3分でわかる技術の超キホン 接着剤のトレンドと課題

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接着剤のトレンド、課題

次世代の接着剤《求められる接着剤とは?》

1.いま、構造接着が注目されている!?

構造用接着剤とは、「長時間大きな荷重がかかっても接着特性の低下が少なく、信頼性の高い接着剤である」と接着用語(JIS K6800)で定義されています。

軽量化や材料の多様化により、これまでの溶接から接着剤への置き換えや併用が進んでいます。
注目すべきは自動車業界です。自動車業界はクルマの車体に「構造接着」技術を使い始めています。
高い強度や耐久性を必要とするボディーの部材(構造材)を、接着剤(構造用接着剤)で接合する手法です。

構造接着技術が注目を集める理由は3つあります。

  • 軽量化に有利
  • 異種材料の接着が可能
  • コスト削減に有利

接着剤は、ボルトやリベットなどの締結要素を使わないため、締結部を圧倒的に軽くできます。
加えて、溶接では難しい異なる金属同士や金属と樹脂の接合なども比較的簡単です。
更には、接着剤は典型的な機能性材料であり、原材料自体はそれほど高価ではありません。基本的に量産効果を引き出しやすく、使えば使うほど安価になり得ます。

構造用接着剤が、日本で工業用として本格的に応用されたのは、1960 年頃より使用された自動車のブレーキライニング用です。当時、ブレーキシューとライニングは、リベットで接合していましたが、現在では乗用車のすべてのブレーキライニングは、接着剤にて接着接合されています。
海外では、1930年代より航空機への応用が検討され、第二次大戦では英国や米国をはじめとして多くの国々が航空機へ利用しています。

今日では、構造用接着剤は、自動車、車両、エレクトロニクス、建築、土木および宇宙産業分野に利用され、先端技術をリードする複合材の 接合材として用途開発が検討されています。

また、エンジニアリング接着剤も構造用接着剤に分類されています。
「エンジニアリング接着剤」とはスペシャリティ接着剤で、高性能な構造強度を発揮する常温硬化で無溶剤液状反応型接着剤であり、エポキシ変性アクリル嫌気性シアノアクリレートウレタンおよびシリコーンの六種類です。
 

2.構造用接着剤とエンジニアリング接着剤の応用

(1)構造用接着剤の応用

航空機用構造部材の接着の他、ディスクパット、クラッチフェーシング等の自動車部品に用いられています。
 

① ハニカムサンドイッチ構造体の構造接着

ハニカムコアは、アルミ箔や紙、プラスチックなどを接着剤で接着成型した六角柱が多数集まって、蜂の巣状をした構造をしているため、非常に軽く通常はその表面にアルミ板やFRPなどの表面材を接着剤で接着接合したサンドイッチ構造をしています。
接着剤のトレンド、課題
重量のわりに非常に強い強度と剛性があり、熱交換作用、断熱作用、衝撃吸収作用を持っているので航空機、車両、建材などの軽量構造部材として広く利用されています。
 

② 自動車用構造接着

自動車産業ではブレーキライニングやヘッドライトなどの部品の接着に利用されているほか、自動車組立生産ラインではスポット溶接に代わって、塗装工程の炉の熱源を利用して硬化する一液性エポキシ系接着剤が用いられています。

また、フロント、リヤ、サイドウインド等の接着にダイレクトグレージング用接着剤が用いられています。
 

(2)エンジニアリング接着剤の応用

用途は、自動車、家電、電子機器、事務機器、医療機器、建材、家具、車両、光学機器、ガラス・セラミックス関連産業などの接着、シールにまたがっています。

  • 自動車用DCモーター:ワイパー、ファンモーターなどのハウジングとマグネットの接着、アマチュア-コイルの固定
  • 小型精密モーター:ビデオやフロッピー用モーターの基板 とコイルの接着、マグネットやプラマグとヨークの接着
  • 電子・電気部品:リレーや端子の固定、圧電ブザーの接着、液晶ディスプレイの接着、シール
  • 音響部品:スピーカーマグネットの接着、ボイスコイルの 接着、リード線の固定
  • 光学機器:レンズやプリズムの接着
  • 医療機器:注射針の接着

 

3.構造接着技術で大幅に遅れる日本?

日本における接着技術は,接着のシーズ側である材料開発などのケミカル面を中心に発展してきました。

しかし、接合構造体としての性能,信頼性,品質を確保するためには,力学面での研究も重要です。
残念ながら、汎用的に使える技術としての構造接着は、欧米と比べると遅れています。
日本で構造接着技術が汎用化できなかったのは,構造接着の牽引役である航空機産業が戦後伸びなかったためと考えられています。 

大学での教育,研究・ 開発も欧米に比べると稀少で,人材育成ができなかったためでといえましょう。
構造接着技術の向上のためには、関連業界全体で取り組んでいく必要があります。

 
これからの時代の接着剤には、信頼性向上、軽量化への貢献、新材料への対応など、様々なことが求められます。ここでは、接着剤への期待と、接着剤が克服すべき課題を確認していきましょう。
 

4.接着剤の課題

(1)新材料への対応

様々なメーカーや研究機関で、新材料の研究開発が進んでいます。接着剤を「くっつきやすく」「はがれにくい」ものにするためには被着材との関係が重要ですが、新材料の各々の特性に対応できる接着剤の開発は、非常に難しいことが現実です。
次々と開発される新材料にも対応できるような接着剤の開発が求められています。
 

(2)解体性

一度接着した構造物を解体する場合などは、接着接合した材料同士を剥がす必要があります。これまでの接着剤は、「くっつく」ことと「はがれにくい」ことが主眼に置かれていましたが、今後、建築や工業(モバイル端末や自動車など)の用途で利用されるようになると、「解体性」も重要な評価軸の1つとなります。
 

(3)SDGsへの取り組み

今後は、接着剤にもリサイクル性の向上、環境に配慮した原材料の使用、品質管理の徹底など、SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)への取り組みが求められます。単に、高性能な接着剤を開発すれば良いのではなく、地球環境を踏まえたうえでの開発が必要となっています。

 


【豆知識】付箋の誕生秘話・・失敗からの新しい発見(接着剤うんちく)

接着剤のトレンド、課題

1969年、スリーエムの研究員・スペンサー・シルバーは、強力な接着剤の研究を行っていました。ところが、研究はなかなか思うように進まず、失敗を繰り返してばかり。
そんな中で「良くくっつくけど、簡単にはがれる」という奇妙な接着剤が出来上がりました。
普通ならば失敗作として扱われるその接着剤から、同社の研究員アート・フライは「讃美歌集のしおりとして使えるのではないか」というアイデアを閃きます。シルバーがその奇妙な接着剤を作ってから、5年後のことでした。フライはその「糊の付いたしおり」を付箋紙やメモ用紙として製品化することを考えます。ポスト・イット誕生の瞬間です。そして1980年、ついにポスト・イットは全米で発売されました。そしてあっという間に大ヒット製品になったのは皆さんもご存じだと思います。


 
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・I)
 


※参考文献・参考サイト


 

 

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