「鉄道車両」で特許を検索してみた[鉄道と特許①]
「鉄道車両」とは、線路またはそれに準じる軌道の上を走行し、鉄道の列車を運行するために用いられる車両のことを指します。
日本で鉄道車両と言えば通勤電車や新幹線等、旅客を乗せて走る「電車」を思い浮かべる方がほとんどだと思います。実際に、日本に存在する鉄道車両の9割は電車です。
しかし、世界に目を向けると世界で活躍する鉄道車両は荷物を運ぶ「貨車」がメインです。
存在する鉄道車両の9割近くを貨車が占め、電車は貨車の20分の1程度。
さらに客車も電車ではなく「機関車」がけん引するものがほとんどです。
では、日本、そして海外の特許出願状況はどうなっているのでしょうか?
今回は、発明の名称に「鉄道車両」と入力して検索した結果について分析してみました。
目次
1.「鉄道車両」の検索結果:日本特許編
検索式 | 件数 |
[1]発明の名称:鉄道車両+鉄道車輌+鉄道車輛+鉄道用車両+鉄道用車輛+鉄道用車輌 | 7,702 |
[2]生死情報(最新):〇 | 3,054,260 |
[3]論理式:1*2 | 2,621 |
【表1.日本特許の検索結果】
[検索条件:生存限定、使用データベース:CyberPatent Desk]
【図1 「鉄道車両」で検索した場合の出願件数ランキング(日本特許)】
ということで、発明の名称を対象として「鉄道車両」と検索した場合の出願件数上位3社は、
1位:川崎重工
2位:日立製作所
3位:日本車輛製造
でした。
ちなみに、日本国内で鉄道車両を製造する主な会社は5社。
日本メーカーの鉄道車両の売上高ランキング(2019年)は下記の通りです。
- 売上高 5803億円 日立製作所
- 売上高 1365億円 川崎重工業
- 売上高 946億円 日本車輌製造
- 売上高 673億円 総合車両製作所(旧 東急車輛製造)
- 売上高 410億円 近畿車輛
[※出典:業界動向サーチ]( URL:https://gyokai-search.com/ )
図1の結果を見てみると、売上高ランキング=出願人ランキングというわけではなさそうです。
第4位:日本製鉄は鉄道車両そのものを製造していませんが、鉄道車両部品として、車輪・車軸・ブレーキディスク・駆動装置・台車・連結器を開発・製造・販売しています。
第6位:東海旅客鉄道(JR東海)はもちろん鉄道車両そのものを製造していませんが、2008年、日本車輌製造の株式50.1%を取得し連結子会社化しています。それ以前からも鉄道車両製造をする各社との共同出願人としての出願が多く、第6位という結果になっています。
2.「鉄道車両」の検索結果:グローバル編
それでは世界に目を移しましょう。
日本での出願件数No.1の川崎重工業は世界のNo.1なのでしょうか?
【表2.グローバルな特許検索結果】
[検索条件:生存限定、使用データベース:Orbit]
【表2.鉄道車両で検索した場合の出願件数(世界)】
世界の1位はCRRC、2位はALSTOM、3位に川崎重工業という結果になりました。
表2に登場する外国企業について簡単にご紹介します。
1位:CRRC(中国中車)
中国中車(ちゅうごくちゅうしゃ、中国語: 中国中车股份有限公司)は、中国の中央企業(国有企業)です。
2014年に、中国南車集団と中国北車集団が合併して出来た世界最大級の鉄道車両メーカーです。
2位:ALSTOM
アルストムは、鉄道車両の製造をはじめとして、通信・信号・メンテナンスなど、鉄道に関連する総合的技術およびソリューションを提供するフランスの多国籍企業です。
2021年1月、ボンバルディアの輸送部門(ボンバルディア・トランスポーテーション)の買収を完了し、世界2位の鉄道車両メーカーとなりました。
5位:Korea Railroad Research Institute
韓国鉄道技術研究院(かんこくてつどうぎじゅつけんきゅういん、通称:KRRI)は、鉄道分野の技術開発と政策研究を通じた鉄道交通の発達と鉄道産業の競争力強化を目的に設立された、大韓民国で唯一の鉄道総合研究機関です。未来創造科学部(大韓民国の国家行政機関)傘下の公共機関に指定されています。
ちなみに、世界の鉄道車両売上高ランキング(2019年)は
- 売上高 3兆4352億円 CRRC(中国)
- 売上高 1兆9000億円 ALSTOM(フランス)+BOMBARDIER(カナダ)
- 売上高 1兆 672億円 SIEMENS(ドイツ)
[※出典:業界動向サーチ]( URL:https://gyokai-search.com/ )
ということで、世界の売上高トップクラスになると、日本で売上高ランキングNo.1の日立製作所よりもはるかに大きな売上高であることが分かります。
国別の特許出願件数推移
図3に発行国ごとの件数推移(発行数上位6国分のみ)を示しました。
【図3.鉄道車両で検索した場合の発行国の件数推移(発行数上位6国分のみ)】
この推移からも、近年は中国の件数が爆発的に増えている事が分かります。
また鉄道車両の売上高ランキングにも出願件数ランキングにも上位にロシアの企業は入って来ていませんが、ロシアの発行数は中国、日本、韓国に次いで第4位となり、米国や欧州よりも多い事が分かります。
なお、鉄道運行会社の世界売上高ランキングにおいてはロシア国鉄は第5位となっています。(下記参照)
- 1位 中国国家鉄路集団/China State Railway Group Company
- 2位 ドイツ鉄道/Deutsche Bahn
- 3位 フランス国鉄/SNCF
- 4位 JR東日本/JR East
- 5位 ロシア国鉄/Russian Railways
[※出典:鉄道運行会社の世界売上高ランキング(2020年版)より]
ロシア鉄道はモスクワとサンクトペテルブルクを結ぶ高速鉄道路線の建設を2022年に着工予定。建設にかかる総費用は約2兆3,800億円です。車両製造者については明らかにされていません。
3.「鉄道車両」と特許分類(IPC)
「鉄道車両」で検索した母集団について、特許公報に付与されていた特許分類(IPC)を確認してみました。
IPC付与件数(メイングループ)の上位5つの分類と技術内容は以下の通りでした。
- B61D27: 鉄道車両独特の暖房,冷房,換気または空気調和
- B61F5: 台車構造の細部;台車と車両台枠との接続;曲線通過時に車軸または台車を調整するかまたは自動調整を可能にするための配置または装置
- B61D17: 車体構造の細部
- B61C17: 部品の配列または配置;他に分類されない細部または付属品;制御装置および制御方式の使用
- B61L15:合図の目的のために車両または列車上に設けた表示器
かつて「世界のビッグ3」と言われたアルストム、シーメンス、ボンバルディアのはるか上を行くCRRC。
2019年の売上高では海外勢と大きく引き離されていた日本のNo.1日立製作所も、最新の売上高ランキングでは世界3位のシーメンスと並ぶ程に急浮上してきている模様です。
今後も鉄道車両メーカーの競争から目が離せません。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 M・T [元・新幹線運転士])