3分でわかる技術の超キホン 磁性材料と磁気特性の必須基礎知識を解説!軟磁性材料と硬磁性材料の違いは?
「磁性材料」とは強磁性の性質を示す材料です。
「強磁性」の性質は、磁場を印加しない状態、磁場を取り去った状態でも磁化をもつことです。
磁化が大きくなく、小さい磁化しか示さない強磁性材料もあります。
強磁性の他に、磁場が印加された状態で磁化をもつ「常磁性」、磁場が印加された状態で、その磁場の方向と反対方向に磁化をもつ「反磁性」の材料があります。
磁性材料は1900年代初期に開発された鉄系に希土類系が加わり、自動車産業のハイブリッド化、電気自動車、家電・OA製品、地球温暖化対策の太陽光発電、風力発電などに大きく関わっています。
今回は、磁性材料の基本的な知識について、軟磁性材料と硬磁性材料に分けて解説します。
磁性材料とヒステリシス曲線
磁性材料の特性は図1に示した、磁場を逆方向も含め交互に印加したときの「ヒステリシス曲線」で表すことができます。横軸は磁場H、縦軸は磁束密度Bもしくは磁化Mを使います。
原点oの状態の磁性材料に磁場Hを印加すると 材料内の磁束密度Bが増加します。
この原点oから点a点までの曲線を「初磁化曲線」と呼びます。
初磁化曲線上の点と原点を結ぶ直線の傾きを透磁率μと呼び、( μ=B/H )、初磁化曲線の原点付近の透磁率をμi、最大の透磁率をμmaxと定義します。
さらに磁場を増やすと点aで磁束密度が飽和します。このときの磁束密度を飽和磁束密度Bsと呼びます。
ここから磁場を小さくしていき、磁場が「0」になる縦軸との交点bの、磁性材料の残留磁化に対応する磁束密度を残留磁束密度 Brと呼びます。 残留磁化と残留磁束密度の値は一致します。
さらに逆向きに磁場を印加し、磁束密度、磁化が「0」となる横軸との交点cの磁場を保持力 Hc と呼びます。
磁束密度、磁化が「0」になる磁場(B-H曲線とM-H曲線の横軸との交点)の値は異なるので注意が必要です。
保持力は逆向きの磁場により磁化を反転させる外部磁場の大きさです。
さらに磁場を逆向きに印加していくと点dに到達し、その後磁場を正方向に印加すると交点e、交点f、点aと変化し、ループ状のヒステリシス曲線となります。
軟磁性材料とは?
「軟磁性材料」は機械的硬度が小さいということではなく、磁場が印加されると磁化されやすく、磁場を取り去ると元に戻りやすい(逆向きの磁場により磁化が反転されやすい)、すなわち透磁率μが大きく、保持力Hcが小さい材料です。
例えばトランスの鉄心や磁気ヘッドに使う磁性体は出来るだけ小さな磁場で、大きく磁化され反転しやすいことが望まれます。
一般に Bs が高い軟磁性材料ほど Hc が大きくなる傾向があり,軟磁性材料において高 Bs と低 Hc を両立させることは難度が高いのです。
Hcを小さくするためには、逆向きの磁場をかけたときに磁区が反転しやすいように、磁区と磁区の境界となる磁壁の空隙・不純物を減らすなどの方法があります。
硬磁性材料とは?
「硬磁性材料」は機械的な硬度が大きいということではなく、永久磁石として大きな残留磁束密度Brを持ち、さらに、次に述べる反磁場の影響を考えた時に必要となる大きな保持率Hcをもつ材料です。
反磁場とは?
