【基礎からわかるバイオ医薬品】バイオ医薬品の種類と特徴
1982年に世界で初めて糖尿病の治療薬としてヒトインスリンが開発されて以来、様々なバイオ医薬品の研究開発が進められ、2020年以降は特にCOVID-19の拡大に伴う治療薬・ワクチン開発競争が激化しています。
1.バイオ医薬品とは?
化学合成された低分子医薬品に対して、遺伝子組換え技術や細胞培養技術を用いて製造されたタンパク質を有効成分とする医薬品を「バイオ医薬品」と呼び、従来の低分子医薬品と比較して標的分子への特異性が高く、オフターゲット作用(標的以外へ作用する非選択的な効果)が低いと期待されています。
今回は、組換えタンパク質医薬品だけでなく、核酸・細胞療法を用いた広義でのバイオ医薬品について、種類とその概要を解説します。
2.バイオ医薬品の種類・分類
(1)タンパク質医薬品
① 補充療法
生体内に微量しか存在しないサイトカイン・ホルモン・酵素などを補充する目的で、遺伝子組換え技術を用いて微生物や動物細胞で大量に生産・精製したものです。
第1世代のバイオ医薬品としてインシュリンやインターフェロンなどがあります。
② ワクチン
細菌やウイルスなど病原体の抗原を体内に接種することで、予め抗原に対する免疫を獲得する方法です。
その中でも、遺伝子組換え技術を用いて抗原を微生物・動物細胞で生産させるものを「組換えワクチン」と呼びます。
[※関連コラム:「核酸ワクチンが基礎からわかる!」はこちら]
③ 抗体
標的に特異的に結合する事で疾患に関連する機能を阻害する”モノクローナル抗体”を人工的に作製する抗体医薬品は、第2世代のバイオ医薬品として開発されています。
日本で承認されているだけでも、2020年時点で60品目を超え、バイオ医薬品として一番多い領域です。
(2)核酸医薬品
核酸が十~数十塩基連結したタンパク質をコードしないオリゴ核酸で、特定の塩基配列やタンパク質配列を認識し、遺伝子発現の抑制やタンパク質機能を阻害します。
mRNAを標的とするアンチセンスオリゴ・siRNAや、タンパク質を標的とするアプタマー・デコイなどがあり、培養を介さず化学合成で製造が可能です。
(3)遺伝子治療・細胞治療
疾患の治療を目的として遺伝子もしくは遺伝子導入した細胞を体内に導入する方法です。
遺伝子治療としてはアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルスなどウイルスベクターやプラスミドを用いて目的遺伝子を導入することで、目的タンパク質を発現させる治療薬です。
遺伝子導入した細胞治療薬としては、難治性の癌に対してキメラ抗原受容体(Chimeric antigen receptor:CAR)をT細胞に発現させたCAR-T細胞治療薬が、日本ではノバルティスファーマ社をはじめとして3例承認されています。
(4)再生医療
再生医療分野では、組織の欠損や機能障害に対して幹細胞などを用いて組織の再生や機能の回復を目的とした細胞治療法です。
患者自身の細胞や組織だけでなく他者の細胞や組織を培養・加工して治療に用います。患者自身の細胞を用いる自家移植では細胞処理に時間がかかり費用が高額となってしまうため、量産化やコスト面で医薬品としての汎用性を持たせるためには、健康なドナーから採取した細胞を患者に投与する他家移植の研究が必要となります。
特に、京都大学・山中教授により開発された、体細胞由来のiPS細胞(induced pluripotent stem cell:人工多能性幹細胞)は様々な細胞へと分化できる多能性と増殖能を持ち、iPS細胞から分化させた細胞の移植研究・臨床研究が進んでいます。
以上、バイオ医薬品の種類について簡単に紹介しました。
次回は、バイオ医薬品のうち「抗体医薬品」の基礎知識を解説します。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・Y)