【医薬品製剤入門】貼付剤 (テープ剤/パップ剤) の基礎知識
貼付剤(テープ剤、パップ剤)は、病院で処方されることもありますが、筋肉痛や肩こり等で、市販の湿布薬を貼ることが多いかと思います。
医薬品剤形としては、比較的なじみのある剤形といえるのではないでしょうか。
今回は貼付剤の基礎知識についてご紹介します。
目次
1.貼付剤とは?
日本薬局方では、
“(1) 貼付剤は,皮膚に貼付する製剤である.本剤には,テープ剤及びパップ剤がある.”
とあり、
テープ剤は、“(1) テープ剤は,ほとんど水を含まない基剤を用いる貼付剤である.本剤には,プラスター剤及び硬膏剤を含む.”、
パップ剤は、“(1) パップ剤は,水を含む基剤を用いる貼付剤である.”
と記載されています。
テープ剤は、薬物と粘着剤をプラスチックフィルムなどの支持体に薄くのばしたもので、プラスター剤や硬膏剤は、生ゴムに酸化亜鉛や樹脂等を練り合わせて膏体とし、布やプラスチックフィルムに伸ばしたものです。
パップ剤(成形パップ剤)は、粘着性のある水溶性高分子や吸水性高分子などの基剤と薬物を混和して布等に塗布したものです。水分含量が多く、膏体塗布量が多いことなどが特徴です。
インドメタシンやロキソプロフェンなどの抗炎症薬が湿布薬として市販されています。
l-メントールやサリチル酸メチルを配合した冷感タイプ、唐辛子エキスを配合した温感タイプなどもあります。
経皮吸収製剤(TTS)
皮膚に適用する製剤には、経皮吸収型製剤も含まれます。
主に全身作用を目的とし、吸収促進剤などを用いて有効成分の放出速度を適切に調節された製剤をいいます。
ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、ツロブテロールなどの製品が知られています。
経皮吸収製剤には、「マトリックスタイプ」と「リザーバータイプ」があります。
マトリックスタイプは、粘着性高分子に薬物を溶解・分散させたものです。薬物の放出速度は残存物量に依存し、時間とともに減少していきます(1次放出)。
リザーバータイプは、薬物貯蔵層中の薬物を放出制御膜によって、薬物の放出を経過時間によらず一定(0次放出)にしたのです。
パップ剤貼付剤の条件
パップ剤貼付剤の条件としては、下記のものが挙げられます。
- 適度な粘着性を有すること(貼りやすく剥がしやすい)
- 柔軟性、伸縮性に富むこと(支持体)
- 長時間貼付してもかぶれなどの障害を起こさないこと(皮膚刺激) 等々
2.貼付剤のメリット・デメリットは?
貼付剤は、一般的に下記のようなメリットがある製剤です。
- 老人小児などの経口投与が難しい患者にも投与できる
- 投与後の急激な血中濃度が上昇することがないこちから副作用の軽減につながる
- 初回通過効果を受けない
- 副作用等問題が生じたときすぐに剥離により投与を中断できる
- 薬物の血中濃度を長時間一定に保てる(リザーバータイプの経皮吸収製剤)
- 消化器官症状を回避できる 等々
ただし、下記のようなデメリットもあります。
- 皮膚の状態など個体差が生じやすい
- かぶれ等の皮膚障害がおきる場合がある(化学的刺激、物理的刺激等)
- リザーバータイプは、基本的には切断できない(大きさを調節できない) 等々
3.貼付剤の製造方法
貼付剤の製法としては、日本薬局方に下記の記載があります。
“(2) 本剤を製するには,通例,高分子化合物又はこれらの混合物を基剤とし,有効成分を基剤と混和し均質として,支持体又はライナー(剝離体)に展延して成形する.また,放出調節膜を用いた経皮吸収型製剤とすることができる.必要に応じて,粘着剤,吸収促進剤などを用いる.”、
テープ剤の製法としては、
“(2) 本剤を製するには,通例,樹脂,プラスチック,ゴムなどの非水溶性の天然又は合成高分子化合物を基剤とし,有効成分をそのまま,又は有効成分に添加剤を加え,全体を均質とし,布に展延又はプラスチック製フィルムなどに展延若しくは封入して成形する.また,有効成分と基剤又はそのほかの添加剤からなる混合物を放出調節膜,支持体及びライナー(剝離体)でできた放出体に封入し成形して製することができる.”、
と、
パップ剤の製法としては、
“(2) 本剤を製するには,通例,有効成分を精製水,グリセリンなどの液状の物質と混和し,全体を均質にするか,水溶性高分子,吸水性高分子などの天然又は合成高分子化合物を精製水と混ぜて練り合わせ,有効成分を加え,全体を均質にし,布などに展延して成形する.”
