重結合が反応して硬化します。メチルエチルケトンペルオキシドなどの重合開始剤から発生したラジカルが元となり、樹脂及びスチレンに含まれる二重結合同士の反応が進みます。
スチレンは二重結合を含むモノマーですが、このタイプの塗料では溶媒としても使われています。硬化過程で溶媒自体が塗膜の形成成分となるため、揮発分の極めて少ない「無溶剤塗料」として扱われます。
【図2 不飽和ポリエステル-スチレンの重合】
現場では重合開始剤を含む硬化剤を混合してから塗布します。
素地調整用のパテや木材用塗料にこのような反応の塗料が使われています。
(3)イソシアネートの反応
「ウレタン塗料」は塗膜の硬化過程でウレタン樹脂を形成する塗料のことであり、「ウレタン樹脂」はイソシアネート基(NCO)を有する化合物が反応してできる樹脂を意味します。
つまり、常温硬化型のウレタン塗料では、樹脂のイソシアネート基と他の樹脂の官能基が反応して塗膜が形成されます。
代表的なイソシアネートはMDIやHDIなどです。相方となる樹脂にはポリオール、アミンなどがあります。
RーN=C=O + RーOH → RーNHー(C=O)ーOHーR …(ポリオールとの反応)
RーN=C=O + RーNH2 → RーNHー(C=O)ーNHーR …(アミンとの反応)
イソシアネートとポリオール、アミン間の反応はとても早いため、2液型塗料として提供されます。
イソシアネートは、ポリオールとの組み合わせでは硬化剤として機能し、アミンとの組み合わせでは主剤として扱われ、アミンが硬化剤となります。
なお、このような反応で硬化する塗料として、建築用の上塗り塗料や自動車補修用塗料があげられます。
(4)エポキシ-アミンの反応
エポキシ樹脂とアミンも常温で反応します。
このタイプの反応では、まずエポキシ基と1級アミンが2級アミンを形成します。
2級アミンもエポキシ基との反応性を有するため、さらに反応が進み3級アミンが形成されます。
アミンを介してエポキシ樹脂同士の3次元架橋が進む仕組みです。
この反応は溶媒の影響を受けやすく、溶媒の種類によって反応速度が大きく変化します。
【図3 エポキシ-アミンの反応】
エポキシ樹脂は素地との密着性に優れ、鋼板の防錆性能にも優れるため、重防食用塗料に使われています。
2液型の重防食用下塗り塗料では主剤にエポキシ樹脂、硬化剤にアミン成分が含まれています。
2.焼付硬化型塗料の樹脂反応
(1)ブロックイソシアネートの反応
常温硬化型塗料では反応性の高い2成分を主剤/硬化剤と2液に分けることで、製品中で樹脂反応が進むのを防いでいます。
一方、焼付型塗料では1液型が基本ですが、イソシアネートのような反応性の高い樹脂を同じ液内で他の樹脂と混合してしまうとすぐに反応が進んでしまい、塗料自体が固まってしまいます。
1液でもイソシアネートの配合を可能にしたのがブロックイソシアネートの技術です。
RーNHー(C=O)ーB → RーN=C=O + BーH …脱ブロック化反応
RーN=C=O + RーOH → RーNHー(C=O)ーOHーR …ポリオールとの反応
※B:ブロック剤
ブロックイソシアネートは図のようにイソシアネート基が「ブロック」された構造をとります。
このブロック剤は常温では外れず、150℃などの高温条件下でのみ「脱ブロック化」が進みます。
製品を塗装後、焼き付けることで脱ブロック化が起き、イソシアネートとポリオールの硬化反応が進む仕組みです。
このような反応は自動車の上塗り~下塗り、粉体塗料など様々な塗料で採用されています。
環境負荷低減の観点から、近年ではより低温での焼付でも脱ブロック化できるブロックイソシアネートの開発が進められています。
なお、似たような反応としてエポキシ-ブロックカルボン酸による硬化反応があります。
(2)メラミンによる反応
メラミン樹脂は図のような有機窒素モノマーで、3官能の物質です。
3官能によって樹脂同士を強く結びつける性質があり、価格も低いため塗料成分として重宝されています。薄利多売の塗料業界にとってコストは特に重要です。
メラミン塗料では、ブチル化メラミンやメチロールメラミンなどの誘導体とポリオールが高温で反応し、塗膜が硬化します。
他の焼付型塗料よりもやや低い温度で硬化させることが可能です。なお焼付工程ではメラミン樹脂同士の自己縮合反応も発生します。
【図4 メラミンの構造と反応】
メラミン樹脂の塗膜は耐摩耗性や耐衝撃性などに優れ、一定の耐薬品性を有する一方、紫外線には弱いという特徴があります。
そのためメラミン塗料は屋外用では好まれず、デスクや機械類など屋内用塗料として使われています。
また、アニオン電着塗料にもメラミンが配合されています。
似たような例としてレゾール樹脂を使った反応があります。
レゾール樹脂のOH基が高温でエポキシと反応するほか、レゾール同士の縮合反応が起き、塗膜が硬化します。
(3)エポキシ+硬化剤による反応
エポキシをベースに、アミン(シンジアミド)、カルボン酸化合物、酸無水物などの硬化剤を組み合わせた反応も塗料の硬化機構として採用されています。
エポキシとシンジアミドの反応は160℃以上でしか進まず、エポキシに溶解していなければ半年以上、未硬化の状態を保つことができます。
酸無水物を硬化剤として使用する場合でも高温条件下でしか反応は進まず、硬化促進剤(触媒)を配合しなければ常温で未反応の状態を維持できるため、1液化が可能です。
これらの硬化剤を用いた反応は機械類や鋼製家具に塗装されるエポキシ樹脂粉体塗料などに採用されています。
なお、必ずしも1製品に1種類だけの硬化剤が使われているわけではなく、塗膜性能の調整を目的として複数の硬化剤を組み合わせる場合があります。
以上、常温硬化型塗料と焼付硬化型塗料で使われている代表的な樹脂反応について解説しました。
塗料メーカーは塗膜性能の向上を目指して日々研究開発を進めていますが、コストという制約があるため新製品に真新しい樹脂反応が使われることは稀です。
従来品と同じ反応機構を採用しながらも、樹脂構造を一部変性したり、顔料・添加剤との配合比を変動させたりして製品の性能向上に努めています。
(アイアール技術者教育研究所 G・Y)
≪引用文献、参考文献≫
- 1)図解入門よくわかる最新塗料と塗装の基本と実際,秀和システム(2016)
- 2)早わかり塗料と塗装技術,日本理工出版会(2010)
- 3)色材協会誌,Vol.84,No.2,64-72(2011)
- 4)大日本塗料株式会社 (Webサイト)
https://www.dnt.co.jp/products/structure/list/phthalic-acid/ - 5)ジャパンコンポジット株式会社 (Webサイト)
https://www.j-comp.co.jp/business/upr.html - 6)塗料の研究(関西ペイント株式会社),No.155,53-57(2013)
- 7)スリーボンド・テクニカルニュース,Vol.32(1990)