「反磁場」とは、有限の大きさをもつ磁性材料を外部磁場により磁化するとき、磁性材料自体の磁化のためにその両端に生じた磁極によって磁性材料の内部に現れる外部磁場と逆向きの磁場です。
反磁場の強さHdは磁化の大きさMに比例し、下記となります。
Hd=-N・M/μ0
ここでμ0は真空の透磁率、Nは反磁場係数です。
図2.は、外部磁場Haにより、磁化された磁性材料(棒状磁石)の磁性材料の表面にN(+)極、S(-)極が現れた状態です。この磁極は外部磁場Haを取り去ったのちに、外部に磁場Houtを発生させるのですが、同時に、磁性体内部にも磁場Hdを発生させます。これが「反磁場」です。
反磁場の大きさは、磁化Mの大きさに比例すると同時に、磁石の磁化方向の形状に依存します。
式で示せば、
Hd = -N・M /μ0
で与えられます。ここでμ0は真空の透磁率、Nは反磁場係数です。
Nを反磁場係数といい、図2.のように、棒状磁石の場合は長手方向に磁化した場合が一番小さく、また寸法比(長さ/直径)が大きいほど小さくなります。
磁性材料の内部に働く磁場(有効磁場 Heff )は、外部からかけた磁場を Ha とすると
Heff = Ha + Hd = Ha-D・M/μ0
で与えられ、これが磁性材料を磁化する原動力となります。
したがって、磁化方向を正方向とすれば Heff>0 でなければなりません。
硬磁性材料における反磁場の影響
硬磁性材料(永久磁石)を使う目的は、まわりに強い磁場をつくることですが、このとき反磁場も大きくなります。従って、外部磁場を0にしても、永久磁石自身の残留磁化の作る反磁場により、逆方向に磁場がかかり、永久磁石自身の磁化を打ち消そうとします。このとき、Hc が小さいと、消磁してしまいます。
反磁場と残留磁化Mrの関係を、図3のヒステリシス曲線により説明します。
図3の縦軸は磁化M,横軸は外部磁場から反磁場を差し引いた有効磁場です。
Heff=Ha-N・M/μ0
永久磁石を使用時には外部磁場を取り去るので、有効磁場は反磁場となります。
Heff=-N・M/μ0
そこで、永久磁石を使用時に得られる残留磁化Mrは、ヒステリシス曲線と、外部磁場と磁化Hの直線
M= – (μ0/N)・H
の交点で与えられます。
ここで、保持力がHcよりも小さいHc‘の永久磁石の場合、交点の残留磁化Mr’は保持力の大きい場合のMrよりも小さくなってしまいます。このため、永久磁石は Hc が大きくなければなりません。
なお、反磁場係数を、磁性材料の形状を工夫して小さくすると、直線M= – (μ0/N)・H の傾きはマイナスの絶対値が大きくなり、垂直方向に変化するので、上記の交点は点bに近くなり、その結果大きい残留磁化Mrを得ることができます。
硬磁性材料の性能
硬磁性材料の性能は、磁束密度と保持力の積で評価されます。
硬質磁性材料の磁化曲線にいて、図4のヒステリシス曲線の第2象限(減磁曲線と呼びます)の一点からH軸とB軸へ垂線を引いてできる長方形の面積を「エネルギ積」と呼び BH で表します。
そして、減磁曲線状で最大となるエネルギ積を「最大エネルギ積」と呼び (BH)max で表します。
主な磁性材料の「磁気特性」まとめ
表1に代表的な軟磁性材料、表2に硬磁性材料の磁気特性を示しました。
[表1. 軟磁性材料の磁気特性]
材料 | 成分 | 比透磁率 | Hc | Ms | 用途 |
A/m | Wb/m2 | ||||
ケイ素鉄 | Fe, Si | 7000 | 40 | 2.0 | 大きな磁化 |
パーマロイ | Ni, Mo, Fe | 100000 | 4 | 1.1 | 透磁率が大 |
アモルファス | Fe, Si, B | 3000 | 8 | 1.8 | 磁気異方性がない |
軟磁性材料(ソフト磁性材料)は、透磁率が大きく、保磁力HCが小さい特性を持ちます。
磁場に対する応答が早く、磁場の正逆方向変更が可能な材料として、様々な用途で用いられています。
[表2. 硬磁性材料の磁気特性]
材料 | 成分 | Br | Hc | (BH)max/2 | 特徴 |
Wb/m2 | A/m | J/m3 | |||
アルニコ磁石 | Fe, Co, Ni, Al | 1.2 | 4400 | 20000 | 機械的強度が高い |
サマリウム磁石 | Co, Sm, Fe, Cu | 1.1 | 600000 | 100000 | キュリー温度が高い |
ネオジム磁石 | Fe, Nd, B, Dy | 1.2 | 790000 | 180000 | 最も強力な磁石 |
一方、硬磁性材料(ハード磁性材料)は、保磁力Hcが大きく、最大エネルギー積(BH)maxが大きい特性を持ちます。
外部の磁界の影響を受けても磁化された状態を維持し、強力な永久磁石として様々な用途で使われます。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 Y・O)
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