【分析化学を学ぶ】熱分析の種類と各種法の原理・特徴は?
目次
1.熱分析とは?
化学分析というと「分光分析」や「質量分析」などを想起される方が多いと思いますが、その他に「熱分析」という分析法もあります。
「熱分析」は、例えばプラスチックなど材料特性を測定するなど、材料工学などの分野などで多く用いられる分析法です。
「JIS(日本工業規格) K 0129熱分析通則」では「物質の温度を一定のプログラムによって変化させながら、その物質のある物理的性質を温度の関数として測定する一連の方法の総称」と定義されています。
つまり物質の温度を制御しながら、その応答を分析する手法です。
[図1.熱分析の概念図とよく使われる種類]
物質は、温度変化によって発生する応答として、融解やガラス転移などの相転移と熱分解などの化学反応があります。
物質の温度を制御しながら(加熱または冷却)、その物理的または化学的性質の変化を測定することで、物質の特性を知ることが熱分析の目的です。
2.熱分析の種類
測定の手法によって、温度を変化しながら質量(重量)変化を検出する熱重量分析(TG又はTGA)、熱的な変化を測定する示差熱分析(DTA)や示差走査熱量測定(DSC)、力学的性質の変化を検出する熱機械分析(TMA)と動的粘弾性測定(DMA)などがあります。
以下、各種法の概要と基本的な原理についてご紹介します。
(1)熱重量分析(TGまたはTGA)[重量変化]
TG (Thermo Gravimetry)、TGA(Thermo Gravimetric Analyzer)は、試料の温度を一定のプログラムによって変化または保持させながら、試料の質量を温度或いは時間の関数として測定する方法です。
温度の上昇によって、物質の昇華、蒸発による重量減少や、分解・酸化などの化学反応による重量変化があります。熱重量分析では、温度上昇による重量変化を検出することで、物質の特性を決定することができます。
TGA測定は、サンプル重量を連続的に測定しながら温度変化させて、発生するガスを接続したFTIRや質量分析で解析することもできます。 その解析結果は、X軸に温度、Y軸に重量変化をプロットしたチャートで表されます。 データは一次微分曲線をプロットし、その変曲点を決定することが多いです。
熱重量分析の一般的な応用としては、
- 特徴的な分解パターンの分析による材料の特定
- 分解機構および反応速度論の研究
- 試料中の有機物の含有量の決定
- 試料中の無機物の含有量の決定
が挙げられます。
また、熱重量分析は熱安定性評価にも使用できます。
ある温度範囲で、もし熱的に安定であれば、重量変化は観測されません。
TGAの測定チャートに勾配がほとんどないか、全く無い場合は、重量減少は無視できるとみなされます。
これらの応用は、高分子材料の研究に特に有力です。
熱重量分析は、他の分析装置と組み合わせることで、同一の試料から同時に多くの情報を得られます。
よく見られるのはTG―DTAとTG-DSCがあります。
(2)示差熱分析(DTA)[熱的変化]
DTA(Differential Thermal Analysis)は熱分析技術の一つで、温度差を検出する測定法です。
試料は基準物と同じ熱履歴を受けて、基準物質に対して、試料の発熱あるいは吸熱が検出されます。
DTA曲線はガラス転移、結晶化、溶融および昇華といった変化に関するデータを示します。
(3)示差走査熱量測定(DSC)[熱的変化]
DSC(Differential Scanning Calorimeter)は物質の熱容量を測定する熱分析の手法です。
試料と基準物質を同時に加熱・冷却して、試料の比熱容量や相転移や融解に伴う吸発熱などが測定されます。
ただし、装置の汚染や腐食を避けるために、分解反応などでガスが発生するような測定は通常行いません。
[※関連コラム:示差走査熱量計(DSC)の基礎知識はこちら]
(4)熱機械分析(TMA)[長さ変化]
TMA(Thermo Mechanical Analyzer)は温度の変化によって、ガラス転移、熱膨張、軟化等寸法変化を伴う現象を測定する方法です。
TMAでは形状変化の伴う現象として、熱膨張、熱収縮、ガラス転移、硬化反応、熱履歴の検討等が主な測定対象となります。融解、結晶化も検出可能です。
試料の形状、種類と測定の目的に合わせて、適切なモード(圧縮モードや引っ張りモードと強さのパラメータ)を選択して、幅広い材料に関して、特性を調べることができます。
(5)動的粘弾性測定(DMA)[長さ変化]
動的粘弾性測定(DMA:Dynamic Mechanical Analysis)では、サンプルに様々な変形モード(曲げ、引っ張り、せん断、圧縮)を周期的に加え、熱機械的な物性変化あるいは粘弾性変化を、時間、温度と周波数の関数として測定する装置です。
DMA測定は融解の初期状態は可能ですが、形状が保てなくなると測定できなくなります。
DMAは熱可逆性物質、熱硬化性樹脂、エラストマー、セラミック、金属などの材料について、機械的及び粘弾性特性を測定するために用いられる重要な技術です。
3.熱分析手法のまとめ
それぞれの熱分析手法で観測される現象及び物性を整理すると、以下のようになります。
物性 | |||||||||
手法 | 融解 | ガラス転移 | 結晶化 | 反応(硬化重合) | 昇華蒸発脱水 | 熱分解 | 膨張/収縮 | 熱履歴検討 | 比熱容量 |
TG | - | - | - | △ | ○ | ○ | - | - | - |
DSC | ○ | ○ | ○ | ○ | △ | △ | - | ○ | ○ |
TMA | △ | ○ | △ | ○ | △ | - | ○ | ○ | - |
DMA | △ | ○ | ○ | ○ | △ | - | - | ○ | - |
[表1.各分析手法観測される現象及び物性]
以上、今回は熱分析の種類と概要について解説しました。
試料の種類や測定の目的に合わせて、最適な熱分析手法を選択していく必要があります。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)