【中国特許分析】3Dプリンター(AM技術)の特許出願状況と出願人ランキングTOP10

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3Dプリンタの特許分析

「3Dプリンター」という言葉も近年だんだんと馴染み、人々の生活や仕事に浸透しています。
コロナ禍においても、3Dプリンティングした検査用綿棒や呼吸弁などの情報を目にしました。

1990年代に誕生して以降、SLA(光造形)や、DLP(デジタルライトプロセッシング)、FDM(熱溶解積層)、3SP(スキャン、スピン、選択的フォトキュア)、CLIP(連続液界面製造)など、技術の進化に伴い様々な呼び方が登場しましたが、2012年にASTMインターナショナルがF2792-12aにおいて「付加製造」(Additive Manufacturing、略称「AM」)という呼び方を標準技術用語として発表しました。2015年にはISOと連携してこの基準をさらに改定し、この分野において初のISO/ASTM共同規格を発表し、技術用語や定義を標準化しました。
よって、正確な呼び方は「3Dプリンター」ではなく、「付加製造技術」(AM技術)と言います。

1.3Dプリンター分野の中国特許の状況

3Dプリンター分野において、中国特許の状況はどうなっているのでしょうか?
今回、中国特許データベースのincoPatで簡易的に調べてみました。(一部はorbitの検索結果になります)

最近10年間の3Dプリンターに関する世界的な特許の公開件数推移を見ると、2012年までは特許公開件数は各国/機関別で年間僅か数十件でした。
2014~2015年頃から特許公開件数が急増し始め、2018年以後は、中国特許だけでも年間1万件以上の特許出願が公開されています(図1を参照)。

2020年までの3Dプリンターに関する公開特許総量から見ると、一番多いのは中国特許で、次いで、米国、PCT、日本、欧州特許庁、韓国が上位となっています。

最近10年間3Dプリンターに関する公開した特許公報の件数推移
【図1.最近10年間の3Dプリンターに関する公開した特許公報の件数推移】

 

3Dプリンターの特許件数は、中国特許・実用新案ともに年々増えています。

最近10年3Dプリンターに関する中国特許・実用新案の公開件数推移
【図2.最近10年の3Dプリンターに関する中国特許・実用新案の公開件数推移】

 

2.3Dプリンター分野での中国特許のIPC付与状況

中国特許の公開状況を詳細に知るために、まず、IPCの付与状況をみてみましょう。
中国特許出願の技術内容を特許分類(IPC分類)からみて、よく使われている分類を上位10個抜粋しました。

IPC分類では、付加製造の分類B33と、プラスチックによる付加製造の分類B29C64シリーズが、3D印刷技術に対応している主な分類です。
より詳細には、付加製造の工程(B33Y10)、装置(B33Y30)、予備作業の機器(B33Y40)から、付加製造用材料(B33Y70)、製造された製品(B33Y80)、データ処理(B33Y50)まで、様々な下位分類で出願されています(図3を参照)。

3Dプリンター分野の中国特許出願公開年度ごとのIPC分類付与件数
【図3.3Dプリンター分野の中国特許出願公開年度ごとのIPC分類付与件数】

 

材料的にはプラスチック等の可塑性材料(B29C64)がメインに使われていますが、金属(B22F)、粘土(B28B)、石灰(C04B)等も使われています。
用途的には、一般産業用以外に、医学(A61)用のパーツや人体に埋め込む部品の製造などに関しても特許出願されています(図3を参照)。
一方、伝統的な印刷機・複写機・プリンター用の分類B41JやB41Fは付与された公報が割と少なく、上位10個IPCのランクに入っていませんでした。

3Dプリンター分野の中国特許出願公開年度ごとのIPC分類付与件数
【図4.3Dプリンター分野の中国特許出願公開年度ごとのIPC分類付与件数】

 

IPC分類 定義
B33Y  付加製造,すなわち付加堆積,付加凝集または付加積層による3次元[3D]物質の製造,例.3D印刷による,ステレオリソグラフィーによるまたは選択的レーザー焼結による[2015.01]
B33Y10/00  付加製造の工程[2015.01]
B33Y30/00 付加製造の装置;それらの詳細またはそれらのための付属品[2015.01]
B33Y40/00 予備作業または機器,例.材料取扱のため[2020.01]
B33Y50/00 付加製造のためのデータ取得またはデータ処理[2015.01]
B33Y70/00 付加製造に特別に適合した材料[2020.01]
B33Y80/00 付加製造により製造された製品[2015.01]
B29C プラスチックの成形または接合;他に分類されない可塑状態の材料の成形;成形品の後処理,
B29C64/00 付加製造,すなわち付加堆積,付加凝集または付加積層による3次元[3D]物体の製造,例.3D印刷による,ステレオリソグラフィーによるまたは選択的レーザー焼結による[2017.01]
B29C67/00 グループB29C39/00~B29C65/00,B29C70/00またはB29C73/00に包含されない成形技術[2017.01]
B22F 金属質粉の加工;金属質粉からの物品の製造;金属質粉の製造(粉末治金による合金の製造C22C);金属質粉に特に適する装置または機械
B22F3/00 成形または焼結方法に特徴がある金属質粉からの工作物または物品の製造;特にそのために適した装置
B28B 粘土または他のセラミック組成物,スラグまたはセメント含有混合物
B28B1/00 材料からの成形品の製造
C08L 高分子化合物の組成物
C08K 無機または非高分子有機物質の添加剤としての使用(ペイント,インキ,ワニス,染料,艶出剤,接着剤C09)
C04B 石灰;マグネシア;スラグ;セメント;その組成物
A61F 血管へ埋め込み可能なフィルター;補綴;人体の管状構造を開存させるまたは虚脱を防ぐ装置
A61L 材料またはものを殺菌するための方法または装置一般;空気の消毒,殺菌または脱臭;包帯,被覆用品,吸収性パッド,または手術用物品の化学的事項;包帯,被覆用品,吸収性パッド,または手術用物品のための材料
A61B  診断;手術;個人識別

