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今回は「ふすま」を取り上げてみたいと思います。
「ふすま」といっても、「小麦のふすま」のお話です。
小麦ふすまは、小麦粒の外皮の部分や胚芽などの表皮の部分をいいます。
漢字では、『麩』もしくは『麬』と書きます。
外国ではこの硬い表皮の部分を「ブラン」と呼ぶため、小麦ブランとも呼ばれています。
小麦ふすまは、栄養価も高く、注目の食材でもあります。
目次
小麦の製粉工程で取り除かれる小麦の皮の部分を「ふすま」といい、この部分はお米でいうと「米ぬか」に相当します。
小麦は大きく分けると、胚乳(83%)、表皮(15%)、胚芽(2%)の3つの部分から構成されていて、小麦粉はこの中の胚乳部分を取り出したもので、胚芽と表皮は、製粉工程で取り除かれます。
細かくは、小麦ふすまは果皮、種皮、珠心層、アリューロン層からなっています。
小麦製粉時の副生成物として、日本国内で年間 50万トンもとれるといわれています。
小麦ふすまの主な成分としては、不溶性食物繊維、鉄分、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、銅などのミネラル、フィチン酸やビタミンB群、ビタミンEなどが含まれています。
不溶性食物繊維は、水分を吸収して膨張する性質があります。
消化管内で水を吸って膨張し、腸壁を刺激して、腸の蠕動運動を促すことにより、食物の消化管通過時間の短縮、糞便量を増加して、便の排出を促進します。
また、ふすまに含有される食物繊維の機能としては、糖の拡散・吸着による血糖値の上昇緩和、アラビノキシランのナトリウム吸着排泄による血圧上昇抑制作用、過敏性腸症候群や胃がんのリスク低減等々が報告されています。
不溶性食物繊維は、大豆、ゴボウなどにも多く含まれていますが、小麦ふすまの食物繊維の含有量は42.8%と穀物の中ではトップクラスです。
小麦ふすまの不溶性食物繊維としては、セルロースやヘミセルロース、リグニンがあげられます。
ヘミセルロースは様々な糖(キシロース、マンノース、グルコース、アラビノースなど)が一見不規則につながった多糖分子の総称です。
水に対して不溶性で、植物の細胞壁でリグニンやセルロースと共に複合体を形成しており、植物細胞壁多糖の30~40% を占めています。セルロースがホモ多糖類であるのに対して、ヘミセルロースはヘテロ多糖に分類されます。
代表的なヘミセルロースとしては、マンナン、β-1、3-1、4-グルカン、キシラン、キシログルカンがあげられます。
ヘミセルロースは、その特徴から、高付加価値的に利用できる潜在能力を持っていると考えられています。
ナイアシンは、”ビタミンB3“とも呼ばれるものであり、糖質・脂質・たんぱく質の代謝に不可欠とされ、エネルギー代謝の補酵素として重要です。
トリプトファンの含量の少ないトウモロコシを主食とする地域では、時にナイアシン欠乏になることがあります。欠乏すると、ペラグラ、皮膚炎、神経炎などを引き起こすとされています。
フィチン酸は、哺乳動物の細胞に存在して、細胞の分化、増殖、シグナル伝達などに関わっているとされています。
金属キレート作用が強く、多くの金属と結合することから、マグネシウムや亜鉛のミネラルの利用率を低下させるとされ、亜鉛欠乏症を引く起こすことが示唆される一方で、腸管内では、ミネラルを吸収しやすくしているともいわれています。
また、ヒドロキシラジカルの生成の阻害活性すなわち抗酸化作用を有するとの報告もあります。さらに、食物繊維に含まれるフィチン酸を多く摂取すると、大腸がんの発生率が少ないことが報告されています。その他、抗脂肪肝作用、抗酸化作用などがあるようです。
フィチン酸は、酸味料、pH調整剤、保存剤などに用いられています。
フェルラ酸は、植物に広く存在しており、植物の細胞壁構造に深く関与しています。
抗酸化作用を持つフェノール化合物で、工業的には抗酸化剤として利用されています。
乳がんや肝臓がんに対する制癌作用があるとの報告もあります。
フェルラ酸は、米ぬかを原料として生産されており、小麦ふすまはあまり利用されていないようです。
小麦ふすまは硬い繊維質があるためフェルラ酸を抽出しにくく、生産効率が低いことが原因となっています。
アリューロン層は、植物生理学的には内胚乳に属し、内胚乳部の最外層になります。
製粉時に果皮、種皮などとともにふすまとして分けられています。
アリューロン層は単細胞層であり、その成分は他のふすまを構成する成分とは異なっていて、たんぱく質、脂質、灰分が多く含まれています。
