体外診断用医薬品とは?最低限知っておきたい体外診断薬の基礎知識を整理
体外診断用医薬品(IVD、In Vitro diagnostics)は、侵襲性が低く、様々な診断領域で活用されている人気の診断方法のひとつです。
ゲノム解析や分子標的薬の開発が進み、テーラーメード医療が年々普及する中、体外診断用医薬品の需要はより拡大しています。また、一昨年より始まったコロナ禍では、自宅で簡単に行える新型コロナウイルスの抗体検査としても、体外診断用医薬品が一般市場において注目を集めました。
この記事では、体外診断用医薬品について最低限おさえておきたい基礎知識を解説します。
目次
1.体外診断用医薬品とは?
体外診断用医薬品(IVD)は、下記の条件をともに満たす診断用医薬品です。
- 人または動物に使用できる
- 身体を直接的に検査せず行う
医薬品医療機器等法や厚生省薬務局長通知により、「定義」「範囲」が定められています。
(1)体外診断用医薬品の定義
体外診断用医薬品は、医薬品医療機器等法で下記の通り定義されています。
…「体外診断用医薬品」とは、専ら疾病の診断に使用されることが目的とされている医薬品のうち、人又は動物の身体に直接使用されることのないものをいう。 (医薬品医療機器等法第2条第14項) |
(2)体外診断用医薬品の範囲
体外診断用医薬品の範囲は、厚生省薬務局長通知で規定されています。
人に由来する検体で、下記の「目的」「対象」をともに満たし、かつ下記「形態」を原則満たすものが該当します。
目的 | 下記いずれかを目的とするもの ① 各種生体機能(各種器官の機能、免疫能、血液凝固能等)の程度の診断 ② 罹患の有無、疾患の部位又は疾患の進行の程度の診断 ③ 治療の方法又は治療の効果の程度の診断 ④ 妊娠の有無の診断 ⑤ 血液型又は細胞型の診断 |
対象 | 下記いずれかを検出・測定するもの ① アミノ酸、ペプチド、蛋白質、糖、脂質、核酸、電解質、無機質、水分等 ② ホルモン、酵素、ビタミン、補酵素等 ③ 薬物又はその代謝物等 ④ 抗原、抗体等 ⑤ ウイルス、微生物、原虫又はその卵等 ⑥ pH、酸度等 ⑦ 細胞、組織又はそれらの成分等 |
形態 | ① 複数の試薬により、「対象」に該当する物質・項目を検出・測定する形態(いわゆるキット) なお、キットから標準試薬(例、標準血清)を除いたものは、これに含まれる。 ② 単試薬により、「対象」に該当する物質・項目を検出・測定する形態 |
2.体外診断用医薬品のクラス分類
体外診断用医薬品は、疾病診断等に使用した際、診断情報の生命維持等に影響するリスクにより、クラスⅠ、Ⅱ、Ⅲに分類されます。
- クラスⅠ: 定期的に行うことが推奨される検査項目で、疾病診断の他、健康診断や未病検査等に使用されます。
- クラスⅡ: 生命予後に直接かかわる可能性は低いものの、診断結果により医師の診断や治療が必要な検査小目が該当します。
- クラスⅢ: 主に診断結果が生命予後に関わる疾病診断薬が該当します。
一般的に、クラス分類の数が大きくなるほど、生命予後に直接関わる検査項目です。
クラス分類 | 一般的名称(一例) | |
クラスⅠ | 較正用標準物質があり、自己点検が容易なもの。ただし、一般用検査薬を除く。 診断情報リスク:低い |
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---|---|---|
クラスⅡ | 一般用検査薬、及びクラスⅢと比較し診断情報リスクが低いもの。 診断情報リスク:低い |
|
クラスⅢ | 診断情報リスクが高いもの、及び新規品目。 診断情報リスク:高い |
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3.体外診断用医薬品の製造販売承認申請区分
体外診断用医薬品は「自己認証」「第三者認証」「厚生労働省(PMDA)」のいずれかで審査されます。
クラス分類 | 基準適合性 | 審査 |
クラスⅠ | 適合 | 自己認証(審査機関なし) |
不適合 | 厚生労働省 | |
クラスⅡ | 適合 | 第三者認証(登録認証機関) |
不適合 | 厚生労働省 | |
新規 | ||
クラスⅢ | 適合 | |
不適合 | ||
新規 | ||
基準外 |
厚生労働省の製造販売承認審査が必要な体外診断用医薬品は、さらに下記4つに区分されます。
- 承認基準品目
- 基準不適合品目
- 新規品目
- 基準外
承認申請区分により、申請方法や手数料が異なります。
体外診断用医薬品の承認申請をする際には、該当する区分を必ず確認しましょう。
(1)承認基準品目
承認基準が定められている品目のうち「体外診断用医薬品の一般用検査薬への転用について」(2016年12月25日付け薬食発1225第1号)に従ったガイドラインに基づき承認申請された一般用検査薬で、承認基準に適合するものが該当します。
