3分でわかる技術の超キホン クロロフィルとは?その光物性と光化学の基礎を解説

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クロロフィルの基礎知識を解説

新緑の季節は、気持ちがいいものですよね。
ご存じのように、植物の葉のこの緑色は、葉緑体のチラコイドに多く存在するクロロフィル(Chlorophyll)という光感受性色素に由来するもので、別名「葉緑素」(ようりょくそ)とも言われています。
光合成においてとても重要な役割をもつと教科書で教えられているものですが、一体クロロフィルはどういう構造でどのように機能しているのでしょうか?

自然界の光合成はとても複雑です。
ここでは、できるだけシンプルな例で説明させていただきます。

1.クロロフィルとは?

クロロフィルは天然色素の一種で、いくつかの分子構造の異なるものが存在しています。
同じ前駆体を経由するので、お互いによく似ています。
まず、天然界で最もよく見られるクロロフィル-α(Chl-α)を例として説明します。

図1の構造式に示したように、五員環の一か所に窒素原子を含むピロールが4つ繋がるテトラピロール環という環状の構造の中にマグネシウムが入っているのが特徴です。
更に、テトラピロール環に、フィトール (phytol) と呼ばれる長鎖アルコールがエステル結合した基本構造を持ちます。

因みに、このマグネシウムを化学処理で銅に置き換えたものを「銅葉緑素」と呼び、色は暗緑色になりますが、クロロフィルよりも高い安定性を示すようになります。

 

クロロフィルαの分子構造
[図1.クロロフィルαの分子構造]

 

テトラピロール環構造の種類

クロロフィル類の構造に含まれるテトラピロール環には、を書いた部位のピロール環の不飽和状態によって、ポルフィリンクロリンバクテリオクロリンの3種類の構造が存在します。

図2に示したように、両方のピロール環が共に飽和していないものを「ポルフィリン」(Porphyrin)の結合だけが飽和したものを「クロリン」(Chlorin)両方が飽和したものを「バクテリオクロリン」(Bacteriochlorin)と呼びます。

ポルフィリン構造の方は、π共役系が最も広がって「クロロフィル-c(Chl-c)」と呼ばれます。
クロリンとバクテリオクロリンは大きな芳香環ではありますが、ポルフィンとは異なって、環の外周全体でみると芳香族性を持ちません。

 

クロロフィルの主なテトラピロール環構造
[図2.クロロフィルの主なテトラピロール環構造]

 

2.クロロフィルの光物性

クロロフィルは植物に緑色を与えます。その原因は構造中のテトラピロール環に由来します。

テトラピロール環は、可視光領域に450 nm付近の「ソーレー帯」(soret帯)、長波長側650 nm付近の「Q帯」と呼ばれる特徴的な鋭い吸収帯を持ちます。
その間の波長(緑―黄色)は吸収せずに反射しています。その反射した光が私達には緑色として見えていることになります。

光合成バクテリアにおける主な反応中心色素バクテリオクロロフィルa もしくはバクテリオクロロフィルb を例に、クロロフィルの吸収を見てみましょう(図3)。

 

クロロフィルa(青)とクロロフィルb(赤)の吸収スペクトル及びカラーサークルと波長/nm
[図3.クロロフィルa(青)とクロロフィルb(赤)の吸収スペクトル及びカラーサークルと波長/nm]

 

基底状態S0のクロロフィル分子が光を吸収して、励起1重項状態となります。
このS1状態は長波長吸収体のQ帯と関連します。
光励起されたクロロフィル分子の近傍に安定的な(エネルギーはS1より低い)クロロフィル分子が存在すると、エネルギー移動と共に電子移動が起こります。
また、光合成器官では、クロロフィル分子同士やクロロフィルとカロテノイド分子が近接して存在し、基底状態でも電子的に大きな相互作用をしています。
植物の光合成は単独分子ではなく、集合体(超分子)として考える必要があります。
 

3.クロロフィルの光化学

光合成には大きく2つの反応段階があります。
1つは「明反応」と呼ばれ、光のエネルギーを利用して水が酸素に酸化されるとともに、二酸化炭素の還元に必要なNADPH2+とATPを作り出します。

もう1つの段階は「暗反応」と呼ばれ、NADPH2+とATPを利用して二酸化炭素から種々の糖が作られます。

ここで明反応の光化学を見てみましょう。

光合成反応の明反応段階の光化学系には、光を捕集するアンテナ部と励起エネルギーで電荷分離状態を形成する反応部がありますが、クロロフィルが様々な集積体を作ることにより、重要な役割を果たしています。

 

(1)光合成アンテナ(エネルギー移動)

光化学系では、反応中心部自身が光を吸収して光誘起電子移動を行うことも可能ですが、太陽光のエネルギー密度が低く、電荷分離状態を効率よく形成させるために、反応中心部の周りに光を収集するアンテナ部が配置されています。
一般的にアンテナ部は、主に多数の光を吸収する色素分子により形成されます。
クロロフィルの場合、基底状態のクロロフィル分子が光を吸収して、励起1重項状態になります。
この励起1重項エネルギーを近傍の分子に移動させることができます。

 

(2)光合成反応中心(電子移動)

酸素発生型の光合成では二つの光化学系PS1PS2が連携して機能します。

PS2において、クロロフィルαは一連の電子伝達鎖を電子が伝っていくことで、最終的にカチオンラジカル種を生じて、電荷分離状態となります。
PS2反応中心におけるクロロフィルカチオンラジカル種は大きな酸化能力を有して、水分子を酸素分子への酸化が可能となります。

PS2で発生した励起電子は電子伝達系に受け渡されて、PS1へと移動します。

PS1のクロロフィルαは光を吸収して励起電子を放出して、この電子はNADPHの生成に利用されます。
放出した電子はPS2から移動してきた電子によって補充されます。

全過程は以下の通りです。
      
 H2O + NADP+ → NADPH2+ + O2
      
 ADP + Pi → ATP

ちなみに、光暗反応はNADPH2+とATPを利用して二酸化炭素から種々の糖を作ります。
その反応式は、次のようになります。

 CO2 + ATP + NADPH2+→ GAP + ADP + Pi + NADP+
                 
併せて、光反応の反応式は、次のようになります。

 6H2O + 6CO2 =(hv) 6O2 + C6H12O

 
ということで今回は、光合成のキーとなる「クロロフィル」について解説しました。
 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)

 

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