アリとフェイルセーフ
働きアリに働かないアリがいるというのは有名な話ですが、マネージメント論からではなく、フェイルセイフあるいはフォールトトレランス、すなわち冗長性設計の観点から考えて見たいと思います。
働かない働きアリのお話
ある生物学者が、働きアリについて実験をしました。
砂糖のある島に橋渡しをして、番号を付けられた10匹のアリが橋を渡って砂糖を持ち帰るという仕事をする様子を観察しました。観察結果によれば、働きアリにも関わらず、2匹は仕事をしていません。同様に他の10匹の集団を作って観察すると、やはり何匹かは仕事をしません。
次に、働かなかったアリだけを10匹集めて実験すると、数匹以外は仕事をします。一方、働いていたアリだけを10匹集めると、数匹が仕事をしません。
これをマネージメントの話に転化する時は、‘一見何もしない、できないと思われている人間でも、それなりのグループ的環境を与えると、しっかりと働く’ とか ‘立場が人を作る’ あるいは、‘できないと決めつけずに、試しに任せてみましょう、結果に驚きます ‘ などのように適用します。
フェイルセーフとしてのお話
話を変えて、マネージメントではなく、システムとしての話をします。
アリの一つの集団を一つのシステムと考え、フェイルセーフ(fail safe, 故障時は、システムを安全サイドに制御する)あるいはフォールトトレランス(Fault tolerance, 故障時にも多重化により機能維持を図る)の観点から考えてみましょう。
もし10匹全員で、10匹全員でしかできない仕事をしていたとすると、メンバーに何かあった場合には、巣に餌が運べなくなりその集団にとっては死活問題となる場合もあります。従って、2匹は、怠けていたわけではなく、8匹でできる仕事をして、2匹が働けなくなったら出動するというシステムと言えます。全員でしか運べないミミズは巣に運ばず、巣への経路や天敵などのリスクが多い場合は、働かないアリの数を増やさなければなりません。
多様性のお話
システムの冗長性(redundancy)やロバスト性(robust, 頑健性)を高めるうえで、重要なことは、多様性です。
システムには、熱、振動、電磁ノイズなど様々な外乱負荷が加わりますが、たとえ多重化がされていても同一の負荷で同時に故障するならば多重化の効果は低いと言えます。
偵察アリからの得物と経路の情報に基づき、3匹で運べるミミズを10匹で運びに行きます。途中あった橋が崩れ何匹かは溺れ死にますが、力はありませんが泳ぎが得意なアリと崩れた橋にしがみつく能力の高いアリは生き残ります。その後、天敵に襲われ、又何匹かが死にますが、足は遅いですが天敵に気が付き逃げるのが得意なアリが生き残ります。その後も、いろいろな災害があって最終的には3匹以上が生き残り、ミミズは無事、巣まで運ぶことができます。力があるだけの10匹では、生き残りが3匹未満となってしまい得物は巣まで運べません。
人型ロボットやAIを研究していくと人間がいかに良くできたシステムであるかが分かります。逆に人間や自然のしくみをよく考察していくと、安全性の高いシステムを設計するヒントが得られます。
(アイアール技術者教育研究所 H・N)
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