と記載されています。
基本的にはいずれも、有効成分を基剤と混和し支持体に展延して成形しますが、薬剤膏体混合物の支持体への展延には、有機溶剤を用いて溶解・混和する溶剤法と、薬剤、合成ゴム系高分子、粘着付与剤等を高温で溶解・混和するホットメルト法があります。
ホットメルト法は熱に不安定な薬剤には使用できず、溶剤法は乾燥不十分による残留溶剤に注意が必要になります。
4.貼付剤に用いる主な添加剤
貼付剤の添加剤は、増量剤、増粘剤、架橋剤、粘着剤、吸収促進剤などが用いられることが多いようです。
《経皮吸収製剤と吸収促進剤》
経皮吸収製剤は、薬物を皮膚の真皮にある毛細血管に送達する必要があります。
そのためには、表皮、特に最も外側の角質層を通過させることが重要となってきます(皮膚通過の最大の律速段階)。
吸収促進剤には、脂肪酸、エステル類、テルペン類、ピロリドン類、界面活性剤、する補オキシド類など種々のものが知られており、その作用としては、ケラチンタンパク質の構造を緩める作用を有するものや脂質・結合水のラメラ構造を破壊するものがあります。
5.貼付剤に関する製剤試験法
日本薬局方では、粘着力試験法〈6.12〉および皮膚に適用する製剤の放出試験法〈6.13〉に、経皮吸収型製剤は製剤均一性試験法〈6.02〉適合することが定められています。
(1)粘着力試験法
「貼付剤の粘着力を測定する方法」で、「ピール粘着力試験法,傾斜式ボールタック試験法,ローリングボールタック試験法及びプローブタック試験法がある.」として、日本薬局方にそれぞれの試験法が記載されています。
(2)放出試験法
「皮膚に適用する製剤からの医薬品の放出性を測定する方法」で、「医薬品の有効性と放出性の関係は個々の製剤特性に依存するため,本試験法は,製剤ごとの品質管理に有効な試験法である.特に,経皮吸収型製剤等では,有効成分の放出挙動の適切な維持管理が必要である.」とされています。
日本薬局方には、具体的に、パドルオーバーディスク法、シリンダー法が記載されています。
(3)製剤均一性試験法
個々の製剤間での有効成分量の均一性の程度を示すための試験法です。
有効成分の含量が、表示量の一定範囲内にあることを確認し、均一性を保証します。製剤含量の均一性は、含量均一性試験又は質量偏差試験のいずれかの方法で試験されることになっています。
日本薬局方6.02に詳細な試験法が記載されています。
6.貼付剤の医薬品(種類別の数と主な医薬品)
添付文書情報で、各パップ剤貼付剤を調べてみると、以下のようになりました。
種類 | 医薬品数(*) | 主な医薬品 |
貼付剤 | 100以上 | 「インドメタシン貼付剤」「フルルビプロフェン貼付剤」等多数 |
テープ剤 | 60以上 | 「ケトプロフェンテープ」「ジクロフェナクナトリウムテープ」「ツロブテロールテープ」「リドカインテープ」「リバスチグミン経皮吸収型製剤」「ロキソプロフェンナトリウム水和物テープ」等 |
パップ剤 | 30以上 | 「フェルビナクパップ」「MS温シップ(サリチル酸メチル配合外用剤)」等 |
(*)医薬品数はジェネリック医薬品なども含みます。
7.貼付剤に関する特許・文献の調査
(1)貼付剤に関する特許検索
J-Platpatを用いての特許を調査してみました。(調査日:2021.5.27)
① キーワード検索
- 貼付剤/CL ⇒ 2346件
- テープ剤/CL ⇒ 136件
- パップ剤/CL ⇒ 396件
② IPC(国際特許分類)による検索
国際特許分類としては、「A61K9/70」(特別な物理的形態によって特徴づけられた医薬品の製剤 ・布,シートまたは繊条基材[2])がありますので、これを用いて検索してみます。
- A61K9/70/IP ⇒ 10121件
- A61K9/70/IP * (貼付剤/CL +パップ剤/CL +テープ剤/CL) ⇒ 2107件
A61K9/70は、貼付剤の上位概念と思われますので、実際の調査では注意が必要と思われます。
③ Fタームによる検索
貼付剤・パップ剤のFタームとして「4C076AA72」(医薬品製剤 形態 ・布,シート;繊条基材 ・・貼付剤;パップ剤)があります。
- 4C076AA72/FT ⇒ 8969件
また、その下位概念として、次のようなFタームがあります。
- 形状、構造に特徴: 4C076AA73/FT ⇒ 5565件
- 膏体層、粘着層に特徴: 4C076AA74/FT ⇒ 2767件
- 支持体に特徴: 4C076AA76/FT ⇒ 1369件
- 布、不織布: 4C076AA77/FT ⇒ 623件
- プラスチック: 4C076AA78/FT ⇒ 289件
他にも多数の下位概念があり、実際の調査では絞り込みに利用できると思われます。
適用部位として、経皮のFターム「4C076BB31」があります。
- 4C076BB31/FT ⇒ 20495件
- 4C076BB31/FT * 4C076AA72/FT ⇒ 7815件
- 4C076BB31/FT * テープ剤/CL ⇒ 105件
- 4C076BB31/FT * パップ剤/CL ⇒ 301件
以上の調査結果の中には、「非水系貼付剤」「フェンタニル含有貼付剤」「皮膚外用貼付剤及びその製造方法」「フルルビプロフェン含有含水系貼付剤」「テープ剤及び経皮吸収製剤」等々、多数の貼付剤に関する特許が検出されました。
(2)貼付剤に関する文献調査
J-STAGEを用いて文献調査を行ってみました。(調査日:2021.5.27)
- 全文検索: 貼付剤+パップ剤+テープ剤 ⇒ 2022件
- 抄録検索: 貼付剤+パップ剤+テープ剤 ⇒ 97件
- 全文検索: (貼付剤+パップ剤+テープ剤)and 医薬 ⇒ 820件
- 抄録検索: (貼付剤+パップ剤+テープ剤)and 医薬 ⇒ 6件
これらの中には、「粘着テープ剤」「ツロブテロール貼付剤とサルメテロール吸入の比較」「成型パップ剤の薬剤学的検討」「高年令患者におけるニトログリセリン貼付剤の経皮吸収について」「成型パップ剤の製剤設計に関する研究」といったタイトルの文献が見られました。
ということで、今回は貼付剤の基礎知識についてまとめてみました。
特許公報や文献の内容についてご興味がある方は、ぜひ調べてみてください。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)