【表1 IPC分類説明】

 

3.3Dプリンター分野での中国特許の主な出願人

中国特許の出願人のうち、まず中国籍の出願人が89%占めています。
外国籍出願人では、アメリカ籍の出願人が一番多くて4.8%であり、次いで、ドイツ籍の出願人が2.0%、日本籍の出願人1.2%、フランス籍の出願人が0.5%、オランダ籍の出願人が0.4%、イギリス籍の出願人が0.4%、韓国籍の出願人が0.3%となっています。
中国特許ですから、中国籍出願人が多いのは当然ですが、全体の9割近く占めており、これは他の分野と比べても高い割合でした。

3Dプリンターに関する中国特許出願人の国別割合
【図5.3Dプリンターに関する中国特許出願人の国別割合】

 

4.中国現地出願人分析

3Dプリンター分野の中国特許の出願人は大学が多くなっています(表2を参照)。
具体的には、西安交通大学華南理工大学華中科技大学浙江大学吉林大学清華大学が上位に入っています。大学出願人が多いということは、まだ、この分野では理論段階の基礎研究が多く、未解決の課題が沢山あるということの表れかもしれません。

企業出願人は米国のヒューレット・パッカード(HP)ゼネラル・エレクトリック(GE)、台湾のXYZプリンティング/金宝電子工業股份有限公司と、広東省珠海市の珠海天威飛馬印刷消耗品有限公司が上位に入っています。

出願人 公開
件数
 国/
地域別
有効 審査中 無効 特許
生存率
1位 HEWLETT PACKARD DEVELOPMENT CO.
(HP)
719 米国 222 484 13 98%
2位 西安交通大学 530 中国 275 189 66 88%
3位 華南理工大学 454 中国 208 160 86 81%
4位 華中科技大学 447 中国 248 158 41 91%
5位 ゼネラル・エレクトリック(GE) 391 米国 60 315 16 96%
6位 浙江大学 369 中国 215 124 30 92%
7位 吉林大学 274 中国 104 110 60 78%
8位 清華大学 263 中国 140 98 25 90%
9位 XYZプリンティング、
金宝電子工業股份有限公司(Kinpo Electronics, Inc.)
254 台湾 141 91 22 9%
10位 珠海天威飛馬印刷消耗品有限公司 249 中国 147 49 53 79%

【表2. 3Dプリンターに関する中国特許出願人ランキング】

 

(1)企業の上位出願人

かつて、この分野の出願人は、3Dシステムズ(3D SYSTEMS)、ストラタシス(STRATASYS)が上位でした。
(日本特許庁が2014年3月にリリースした「3Dプリンター」特許出願技術動向調査報告書と、本レポートの検索式で同じ2001-2011年の期間限定して検索した結果に基づきます。)

しかし、現在は米国のヒューレット・パッカード(HP)とゼネラル・エレクトリック(GE)がトップになっています。10年前はまだ研究開発の部分がメインでしたが、最近では実用化や他分野への利用の段階に来ており、大手メーカーが本腰を入れてきているのが原因かもしれません。
そもそも、2001年~2011年での出願量と比較し、2012年以降は15倍くらいに増えましたので、業界・市場自体が急激に拡大したことが推察されます。

そして、第9位の金宝電子工業股份有限公司(Kinpo Electronics, Inc.)とXYZプリンティング(XYZprinting Inc.)は、共に台湾の金仁宝グループに属する企業です。
個人用、学校教育現場用、宝飾業界用3Dプリンターから産業用のプロ向け3Dプリンターまで幅広いシリーズを製造販売しています。設備だけではなく、材料とソフトウェアを含む3D印刷ソりューションを提供しています。