(2)基準不適合品目
認証・承認不要基準の定めのある品目のうち、その基準に適合しないものが該当します。
また、既存品目と異なる臨床的意義が生じる場合や、測定原理・検出感度が異なる場合、放射性医薬品等も基準不適合品目です。
(3)新規品目
新規項目を検出・測定しようとする品目が該当します。
(4)承認基準外品
新規品目として承認された検査項目と同一の検査項目で、承認基準通知別表に一般的名称がまだ記載されていない品目が該当します。
4.体外診断用医薬品に要求される主な条件
体外診断用医薬品の製造販売申請では、主に下記の4点が要求されます。
- 体外診断用医薬品の製造販売業許可
- 国内製造業登録・外国製造業者登録
- 製造販売承認・認証・届出
- QMS適合性調査への適合
「体外診断用医薬品の製造販売業許可」では、人的要件やQMS体制省令、GVP省令の適合要件等を整備する必要があります。
また「国内製造業登録・外国製造業者登録」「QMS適合性調査への適合性」では、製造管理体制や品質管理体制の整備が必要です。
さらに「製造販売承認・認証・届出」の「承認・認証」審査では、製品設計や管理の妥当性が確認されます。
体外診断用医薬品の承認申請を行う際には、事前に要求条件を満たしているか確認しておきましょう。
5.体外診断用医薬品の申請から承認にかかる期間
日本は、諸外国と比較して、体外診断用医薬品をはじめとする医薬品や医療機器の承認申請にかかる期間が長いことが指摘されています。
一方で、日進月歩の進化を遂げる医学に対応するため、平成31年度より、承認申請期間の短縮に対する取り組みが行われると共に、目標期間が設定されました。
研究開発が盛んに行われる体外診断用医薬品において、最短期間で承認を獲得することは非常に重要です。
体外診断用医薬品の承認申請を行う際には、不備で承認が遅れることがないよう心がけましょう。
(1)通常品目の目標期間は7か月
医薬品医療機器総合機構によると、専門協議を要しない通常品目の目標期間は7か月とされています。
(2)専門協議等品目の目標期間は12か月
医薬品医療機器総合機構によると、コンパニオン診断薬を含む専門協議等品目の目標期間は12か月とされています。
6.体外診断用医薬品と研究用試薬の相違点
体外診断用医薬品と類似の製品に、試験用試薬があります。
研究用試薬は、医薬品医療機器法の対象とならないため、開発後すぐに販売可能ですが、結果の信頼性が低く、疾病診断等の目的で使用することはできません。
実際に、新型コロナウイルス流行当初には感染確認の目的で試験用試薬が一般に広く流通し、消費者庁から注意喚起が出された例もあります。
体外診断用医薬品と試験用試薬の使用用途・保険適用の可否は下記の通りです。
使用用途 | 保険適用 | |
体外診断用医薬品 | 患者の疾病診断等、診断目的で使用する。 | 可(保険適用申請が必要) |
試験用試薬 | 基礎研究や臨床研究で、実験中の検体に対して使用する。 | 不可 |
(1)体外診断用医薬品
体外診断用医薬品は、医薬品医療機器法の対象で、承認されると臨床的有用性が認められた製品として販売できます。
体外診断用医薬品の承認申請は、保険適用申請の前段階として行われることが一般的です。
体外診断用医薬品承認後、保険適用申請すると医療保険が適用できます。
(2)試験用試薬
試験用試薬は医薬品医療機器法の規制対象外で、診断等の目的で使用することはできません。
販売においては「試験用」「研究用」等、体外診断用医薬品との差異を明記する必要があります。
臨床研究等の蓄積成果で臨床的有用性が認められると、体外診断用医薬品として承認申請できる場合もあります。
7.速やかな承認を得るために
競争の激しい体外診断用医薬品の開発において、いかにコストを抑え最短期間で申請承認を得るかが開発成功のカギを握るといっても過言ではありません。
しかし、日本は諸外国と比較しても承認申請にかかる期間が長いことが課題としてあげられています。
また、体外診断用医薬品の承認申請は、検査項目や先発薬の有無などにより細かく区分されており、申請に不備がある場合、さらに長期間要すると推測されます。
文献調査や臨床性能試験に不安がある場合は、専門機関・専門業者へ相談するとよいでしょう。
(アイアール技術者教育研究所 S・N)
《参考文献・サイト》
[1]体外診断用医薬品の取扱いについて(◆昭和60年06月29日薬発第662号)
[2]体外診断用医薬品の製造販売承認申請について(◆平成28年02月22日薬生発第222005号)
[3]体外診断⽤医薬品の開発・承認申請・審査について, 医薬品医療機器総合機構
[4]「体外診断用医薬品の一般的名称」, 医薬品医療機器総合機構