異種材料接着に向けた金属の表面処理技術と接着性の改善
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今あらゆる分野でリサイクルが求められています。
リサイクルは、対象によって技術的な難易度に差があります。
特に難しいのが複合材のリサイクルです。素材Aと素材Bとの接合によって形成した複合材ABを元のAとBに戻す解体工程が必要になるからです。
素材の接合には接着の手法が用いられることが多いのが実情です。このため、使用時には十分な接着力を発揮し、役目を終了する段階では容易に剥離することが可能な接着、即ち「解体性接着」の技術開発が必要です。
解体性接着の開発は、リサイクルへの関心の高まりの中で、2000年頃から活発化しました。現在もその状況が続いています。
接着と剥離には矛盾する要素が含まれていますので、十分な接着力と容易な剥離を両立させるのは簡単なことではありません。
この矛盾を解決するために、多くの場合、解体性接着は下記思想で設計されています1)2)。
図1は解体性接着のイメージを例示したものです。
このケースでは、硬化性のエポキシ接着剤中に熱膨張性のマイクロカプセルを混入させた状態で接着剤として使用し、解体時に加熱というスイッチを入れてマイクロカプセルを膨張させることで剥離させています。
【図1 解体性接着;熱膨張性マイクロカプセル混入エポキシ接着剤のケース】
解体性接着剤としてはこれ以外に下記のタイプも報告されています。
しかし従来の解体性接着には課題もあります。
解体時に接着層だけでなく、接着されていた素材もダメージを受けるという問題です。
例えば、剥離時の加熱に長時間を要する場合には、回収したい素材が熱ダメージを受けてしまいます。
大阪大学の倉敷教授らは、素材のダメージを回避するために、熱硬化性のエポキシ樹脂にSiCセラミックス粒子を加えておき、解体時に外部熱源としてマイクロ波を照射することにより剥離するという技術を発表しています3)。
図2は、セラミック粒子による自己発熱効果により粒子周辺の接着剤層のみが加熱される様子を表しています。
【図2 セラミック粒子による自己発熱効果で接着剤層を局所加熱 ※引用3)】
倉敷教授らはこの手法をアルミニウムとGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)の接着に適用しています。
また神戸大学の西野教授らは、同じくマイクロ波照射を利用して、接着剤中にセラミック粒子ではなくイオン液体を添加するという手法を発表しています4)。
アクリル接着剤によるポリイミドの接着に適用した例を図3に示します。
接着剤中でのイオン液体の存在により、マイクロ波による誘電加熱を接着剤層に局所的に行うことが可能になると報告しています。
【図3 イオン液体の添加による接着剤層の局所加熱 ※引用4)】
解体時の素材ダメージを抑制でき、しかも簡単に剥離できるとされる技術がDIC株式会社から最近発表され、注目を集めています5)。
図4は同社の解体性接着のイメージ図です。最大の特長は接着層を引き出して伸ばすだけで簡単に剥離できる点です。これまでの解体性接着とは全く異なる仕組みの、非常に使い勝手の良い接着剤と言えます。
【図4 DIC社の解体性接着のイメージ ※引用5)】
十分な接着力があるのかどうかが気になりますが、同社は図5のデータを発表しており、通常の両面テープと同等の接着力を有するとしています。実用的価値のある、興味深い発表です。なお、この接着剤の組成は公表されていません。
【図5 DIC社の解体性接着の接着力 ※引用5)】
現時点ではまだ解体性接着剤の利用はあまり進んでいません。
しかし、DIC社のような斬新なものの市場への投入により、一気に利用が拡大する可能性もあります。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
《引用文献、参考文献またはサイト》