上記以外にも、小麦ふすまを摂取することによる種々の報告がなされています。
その一部をご紹介します。
ふすまは多くの栄養素を含む食材ですが、これまでは一部の健康食品を除き、食用に利用されることはほとんどありませんでした。
理由としては、小麦ふすまを他の食材に入れることによって食味が低下することにあります。ふすまを入れると美味しくないと感じることがあるようです。
そのため小麦ふすまのほとんどは、牛、豚など家畜の飼料として利用されています。
食物繊維の豊富な外皮(ブラン)を主原料にした商品が、トクホ(特定保健用食品)を取得して販売されたりしています。
また、コムギフスマのエキスを成分とした化粧品も販売されているようです。
その他の用途として、醸造産業で古くから麹菌の各種酵素の高発現に固相培地として小麦ふすまが用いられています。
麹菌は小麦ふすまなどを基質とした固体培養が可能で、固体培養特異的な遺伝子発現に必要な条件(高温, 菌糸成長阻害, 低水分活性)などが明らかとされています。
しかし、小麦ふすまのほとんどが、家畜の飼料にされるか、廃棄されているようですので、栄養豊富な小麦ふすまの有効利用が望まれています。
小麦ふすまに関する特許や文献として、どのようなものがあるのか簡易的に調べてみました。
(※いずれも2020年5月時点における検索結果です。)
特許データベース”J-PlatPat”で小麦ふすまの特許を調べてみました。
論理式: [小麦ふすま/TX] ⇒1681件
J-PlatPatの特許・実用新案分類照会(PMGS)で、キーワード「ふすま」で検索をしてみると、以下のFIが見つかりました。
これらを用いて小麦ふすまを検索すると・・
この内容を見ると、ふすま添加食品やふすま分画方法等に関する出願が検出されました。
また、上記キーワード検索の論理式: [小麦ふすま] ⇒1681件 の分類コードランキングを見てみると次のようになりました。
順位 | 件数 | FI | 説明 |
1 | 562/1681 | A23L1 | 食品,食料品,または非アルコール性飲料 |
2 | 393/1681 | A23L33 | 食品の栄養改善;ダイエット用製品;それらの調製または処理 |
3 | 293/1681 | C12N9 | 酵素,例.リガーゼ(6.);酵素前駆体 |
4 | 250/1681 | C12N1 | 微生物,例.原生動物 |
5 | 243/1681 | A61K31 | 有機活性成分を含有する医薬品製剤[2] |
6 | 208/1681 | C12N15 | 突然変異または遺伝子工学;遺伝子工学に関するDNAまたはRNA,ベクター,例.プラスミド・・ |
7 | 201/1681 | A21D2 | ベイキング前または最中の添加材料による穀粉または生地の処理 |
8 | 200/1681 | A61K35 | 構造未知の物質またはその反応生成物を含有する医薬品製剤 |
ということで、やはり食品分野の出願が多いようです。
J-PlatPatの特許・実用新案分類照会(PMGS)で、キーワード「ふすま」で検索をしてみると・・
4B015 酒類(カテゴリ : 食品・微生物)
CG03 清酒用原料・・ふすま・糖・胚芽・麦芽
他に、GG03(仕込み原料・添加物)、NG03 (蒸留酒の原料・添加物)
4B017非アルコール性飲料(カテゴリ : 食品・微生物)
LG12 植物質原料・ぬか、ふすま
4B023穀類誘導製品(カテゴリ : 食品・微生物)
LE08 製品形態・ぬか,ふすま
・・・等々、10以上のFタームが見つかりました。
調査の目的によってFタームを使い分ける必要がありそうです。
【※参考:FI/Fタームの確認はこちら】
・J-PlatPat:特許・実用新案分類照会(PMGS)(外部リンク)
科学文献データベース「J-stage」で検索してみました。
この290件の中には、「食後血糖・インスリンに及ぼす影響」「機能性食品素材の開発」「化学誘発大腸癌の発生におよぼす大麦ふすまと小麦ふすまの比較」等々の文献がヒットしました。
昨今の糖質制限ダイエットブームの中、スーパーやコンビニでも小麦ふすまを取り入れた商品を見かける機会が多くなりました。今後の小麦ふすまの技術動向にも注目ですね。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
☆食品分野・バイオ系技術の特許調査・文献調査は日本アイアールまでお気軽にお問い合わせください。