原因究明の際は、原因を絞り過ぎるべからず(技術者べからず集)
ハードディスクの開発時に生じたトラブルから考える
今回は筆者がハードディスクドライブ(HDD)の設計・開発を担当していた際に生じたトラブルから学んだ「べからず」をご紹介します。
ハードディスク装置は、高速回転する円板に磁気ヘッドを浮上・移動させ、表面に磁性膜が形成された円板に磁気ヘッドが情報を記録・再生する記憶装置です。
1980年前半以降、装置起動停止時の磁気ヘッドの動作は、装置停止中は回転停止した円板上に静止し、装置起動時は円板回転数の上昇にともない離陸し、装置停止時は円板回転数の下降にともない着陸する方式が採用されています。「コンタクトスタート・ストップ方式」と呼ばれています。
円板回転不可が発生
あるとき、一部の装置で「円板回転不可」の問題が発生しました。
装置停止中に円板上に静止した磁気ヘッドと円板の間に働く引力が、モータの起動力より大きくなったのです。
原因は停止中の円板表面とヘッド表面の間に液体が介在して発生するメニスカス力によると推断されました。メニスカス力は、介在する液体の量が多いほど、また静止した磁気ヘッドと円板の間隔が小さいほど大きくなることが知られています。
原因分析と対策
そこで、介在する液体の観点で
- 円板表面の潤滑剤(量、成分)
- 装置内の水分(密閉度、吸湿材)
- 円板の表面形状(表面粗さ)
- 磁気ヘッドの表面形状(表面粗さ、クラウン)
磁気ヘッドと円板の表面の間隔の観点で
について調査し、対策としてそれぞれの特性分布値のバラツキ精度向上を実施しました。
さらにバックアップとして、「円板回転不可」の兆候を検知した場合は磁気ヘッドを取付けた装置アームを加振させる装置動作を加えました。
対策後「円板回転不可」問題は収束しました。
後日、判明したことは・・・?
その後、磁気ヘッドを装置アームに取付けるカシメ作業工程で、液体を使用していることが判りました。
カシメ作業に使用する鋼球の滑りをスムーズにする目的で、円板用に使用していた潤滑剤と同じ潤滑剤を鋼球に付着させていたのです。さらに、使用時期は「円板回転不可」発生装置の製造時期とほぼ一致していました。その他の時期は別な溶剤だったのです。
つまり、過去の経験・知識から介在した液体は円板の潤滑剤もしくは水分と見做して調査・対策したのですが、
- 組立工程で使用する副資材(液体、潤滑剤)
を液体の使用部位に加えなければなりませんでした。
組立工程の潤滑剤が原因で有ったかは不明確です。磁気ヘッド取付け部から静止した円板と磁気ヘッドの間への潤滑剤の移動を確かめたわけではありません。
しかし、不具合は多数の要因が重なって発生することもあります。
原因究明する際には原因を絞り過ぎることは避け、広い視野を持って探索することが必要です。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 Y・O)
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