第10位の珠海天威飛馬印刷消耗品有限公司(http://www.printrite.com.cn/、略称:天威)は、1981年に香港発で珠海市に工場が設立されているプリンター消耗材の民営企業です。
17年連続でISO/IECJTC2 SC28規格シリーズのうち約319件規格の策定に関わり、11年連続で中国政府機関の調達に入札しているようです。プリンター及び消耗材に関する特許を世界範囲で3000件以上出願しており、業界総出願量の7割を占めていると言われています。
3Dプリンター分野については、2014年から事業を始め、現時点で3Dプリンターに関する出願は249件公開されていて、147件がすでに特許登録されました。
ColiDoシリーズの光硬化型3Dプリンター、二色3Dプリンター、シングルノズル3Dプリンター、金属3Dプリンターなど、産業用のものからコンパクト型DIY用3Dプリンターまで販売しています。
 

(2)大学の上位出願人

大学出願人のうち、西安交通大学、華中科技大学、清華大学は、中国で最初にFDM、SLAやSLS等3Dプリンター技術分野に研究を始めた大学です。

西安交通大学は、世界で初めて3D印刷のチタン合金下顎骨、ポリエーテルエーテルケトン胸骨、分解可能な乳房充填物を臨床応用しました。
また、同大学が開発した「連続繊維強化複合材料の宇宙3D印刷装置」は、2020年の中国長征5号Bキャリアロケットに搭載され、宇宙での3D印刷試験を行いました。

華中科技大学は、従来の3Dプリントした金属製品の強度、靭性、寿命不足などの課題を解決し、これまでは模型や展示品用途でしか使えなかったという技術的な限界を突破し、3Dプリンターでの金属鋳造と鍛造技術を統合化して、飛行機部品の製造などのハイエンドで実際的な産業応用を実現しました。

清華大学は、2014年に世界で初めて、3Dプリント方式によって三次元腫瘍モデルを構築したことが知られています。

華南理工大学は、金属の3Dプリントを重点的に研究しているようです。
華南理工大学の開発した3Dプリンティングリンガルブラケットの製造方法は、ドイツと米国の特許も取得し、中国、米国、欧州、ロシアからライセンスを得て、多大な経済的利益を生み出しているようです。

浙江大学は、バイオ3Dプリンター、金属成形、精密制御を重点的に研究しています。

吉林大学は、自動車製造分野に着目して、車の新機能材料、3Dプリンター成形技術及び加工プロセスを研究しています。
 

5.3Dプリンター分野での技術効果/課題

3Dプリンターに関する中国特許出願に関しては、どのような技術効果や課題に集中しているのでしょうか?
incoPatによる機械的データベースから抽出したキーワードに基づく統計結果を図6に示しました。

図6からは、複雑性・コストの低減、効率・利便性・速度・安定性・精度・均一性・安全性・強度・制御性の向上などが効果/課題として挙げられていることが分かります。

技術効果ごと公開公報件数
【図6.技術効果ごと公開公報件数】

 

今回の調査は、中国における大まかな特許出願状況を俯瞰することを目的としているため、粗めのキーワードとIPC検索を中心とした簡易的な検索による分析結果に過ぎません。
より精度の高い特許情報を確認するには、対象分類と中国語キーワード(技術用語の網羅とシソーラス[類義語]の確認)をしっかりと選定したうえでの、本格的な検索が必要となります。
 

具体的な技術テーマについて中国特許の分析をしてみたい方は、お気軽に日本アイアールの特許調査部までお問い合わせ下さい。
 

6.参考:簡易的な検索式

1. TIABC=(3D打印 OR 3D印刷 OR 三维打印 OR 三维印刷 OR 立体印刷 OR 立体打印 OR 增材制造 or 增材打印 OR 增量制造 or 增量打印 or 积层制造 or 积层打印 OR “3D print*” OR “THREE DIMENSIONAL PRINT*” OR “STEREOSCOPIC PRINT*” OR “stereo print*” or “Stereographic print*” OR ”Additive Manufactur*”) && 103,326
2. IPC=(B33Y or B29C64/) && 94,272
3. IPC=(B29C67/ or B41J or B41F) && 1,512,768
4. FULL=(3D打印 OR 3D成型 OR 3D印刷 OR 三维成型 OR 三维打印 OR 三维印刷 OR 立体印刷 OR 立体打印 OR 立体成型 OR 增材制造 or 增材打印 OR 增量制造 or 增量打印 or 积层制造 or 积层打印 OR “3D print*” OR “3D shap*” OR “3D mold*” OR “THREE DIMENSIONAL PRINT*” OR “three dimensional mold*” OR “three-dimensional shap*” OR “STEREOSCOPIC PRINT*” OR “stereo print*” or “Stereographic print*” OR ”Additive Manufactur*”) 248,458
5. #2 AND #4 && 69,308
6. #3 and #4 28,170
7. #1 or #5 or #6 131,167

 
(日本アイアール株式会社 特許調査部 X・W)


中国の技術情報調査、特許調査・分析サービスのページはこちら(日本アイアール・メインサイトへ)


 

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