創造力を共有するためのデータベースが必要
とにかく情報の収集・分析・整理をやってみる
我々は、通信やコミュニケーション手段、あるいは「情報記録技術」の進歩によって、情報の洪水を作り出すことに成功しました。
また、情報の洪水の中から、課題を解決するために必要な情報を抽出(検索)するための技術も飛躍的に進歩しています。
我々はそうした進歩に目を奪われ、情報やその処理技術を肝心の「課題を生み出す」ために活用する努力を怠ってきたと考えられます。それどころか、一つの情報それ自身が持つ価値にばかり注目し、価値ある情報を「見つけ出す」ことが、課題を生み出すことであると「錯覚」までしていたのかもしれません。
確かに情報には、それ自体が「課題」として直接的に役立つものもあります。
しかし、そういった情報に「たまたま出会う」ことばかりを期待していてはいけません。
いま、我々が課題を解決するために活用している「情報処理技術」を、課題を生み出すために活用することも考える必要があるのです。
このようなデータベース(ツール)が必要
- 表構造の設計が手間(途中で構造を作り替えられることが必要)
- 多数の表を管理しきれない(分野が違うと分類の視点が違う。構造が異なる複数の表になる)
- その時点での創造力が精一杯(創造力は限りなく進化or変化するが、表を自在に最構造化できない。視点の柔軟な転換が難しい)
- 解析能力が不十分(構造化の労力がペイしない。コンピュータへの情報の与え方に工夫が足りない)
上記の問題点を解決することが出来れば、創造力を「共有」することが可能になります。
まず、分野が異なった任意の複数の表を一つに纏めることが出来るはずです。それは、複数の人間が作った表を一つにすることが可能であることを意味します。
つまり、複数の人間が、創造力を一つに「統合」して共有することです。
それが可能になれば、個人や組織の創造力は格段にアップし、筋の良いコンセプトが生まれやすくなります。
しかも、先人たちの優れた創造力を後輩に伝えることができるから、後輩は、先輩の創造力に磨きをかけて、より優れた創造力を自分のものにできるのです。
それには次の5つを満たすデータベース(ツール)が必要と考えられます。
- 異なる種類、広い範囲の情報を蓄積できる
- 蓄積した情報を分類・構造化できる
- 視点を変えて再分類・再構造化できる
- 以上の作業・操作を、いつでも開始・中断・再開できる
- 別々に蓄積した結果(情報)を1つに統合できる
確かに創造力は共有でき、しかもクリエイティブでいられる!
表で分類した情報が、その人の、ある時点での創造力であるなら、このようなツールで構造化した情報は、いつでも再構造化できて進化させることができます。
だから、 いつの時点でも「創造力」であると言えます。しかも、複数の人間の表を統融合して一体化できるから、複数の人間が創造力を共有することが、確かに出来るはずです。
年を取ると記憶力が低下し、創造力が衰えます。
それは思考の過程で、構造化・再構造化の途中結果がスムーズに頭に蘇らないという指摘があります。
このようなツール(*)を使えば、そんな心配は不要となります。
蓄積されている情報の量は増えることはあっても減ることはないのです。
そしてその蓄積構造も、再構造化を行うたびに進化していきます。
人の創造力が、年を取れば取るほど、より豊なものとなっていくことのメリットを生かすことが大事です。
久里谷が作成した「創造力を共有するためのデータベース」とは?
この研修で実演した「ツール(*)」とは、米国企業のR&D部門を牽引してきた、久里谷美雄氏が自身の体験を元に、独自で開発したソフトです。
「本ツール」の基本コンセプトは、
- 切り口項目を自由に設定できる「キーワード(KW)ボックス」を装備
- 「KWボックス」は、6個のセル(カテゴリー)に分類され、KWは3階層の無限構造を装備
- 「KWボックス」の中は、自由に追加・変更ができる。つまりデータの「構造化・再構造化」が可能な機能を装備
- アウトプットは、どのセル・どの階層のKWであってもX軸・Y軸を自由にとることが出来、多面的な解析が可能
というもので、Microsoft Accesss®で作りこんだソフトウェアでした。
[キーワードボックスのイメージ]
[材料分野におけるキーワードシステムの一例]
(日本アイアール 知的財産活用研究所 N・Y)
※この連載コラムは、1997年4月に実施した、久里谷美雄先生による若手技術者向け研修のテキストを基に作成しています。
【久里谷美雄先生(故人)について】
久里谷氏は日本企業、外資系日本企業、米国企業で商品開発をしてきた第一線の企業研究者でした。他人が気付かない新しいコンセプト商品を研究するのが好きで、むしろそのこと楽しんでいた風でもあります。
彼は「筋の良い研究テーマを生み出す」にはどうすれば良いのかを絶えず考え、自ら実践してきた筋金入りの技術者で、自分の研究開発の体験を基にしているので説得力があります。
イノベーションにおいて日本が米国に後れをとった原因がハッキリと観てとれます。
裏返せば、半導体のように日本が新興国に負けることも十分に予測できます。
この研修から25年経つが、いまだに内容は新鮮で、ちっとも陳腐ではないような気がします。(N・Y)