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今や各家庭でも設置されていることが多い「空気清浄機」は、19世紀にイギリスで使用されたのが始まりのようです。日本では、1962年ごろ松下電器産業(現在のパナソニック)により販売が開始されたことで注目を集めました。当時、大気汚染による公害が社会問題化し、空気清浄機に対する消費者のニーズが高まったものと思われます。1980年ごろからは花粉症対策、2000年ごろからは細菌やウイルスなどの対策用として各家庭への普及が進み、内閣府の消費動向調査によると2022年3月にその普及率は45.7%にもなっています。
このように身近となった空気清浄機とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?
今回は、空気清浄機の仕組みや方式について簡単に解説します。
目次
空気清浄機は、空気中に浮遊する塵埃や花粉、ハウスダストなどを除去するための機器です。
図1は、一般に家庭用として販売されている空気清浄機のうち、ファン方式の構成を概念的に示したものです。
この方式の空気清浄機には、ファンやフィルターなどが設けられています。
ファンは、周囲から本体内に空気を吸い込んで、吐き出させることにより部屋内の空気を循環させます。
フィルターは、ファンによって作られた空気の流れから塵埃や花粉、ハウスダストなどを回収します。
また、空気清浄機には、フィルターによる集塵機能のみならず、例えば、脱臭機能や加湿機能、除湿機能などの付加的な機能を備えるものが主流となっています。
【図1 ファン方式の構成】
一般に販売されている空気清浄機の方式として、「ファン方式」「電気集塵方式」および「イオン発生方式」があります。各方式について見ていきましょう。
「ファン方式」では、本体内に設けたファンを駆動することにより、周囲から本体内に空気を吸い込みます。そして、本体側に設けたフィルターによって空気中に浮遊する塵埃や花粉、ハウスダストなどを除去し、周囲へと排出します。このように、空気を循環させることで、空気中の塵埃などを除去しています。
ファン方式の空気清浄機には、シロッコファンが使用されることが多いようです。
シロッコファンは「多翼送風機」とも呼ばれています。
縦長の細長い板状の羽根を周方向に取り付けて円筒状としたもので、周方向に回転することにより、中央部に空気を吸い込んで外周方向に送風します。
空気清浄機のフィルターには、本体の表面に設けられ、大きなほこりや塵などを集める「プレフィルター」、本体内に設けられ、小さくて細かいほこりや塵などを集める「集塵フィルター」、空気中の臭い成分を吸着するための「脱臭フィルター」などがあります。
「プレフィルター」は、網戸のようなネット状のフィルターです。
本体内に吸い込む前に、空気中に含まれる比較的大きいほこりなどを除去します。
プレフィルターには集塵フィルターの負担を軽減する役割があります。
「集塵フィルター」は、微粒子を除去するフィルターで、ファン方式の心臓部と言えるものです。
集塵フィルターには、主にHEPAフィルターが使用されています。HEPAフィルターは、JIS Z 8122によって、「定格風量で粒径が0.3µmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率をもち、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルタ」と規定されています。
HEPAフィルターは、クリーンルームにも使用されるもので、ダニのフンや花粉、PM2.5のみならず、ウイルスなどの非常に微細な粒子であっても除去できる優れものです。
また、HEPAフィルターの粒子捕集効率をさらに上げたULPAフィルターというものもありますが、集塵能力が高くなれば高くなるほど、目が細かくなり、空気抵抗が大きくなるというトレードオフの関係があります。
「脱臭フィルター」は、臭い成分を吸着するフィルターです。
一般に、脱臭フィルターには活性炭が使用されています。活性炭の超微細な穴に、ペットやタバコなどの臭いの元となる粒子を吸着します。
なお、脱臭フィルターの代わりとなるものとして、光触媒によって酸化反応を促進させて臭い成分を酸化分解するものや、プラズマ放電によって臭い成分を分解するものなどもあります。
ファン方式は、シャープ、パナソニック、ダイキン、ダイソン、アイリスオーヤマなどの主だった会社が製造し、市販されている一般的な空気清浄機に採用されています。
ただし、いずれの会社であっても、他の方式、すなわち電気集塵方式やイオン方式も採用したり、さらには除湿、加湿などの他の機能を付加しています。
やはり、ファン方式のメリットは集塵能力の高さでしょう。集塵フィルターにHEPAフィルターを使用したものでは、花粉のみならず、PM2.5やウイルスまで除去できるのは魅力です。
「電気集塵方式」では、高圧放電によって空気中に浮遊するほこりや塵をプラス極に帯電させ、マイナス極に帯電させたフィルターで集塵します。つまり、静電気を起こしてほこりなどを吸着するのがこの方式です。
電気集塵方式の空気清浄機本体内には、図2のように放電極と、集塵極であるフィルターが設けられています。
【図2 電気集塵方式】
両極間に直流高圧電流を流し、放電極にプラスの電荷を、集塵極にマイナスの電荷をそれぞれ付加します。これにより、放電極を通過するほこりなどの微粒子にプラスイオンが結合します。イオンが結合した微粒子は、静電引力によって集塵極であるフィルターに引き寄せられ、付着・堆積します。
ファン式で採用される集塵フィルターのように目が細かくはないので、目詰まりしにくいうえ、原理的には洗浄して何度も使用することができます。
過去には各社で電気集塵方式を採用した空気清浄機がありましたが、現在ではダイキン製などの一部となっています。ただし、この方式は「排ガス」「粉塵」などが多く排出される大規模な工場などでも採用されます。
「イオン発生方式」では、イオンを発生させて空気中に放出し、空気中に浮遊するウイルスやアレルギー物質、静電気の作用を抑えます。
この方式には、発生させたイオンを本体から放出する「イオン放出型」と、放出させない「イオン内部利用型」とがありますが、いずれの方式であっても基本的な原理は同じです。
イオン発生方式では、放電電極に電圧をかけて放電させることにより、酸化作用のある活性種(OHラジカル、次亜塩素酸など)を生成します。そして、生成した活性種を放出することにより、空気中に含まれるウイルスの抑制、除菌、脱臭などを行います。
活性種は、ウイルスや細菌の表面に付着してタンパク質を変性させ、その感染力を失わせるほか、臭いの原因物質である微粒子を酸化・分解して消臭します。
現在では、イオン方式のみを採用した製品はほとんどなくなり、ファン方式と組み合わせたものが主流となっています。
空気清浄機では、以上紹介した方式の他に独自の方式を採用した製品もあります。
シャープ株式会社の「プラズマクラスター」技術を採用した空気清浄機や、パナソニック株式会社の「ナノイー」技術を利用した空気清浄機が代表的な例として挙げられます。
近年では、空気清浄機単体のみならず、空気清浄機能付きの家電製品なども販売されていることからも、今後さらなる方式が開発されたりすることも予想できます。
(アイアール技術者教育研究所 T・N)